👼👿(+🔥) 交流飲み会の話
シナリオネタバレあり(エン/デビ)
@popo_trpg_ss
ある日双六陸が、配信者たちの交流会という名の飲み会に参加したいと言ってきた。
今までも何度かりったまチャンネルの二人で是非と誘われていたが、陸は極度の人見知りの上に、ブラック企業で働いていた頃の名残か飲み会が苦手なようだった。
彼にとって飲み会といえば強制参加で、上司たちの機嫌を伺って酌をして回り、まともに食事を摂ることも叶わない地獄のイベントなのだろう。
交流会は決してそんな空気ではなかったが、微妙な顔をする陸を無理に連れ出すことはせずに、雅はひとりで参加をしていたのだ。
そんな彼が、自ら参加してみたいと申し出た。これは事件である。
聞けば彼は、参加者の中にカスカがいるから気になっているらしい。
カスカという名前は雅も知っている。ゆうれい倶楽部というオカルト系配信者のグループでコメンテーターを務めている男だ。
配信の系統としては接点のない相手だが、いつの間に知り合いになったのだろうか。流石に陸のスマートフォンや個人のアカウントのDMまでは監視していない雅には分からない。
若干モヤッとした心の違和感は抱えたものの、雅はそんな陸を連れて初めて交流会に二人での参加を申し出たのだ。
そして交流会当日、陸と雅は離れた席に座っている。
会の名前通り交流を目的としているその集まりでは、コンビやトリオは離れた席に座ることが多かった。より効率的に外交をするための暗黙のルールなのだろう。
大人数の飲み会でひとりになる陸のことを心配していた雅だが、彼は無事に噂のカスカと隣同士で座って話している。
慣れない酒を傾けながら隣の彼と一生懸命に話をしている姿は、初めての友達ができた幼稚園児のような微笑ましい光景だが、雅にとってはどうにも面白くない。
「雅さん、どうかしました?」
複雑な心境のまま酒を傾けていれば、隣の席になったゆうれい倶楽部のカメラマンにしてアイドルである佐々森円香に声を掛けられる。
「べつにぃー。なんかあそこ楽しそうだなーと思って」
「あそこ……あぁ、カスカたちか」
アイドル的に大人数の前で酒はNGらしい彼は、烏龍茶を傾けながらテーブルの隅に視線を向けた。
何かを熱心に話している火霊幽火に相槌を打つ陸は、確かにふわふわと楽しそうにしている。
「カスカ、今日のこと楽しみにしてましたからね。りっくんさんと話せるんだって」
「へー……」
他のコンテンツから自身のチャンネルへの導線を作るためにも、配信同士の外交は必要なものだ。
しかし、酒のグラスを両手に持ってぽつぽつと何かを話す陸の姿はあまりにも無防備だった。
果てには幽火が何かを言った途端、ぼっと音を立てて赤い顔になった陸がぶんぶんと首を横に振る。
そうして照れ隠しするように酒をあおって、ひそひそと二人にしか聞こえない声で何かを話して笑い合っているのだ。
「なんか面白くないんだよなぁ」
「え?」
「あぁいや、こっちの話」
不思議そうな円香を曖昧に誤魔化した雅は、陸がちらりとこちらを見たことに気がつく。
いつも通り笑みを浮かべて手を振ってみると、彼はあわあわと汗をかいて慌てて目を逸らしてしまった。
ますます眉間に皺が寄る雅の様子を眺めた円香は、面白いものを見つけた様子で烏龍茶を傾ける。
「……今度うちとりったまチャンネルさんでコラボとかどうです?」
「あー……いいかもしれないっすねぇ」
「じゃあ企画としては、うちの得意分野とそちらの得意分野をどちらも出せるように……」
幽火に接触すれば、どこで陸と知り合ったのか、彼のことをどう思っているか探りを入れることもできそうだ。
