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黄金ではないけれど

全体公開 刑事探索者 2 2121文字
2026-01-13 10:47:04

バレンタイン投票用ssです。投票先は1~3位まで帰代変さんで! こちら2本目となります。
貰った蜂蜜のお酒で温まる🐸さんなssです。ほんのりパラクラ匂わせあり。

黄金ではないけれど

 刑事たちの集う宿舎では、夜に度々ささやかな飲み会が開かれている。毎回のように参加する者もいれば、たまに顔を出す程度の者もいるし、始まりも終わりも何となくといった緩い飲み会だ。
 帰代も度々参加しているが、酒は程々でどちらかといえば肴作りとストッパー要員の側面が強い。人前で酔うほど飲まないのは、公安の潜入捜査官として当然の心得だと思っている。たとえ卓を囲むのが信頼のおける同僚であってもだ。
 今宵もそんな飲み会が開かれ、三々五々の解散となった頃。不意に赤い顔をした参加者の一人が、片付けにキッチンへ引っ込もうとする帰代を呼び止めた。
「なぁ、変。これ、もらってくれね?」
 差し出されたのは、小さめの酒瓶だった。銘柄の書かれたラベルには、ハニカムが描かれている。
「さっき出し忘れたのか?」
 飲み会の酒類は基本的に持ち寄りとなっている。帰代はこの酒もその持ち寄り品の一つだと考え、小さな溜息を吐いて続けた。
「日持ちするもんだし、次の機会に出せば良いんじゃないか?」
 しかし、酔いで赤くなった顔に困ったような表情を浮かべた相手は、開いた片手で軽く頭を掻きながら口を開く。
「スーパーで見かけて衝動買いしちまったんだけど、どうにも飲む気になれなくてさ……飲みの席だと持ってきた手前口を付けないのもな~ってことで、変の方で適当に飲むなり菓子に使うなりしてくれないか?」
 誤魔化すように明るく付け加えられた後半の言葉に、何か事情がありそうだと察しながらも帰代は追及しなかった。この宿舎に集められた刑事たちは、誰もが他人に言えない何かを抱えている。
「まったく、飲めもしない物を買うんじゃない」
 若干わざとらしく説教を垂れながら、帰代はその小さな酒瓶を受け取った。
 ほっとしたように肩の力を抜いた相手は、小声で「サンキュ」と礼を言って踵を返す。自室へ戻るその前に、振り返ってひらりと手を振ってきた。
「ちなみに、冬はお湯割りがお勧めらしいぜ?」
 味が濃厚かつ度数が高めの酒なので、ストレートで飲めなくもないが何かで割って飲むのが主流だろう。
「わかったから、ちゃんと前を見て歩け酔っ払い」
 そう注意をして、帰代は酒瓶を片手に今度こそ片付けをするべくキッチンへ向かった。


 少し前のそんなやり取りを思い出したのは、底冷えする真冬の夜のことだ。
 風呂上がりの身体が瞬く間に冷えていくのを恨めしく思う帰代の目に、棚の隅に入れられた小さな酒瓶が映った。
 寝酒には丁度良さそうだと取り出してラベルをしっかり読めば、ハーブも入っているらしい。身体が温まりそうだと、帰代は耐熱グラスを取り出してから酒瓶の封を切った。
 トクトクとグラスに中身を注げば、蜂蜜とハーブの香りがふわりと鼻腔をくすぐる。そのまま少しだけ味見をしてみたが、強い甘さは帰代の好みから少々外れており眉根が寄った。度数はともかく、割って甘味を薄めた方が飲みやすいだろう。
 もしこれが大の甘党である未来から来た後輩の手に渡っていたら、度数を考えずに飲んで盛大に酔っぱらう大惨事になっていたかもしれない。自分が受け取っておいて良かったと、帰代は勝手に納得して頷いた。
 グラスで揺れる蜂蜜色の液体にポットの湯を注げば、陽炎を立てながら薄い金色に変わる。こんなものだろうと、帰代はグラスを持ったまま移動した。
 暖房の利いたリビングのソファに腰掛け、冷えた足先をホットカーペットに乗せて一息吐く。
 そして、手に持ったグラスにそっと口を付けた。
 真っ先に感じるのはやはり蜂蜜由来の甘さだが、湯で薄められたそれは眉を顰めるほどではない。複数のハーブの風味と合わさって、むしろ好ましい味わいに変わっていた。
 温かな液体が喉を通って胃に落ちていく感覚が心地良い。鼻から抜ける蜂蜜とハーブにアルコールの混じった香りも、寒さで強張った身体から優しく力を抜いてくれるように感じた。
「悪くないな」
 食事と合わせるには少々甘過ぎるが、こうして寝る前に軽く飲む分には丁度良い。
 一口飲むごとに、胃の中からぽかぽかと身体が温まっていく。それに伴って少しずつ近づいてくる眠気は心地よく、これなら落ち着いて眠れそうだと帰代は満足げな吐息を零した。
「代わりに、あいつでも飲めそうな日本の酒を買って行ってやるか」
 あまり酒に強くない相手の顔を思い出しつつ、度数が低めで日本らしい酒をいくつか思い浮かべる。
「酒に合うつまみも必要だな」
 考えながら、帰代は空になったグラスを洗って干した。後は歯を磨いて寝るだけだ。
 機嫌よく洗面所へと去っていく帰代の背を、少し中身を減らした蜂蜜酒の瓶が見送っていた。

(あとがき)
バレンタイン投票用ssで、ぬくぬく🐸さん第2弾! FA票を🐸さんに全つっぱすべく、せっせと書いております💕 今回はお酒で温まってもらいました☺
 クトゥルフではお馴染みのアイテム黄金の蜂蜜酒ですが、蜂蜜のお酒自体は普通に売っており二十歳以上なら誰でも買えます。お湯割りマジでお勧めなので、甘いお酒に抵抗が無い方はお試しあれ✨


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