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禍福禍福福

全体公開 銀魂二次創作 6 50 2258文字
2026-01-18 14:30:01

真選組動乱篇の少し後。土方と沖田が警察のお仕事をしている車中の話/全年齢/土方+沖田

Posted by @bbbcde519

 ふぁ、と全身の力が抜けるような声が車内に響いた。助手席に座る総悟の口がこれ以上ないくらいにまるく空き、もう一度大きく欠伸をするのが見えて、自分の気力さえ持っていかれそうになる。
「おら、気ィ抜いてんじゃねえ」
「張り詰めろったって無理があらァ、張り込み開始から何時間になると思ってんで?」
「まだたったの三時間だろ」
「たったの? なんの冗談ですかィ。こっちゃあ座りっぱなしで身体中ガッチガチですぜ。こんな格好させられるのも気に入らねえし」
 総悟は指を曲げ伸ばしして、首をぐるりと回したついでに鬱陶しそうに袖を払った。総悟が今着ている白地にくっきりした藍の子持縞は、監察方から拝借した物だ。確かに派手だが粋な装いも新鮮で悪くないと思うが。総悟は普段、無地の地味な着物しか着ないから嫌なんだろう。
「お前、柄物嫌いだっけ? わりと似合ってると思うけどな」
「着慣れねえからかなあ。どーにも落ち着かねえんです」
「そうやってると生粋の江戸者みたいに見えるぞ」
 うるせえや、そんな変な格好した奴に言われたかねえと総悟は鼻の頭に皺を寄せる。俺は思わず、苔色をもっと煤けさせたような地味な袷に目を落とし、慌てて張り込み相手が入って行った雑居ビルの入り口に視線を戻す。
「何が変なんだ、フツーだろ」
「アンタ顔が派手だから、そういうとぼけた色着てるとすげーちぐはぐ」
「うるせえ。警察に見えなきゃいいんだよ」
 胸元の煙草に手が伸びかけて、押しとどめる。総悟は口ではぐちゃぐちゃ言いつつ、張り込み中一度も昼寝していない。だから俺も遠慮をして、張り込みが始まってから二本しか煙草を吸っていない。おまけにずっと運転している。そんな俺の配慮を分かっているのかいないのか、総悟の愚痴は止まらない。
「大体なんで俺を張り込みに連れてくるかなァ。どー考えたって向いてないでしょうに」
「自分で言うな。分かってんだろ」
「は? 分かんねえですけど。説明しろよ」
 総悟は不機嫌そうに鼻を鳴らし、横目でこちらを睨み、すぐに目線を戻した。わずか逸らされた首から顎の線は削いだように鋭い。こいつはここ一ヶ月の激務のせいで、少しばかり痩せた。
……監察が足りねえんだよ」
 お前には慣れねえことさせて悪いとは思ってる、と続ける。本音だった。隊の再編成もできておらず、死んでいった奴の分の仕事は浮きっぱなしで、それでも日々の業務は増えていく。総悟は不思議そうに問うた。
「監察、そんなに死んでましたっけ? ザキは復帰したでしょ」
「山崎には、他の監察の素性を洗わせてる」
 不機嫌そうな色を隠さない目の色が、ようやく得心がいったように少し細められた。そういう、人を見透かした表情をすると、総悟は二、三歳は年嵩に見える。稼業の生臭さの割に子どもらしさを失わない奴だというのに。その顔のまま、揶揄う色を隠そうともしない声で「あんた、篠原が伊東さんについてたの、気にしてたんですねィ」と言った。
「監察ってのは情報の要だ、身中の虫には美味すぎる餌がごろごろある。ちょっとでも信用できない奴は置いとけねえ」
 ふうんと適当な相槌を打った総悟は、対象者出てきませんね、と呟きながらペットボトルを開け、少しだけ唇を湿らす。その間も意識は尾行対象が出てくるはずの入り口から離さない。こいつは案外きちんと警察官をしている、とふと思う。
「にしても土方さん」
「なんだよ」
「俺この前言いませんでしたっけ、あんたの首ィ狙ってるって。忘れちまったんですか」
「覚えてるよ」俺は短く言った。「忘れるわけねえだろ」
 戦乱の中扉を蹴り飛ばして現れた総悟はまるで雷だった。怪我もものともせず残業代をねだり俺に発破をかけた奴の顔も声も、目の裏に焼き付いている。あの時ばかりは救世主と呼んでやってもいいような気がした。そんな生やさしいものではないと知っているけれど。
「信用できる手駒がよりによって俺なんて、土方さんも不運だなァ」
 そうでもねえだろ、と俺は言った。実際、俺は自分を不運と思ったことはない。悪運は売るほどあるし、何より。
「たまたま俺を拾ってくれた奴が、びっくりするくらいのお人好しで」
「はァ」
「おまけにそいつにくっついてたガキは、鬼のように強くて、俺の大将を裏切らないって分かってんだ。これ以上ないってくらい運がいいだろ」
 そうだ。俺は運がよかった。気まぐれで俺を拾い上げてくれた近藤さんの人柄に惚れてここまで来れたことも、近藤さんにひっついていたガキが、神に愛された剣の天才だったことも。ガキが俺に懐かないことくらい、大したことではない。
 奴は目線だけをこちらに寄越して俺の横顔をじいっと見、三秒ほど黙した後、ふふ、と声を立てて笑った。
「そりゃそうだ」
 じゃそのラッキーの代わりにあんたは命狙われてるのも我慢しなきゃなあ、可哀想に。
 そんな風に憎まれ口を叩く総悟の声が上機嫌だったから、今なら大丈夫だと俺は煙草に火をつける。案の定、総悟は何も言わなかった。
 三本目の煙草は大層美味かった。


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 真選組動乱篇後のバタバタしてる時に慣れない仕事をしてる土方さんと沖田くんのお仕事話でした。
 土方さんがいろんな意味で自分は運が良かったなと思う一因は、近藤さんのそばに沖田くんがいたことだと思ってたらいいなという、そういう萌です
 タイトルは禍福は糾える縄の如しだけど福がちょっと多いとまあそれだけで運がいいよねという意味合いでした


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