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寒い夜に手を繋ぐみたいに〜キリシタンすり抜け主と沖田組〜

2026-01-22 19:46:29

前作《加州清光〜お揃い協走曲〜》https://privatter.net/p/11831871

《寒い夜に手を繋ぐみたいに》

「わたしにとっての、かしゅー?」

不意に投げ掛けられた、その問いかけに。
彼女はのんびりと茶菓子を口にしながら、きょとん、と目を丸くして、ぱちぱちと瞬いた。

「うん、聞きたいなって」
そう言って安定は、ひどく真剣に頷いた。
……あー、ほら、僕たち、長い付き合いだからさ。やっぱ気になって」
直前までの真摯さを誤魔化すみたいに、取ってつけたような言い訳をぶら下げながら。

審神者が月に一度しか帰城できない以上、主と過ごす時間はいつでも争奪戦だ。
とはいえ、呼ばれたばかりの新しい刀はその限りでは無い。
その刀剣男士が本丸に馴染むまで、主人が特別に時間を割いて、ゆっくり共に過ごし、語らう。それはとても、とても大事で必要なことだから、と。彼女は笑う。
主人が定めたその時間だけは、他の刀も邪魔しない。
そんな暗黙のルールがいつの間にかできあがって、この本丸はずっと、そうやってきたのだと清光から聞いた。

つまり、余計な邪魔が入らず、こうして無条件にゆったりと彼女と過ごせるのは今だけなのだ。
安定は呼ばれてまだまだ日が浅い。だからこそ、こうして迎え入れてくれた新しい主は、いったいどんな人なのだろう、と興味は尽きなかった。

それを知る機会はわずか月に一度、非常に限られている。
だからこそ安定は、新参刀の特権を使って、あえて自分のことより、清光のことを聞きたがった。

刀剣男士と審神者の在り方も色々ある。
初期刀ともなれば、どこの本丸でも一層強い絆で結ばれているもの。

将と腹心という枠組みに収まる場合もあれば、それらを大きく逸脱する場合もある。
無二の親友や、家族や兄弟、果ては恋人同士や夫婦であったりもする。
あっさりとドライな関係に落ち着く場合もあれば、清光の性格も手伝ってじっとりと湿度の高い関係性であることも少なくない。
健全な支え合いに終始することもあれば、不健全な依存関係を形成していることだって少なくない。そのどれもが本丸の形で、何が正解というわけでもない。

だが、どんな本丸でも、初期刀と審神者の関係性は必ず本丸全体に影を落とす。
いつだって清光と安定は写し鏡だ。だから、清光が主にどう心を向けられているかを通して、安定は新しい主の為人を推し量ろうとしていた。

「かしゅーは、」

彼女は、ふわっと幸せそうに微笑んで、隣にいる清光の手のひらに、優しく手のひらを重ねた。
先程まで共に茶菓子を食べながら穏やかに語らっていた清光が、ふっと柔らかな微笑を返す。

それは、まるで息をするように、ごく自然な結び付きに見えた。
ひどく満たされた眼をして、彼女はこう答えた。
「生まれて初めて『護る』って言ってくれたひと」

安定は、予想のどれとも違う答えに、瞳をゆっくりと見開いた。
「安心ってどんな気持ちか教えてくれたひと。安堵ってどんな温度か教えてくれたひと。心強いってどういう意味か教えてくれたひと」

障子の向こうで、ぎし、と白木を踏む音がした。

茶菓子を届けに来た前田藤四郎だった。
今日の側使えとして、主人に茶とおやつを届けに来た前田は、清光と安定の相部屋に入る前、声を掛ける前に、そっと入室を止められた。

近侍の鶴丸が、背中を預けて外にいる。
立ち寄った前田に、鶴丸はウィンクして唇に指を置いた。
部屋に入らず、会話に入らず、ただ静かに近侍として自主的に役目を全うしている。彼女の時間が邪魔されないようにと。

「誰よりも最初に、わたしをいちばんにしてくれたひと。そんな誰かに出会えるなんて、夢にも思わなかった」

障子の向こうから漏れ聞こえてくる声に、どうやら込み入った話をしているらしい、と察した前田は、ぺこりと頭を下げ、鶴丸に盆を渡してそっと立ち去った。

代わりに茶菓子を預かった鶴丸が、再び存在を静かに空気に溶かした。

「夢より夢みたいな、幸せな今をくれたいちばん最初。かしゅーじゃなかったら、みんなといられる幸せな今に辿り着けなかった」

安定に会えたのもそうだよ、と。
彼女は自分の幸福の道のりを、清光と安定の延長線上に置いた。

「だいすき。だいすきだよ。だから、こんなにたくさん、かけがえない『嬉しい』をくれたかしゅーだから、わたしが絶対に幸せにするの」

ぎゅ、と握られた手のひらの温度のあたたかさに
くしゃ、と片眉を下げてくすぐったそうに笑い返す清光は、次いで安定の方を見やってひと言、こう告げた。

「これで愛されてるか疑うのはバカだろ」



「何か掴めた?」
「ん」

残火のような熱を足跡に、彼女が去った部屋で。
清光との相部屋に残された安定は、主が去った方向を見遣りながら、こう口にした。

「僕とは似てない。けど、お前とは良く似てる気がする」

ああ、と思わずといったふうに、清光の口から吐息が漏れた。
そんな、いかにも心当たりがありそうな顔をしながら、清光は「どこ?」と、あえてだろう、聞き返した。

安定は少しだけ考えて、頭の中で言葉をまとめると、今得た直感に形を与えて、こう返した。

「与えられた愛情に、命のぜんぶで応えようとするところ」


それを聞いた清光は
ふっと、ただ黙って目を細めた。

安定の言葉に否定も肯定もせず、ゆっくりまつ毛を落とすようにして微笑すると、ただ優しい目で視線を遠くにやった。

彼女が立ち去った方向を見つめたままの清光の眼に、柔らかな愛情が満ちて、その柘榴色に陽だまりのような暖かみを与えている。

自然体で、違和感が無い。自然に息をするように、柔らかに互いの存在を必要としている。寒い夜に手を繋ぐみたいな当たり前さで。
そんな、どこか透明で穏やかな、幸せそうな光景だった。
「俺さ」
清光が不意に口を開いた。
「本当に思ってるんだ。俺を呼んでくれたのがあるじでよかった、って」

その光景をしかと見届けた安定は、笑って「そっか」と短く相槌を打った。

恐らく自分は、とても良い本丸に当たったのだろう。
自分をいちばん愛してくれる人を安定が探すことと、清光が主に愛されてることは矛盾しない。

安定は、愛が競争ではないことを知っている。


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