第57回トワスト、テーマ「朧気な記憶」制作作品です。制作時間約30分。ランフォードとジェフの話ですが、少し変化球です。
@xxxyueyunxxx
ある村で、ひとりの少女が行方不明になっていました。
深い森に飲まれて道を失ったのか。それとも、野生の獣に喰われてしまったのか。
何にせよ、村の誰もが少女の生命は諦めていました。
少女が村から姿を消して二週間後のことです。
「ただいま」
「……リラ! お帰り。今までどこに行ってたの?」
村の人々は少女、リラの周りに駆け寄りました。
そして次々とリラに問いかけましたが、リラは何も思い出せません。
どこにいたのか、そして何をしていたのか。誰かと一緒にいたのか。リラは何もはっきりとは覚えていないのです。
リラが覚えていたのは、これだけでした。
「誰かが側にいたような気がするの。背が高いひとがふたり。とても鮮やかな金髪のひとと、艷やかな黒髪のひと。……だめ……これ以上は、何もわからない……」
何をやっても、リラは村から離れていた間の記憶を完全には取り戻せませんでした。
「――元の場所に、無事戻れたようだな」
「ねえ、ジェフ。また君は綺麗に彼女の記憶を全て消してしまったね。……そこまでしなくてはいけなかったのかね……」
「馬鹿。俺様達の記憶が残ると、他の余計な記憶も残るだろうが。――あれでいいんだ、ラン。全て忘れた方が、あの娘のためには良い……」
村を取り巻く森の中に、背の高いふたり組が立っていた。
ひとりは艷やかな黒髪の男だ。前髪をオールバックにして、後髪を長く伸ばしている。黒曜石の瞳を持つその男は口髭を生やし、どことなく品の良い紳士のような雰囲気を漂わせていた。
もうひとりは鮮やかな金髪の男だ。ウェーブした長く豪奢な腰までの金髪を、一見無造作に垂らしている。こちらの男には髭はなく、鋭いシトリンの瞳が村を見据えていた。
このふたりは、人間ではなかった。ふたりは、人間界と並行して存在する異世界『魔界』に生を受けた半永久的な生命を持つ異種族『魔族』である。
たまたまこの世界を訪れていたふたりは、ある大きな街の薄暗い建物の中で少女を発見した。あわやというところで少女を奪還したふたりは、少女の受けた傷を癒し、どこの子かを尋ね――そして、連れ帰った。
「覚えていない方が良いことなんて、ごまんとある。あの娘の身に何が起ころうとしていたかも然り。俺様達の正体も然りだ」
「――そうだね。今回の記憶は、無いほうが幸せに暮らせるかも知れないね。……私たちのことは、忘れないでほしかったけど」
「それは詮無きことだ。――行くぞ、ラン。長居しすぎたら、村の者に見つかってしまう」
「わかったよ、ジェフ。そろそろ行こうか」
ふたりの男は、揃いの黒いマントを翻すと、森の奥へと消えていきました。
彼らのことが残っているのは、リラの朧気な記憶の中にだけ。それも、早晩消えていくでしょう。
もしかしたらあなたの隣にも、そんな存在がいるかも知れません……