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狼煙は遠く 仮(叩き台・出だしのみ)

全体公開 VWV 単発・短編 1579文字
2026-02-03 01:39:26

難産プロローグ ちょっとしっくりきてないので

Posted by @neastrig

 車体ごと、がたんと揺れる。
 この星に広がる赤い砂の道は、例外なく長く険しい。加えて運転席の男の焦りが、その走りをさらに荒々しいものにさせていた。
 それでも、その天井に仁王立ちする男は物ともしない。大きな十字架を立てて片腕で支え、咥え煙草から細い煙を風に乗せる。真っ黒な髪と対照的に鮮やかな色のサングラスが、苛烈な太陽光をぎらりと反射していた。
「あ、あんちゃァんッ! 本当に大丈夫なんだろうなぁ!? 」
「任しときっちうとるやろが、悪い結果にはせえへん」
 丘を乗り上げたワゴンは跳ねるように浮いた。それでも溶接されたように男の足はびくりともしない。運転手は、見えないながらも音でわかるその様子に震えて開きかけていた口を引き結んで閉じた。声の代わりに流れた汗が、白と灰の混ざる口ひげの隙間を伝う。
 エンジン音が響いたのは、そのすぐ後だった。
……! 」
 立て続けだ。モーターが、ターボタービンが折り重なるように唸り声をあげる。
 獣じみたその「群れ」はあっという間に四方八方回り込み、十字架男の乗った車を囲い込んでしまった。二輪、四輪、大型。多種多様の十数台。ワムズ以外を知る地球の人類であれば、きっとこれを狩りに例えただろう。
 群れの一頭が、目で弧を描き、マスクの下で笑う。もしかしたら、舌舐めずりでもしていたかもしれない。
「ヨーォウ、兄ちゃん! 仕事はもうちと選んだほうがいいぜ? ちゃんとわかって請けたんだろうな」
「なんなら今乗り換えてもいい! そのおっさんと商品さえ渡してくれりゃ俺ら文句ねェからよォ」
「悪ィな、俺らも金のためにゃ遠慮してやれねーんだァ! あんたの分は貰ってねえからサービスしてやるヨ! 」
 ギャハハと陽気な群れは笑い、上っ面ばかりの忠告を十字架の男に投げる。対して男は動じるようすもない。「そらおおきに」とやはり彼も形だけ返してただ煙草をふかしていた。
 伸びる煙は数多の車体からあがる排気ガスと混ざり流れる。
 男は消えるまでそれを眺めてから、やっとその獲物を掲げるようにぐるりと回した。申し訳程度に被せていたボロ布が煙とともに空を舞う。
「あ? なんだ、ありゃ」
 それは、黒い十字架型の兵装だった。
 所々傷はあれど、無骨なそれの瑕疵にもならない。むしろ、中心に据えられた冒涜的な髑髏のためか、その異様さを引き立てるようですらある。
「あ、おっちゃんに借りてた布落としてもうたわ! 」
 すまんな! 車内に男が声をかければ「うるせえ! 話しかけねえでくれよ! 」と運転手が叫ぶ。涙声の運転手とは対照的に、男は暢気そのものだった。慣れた様子で髑髏を片手で鷲掴む。片手で肩に担いだ様子は、いっそ涼しげだ。
 ゴロツキたちは顔を見合わせた。そして布が飛んだ直後は緊張に固くなっていた肩の力を抜いてせせら笑う。なんだ驚かせやがって、ハリボテかよ。はったりならもっと上手くやれっての。揶揄する彼等の緩んだ空気は群れに伝播していく。
 それを、十字架の男は鼻で笑った。
「揃いも揃って、間抜けヅラ。サービスってこれのことか? このチンドン屋集団」
……………あ? 」
 にたりと、犬歯を見せて男は笑った。その笑顔を向けられたゴロツキどもは動じて頬を引く付かせ、筋肉という筋肉に血管を浮かせる。武器を握りしめてヒビを入れる手前までいけば、もうあと一押しもいらないだろうに。
「同じチンドン屋ならまだバドラド団のほうが見応えあるわ」
「な、な、な、」
「出直してきたほうがええんちゃうか、チップくらいは考えたる」
「なめてんじゃねえぞ、このガキァ!!!!! 」
 限界を超え、群れから怒号が響く。モーターの音がさらに大きく嘶いた。そして続く銃声と爆音。
 開始のゴングを待てるような行儀のいい獣はそこにはいなかった。


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