不純な思いを抱えたまま円香の始める仕事の話に耳を傾けた雅は、一度視界の端に映る楽しげな二人のことは考えないようにするのだった。
※
「あー!みーちゃんだぁ」
そんな風に目を逸らした結果がこちらである。
企画会議に集中するあまり陸たちのことをほとんど見ていなかったが、どうやら二人とも酒によってべろべろになってしまったらしい。
「りっくん飲んだねぇ」
「へへ、いっぱいのんだ!」
きゃっきゃとはしゃいで抱きつく陸を宥める雅の一方、酔って足元の覚束ない幽火は仲間の鈴持センリにタクシーへと蹴り入れられていた。
「ばいばいりっくん、またのも〜!」
「うん!またのむ!」
呑気に転がり込んだタクシーの窓から手を振る幽火に手を振り返す陸を連れて、雅は挨拶もそこそこに店をあとにする。
幸いなことに交流会の会場と二人の自宅はそこそこ近い距離だった。電車で二駅くらいなら夜風に酔いを覚ましながら帰っても良いかもしれないと考えた雅は、終電が迫って人通りの少ない道を陸を連れて歩き出す。
「りっくん今日楽しかった?」
「たのしかったぁ〜!」
陸はふわふわとした笑顔で頷いた。
彼がこんな風に酔いを楽しむところを、これまで雅は一度も見たことがない。酒に酔うと睡眠不足で悪酔いした昔を思い出すと青い顔をしていた彼からは想像もできなかった。
「……何の話してたの?」
「んぇ?」
「カスカくんと、何の話してたの?」
尋ねる声に温度が入らなかったのは仕方がない。
彼が悪い人に捕まらないようになんて、ただの都合が良い言い訳だ。幽火が悪い人ではないことなど分かりきっている。
相方という立場を誰かに奪われてしまわないように。人生を賭けて、背負わせて、ようやく捕まえた彼という存在を絶対に逃してしまわないように。
そんなどす黒い感情を抑えることなく雅が尋ねれば、酒に酔ってそんな彼の不穏な様子にも気がついていないらしい陸がふにゃりと笑った。
「えへへ、」
くふくふとおかしそうに笑った陸は雅の腕を引くと、驚いて呆けた唇にちゅうと軽く吸い付く。
可愛いリップ音を残して離れた彼は、悪戯っ子のような笑みを浮かべて内緒話の声色で囁いた。
「みーちゃんのはなし」
「……俺の?」
「うん。かすかもすきなひといるんだってさ」
先日幽火と陸が盛り上がったきっかけは、互いに想い合っている男がいたからだった。
幽火の想い人は簡単には会えず、難しい交際を続けているらしい。それを聞いた陸も、雅と付き合っていることを打ち明けたのだという。
初めて出会った恋愛話ができる友人という存在に二人は大いに盛り上がり、ぜひ次の交流会で会って話そうとなったらしい。
「みーちゃんのここがかっこいーとか、ここがかわいーとか、かすかのはなしもたくさんきけて、たのしかったぁ〜」
惚気話をしたという報告を本人に向けて行う陸の曇りがない笑顔を唖然と眺めていた雅は、思わず肩から力が抜けて吹き出した。
「っはは!そっかぁ、よかったね」
「うん!」
嬉しそうに頷く陸の頬を撫でれば、くすぐったそうにくすくすと笑い声を上げた陸が潤んだ瞳をこちらへ向ける。
雅のことが好きで好きで堪らないと分かる色違いの瞳を見つめた彼は、いつもの調子で明るい声を掛けた。
「どんな話したか俺には聞かせてくんないの?」
「みーちゃんにはないしょ!」
「うわ、この小悪魔め」
「んふふ、おれあくまだもーん」
悪戯が成功した幼い子供のように無邪気に笑う陸を連れて、雅はいつの間にか毒気が抜かれた胸に手を当てる。
自分を生かすのも堕とすのも、こうして目の前で呑気に笑っている彼の些細な一言なのだから、案外自分は単純なのかもしれない。
そうひとり呆れた雅は、このあと酒に酔って寝落ちをした陸を抱えて一駅分の距離を歩く羽目になるとは知らずに笑みを浮かべるのだった。
終