酔っぱらって漏らしてその証拠隠滅したり回転ベッド壊したりする台牧 多分BR軸
下品、エロ本編はないですが直前と身体の関係はあります
追記:端末により絵文字化していた記号を直しました
@neastrig
酒、それは人生の燃料。酒、それは夜の誘惑。酒、それは大人の潤い。酒、それは寝物語の友達。
酒。それはあらゆる過ちを呼び込む、魔の飲料物の総称である。
「いやあ、ワハハ、今日はいい日だなぁウルフウッドさんや、わは、わははは」
「おうおう、機嫌ええなぁトンガリも。ま! 悪ぅないんちゃうか、月なんかホレ、十個に増えとる。がはは、だははは! 」
ご機嫌な僕たちは肩を組んだまま、今日の早くにとっておいた部屋のドアを勢いよく開けた。
街についてすぐは、どこの宿もあいておらず途方に暮れたものだだが、偶々助けた老婦人に秘密の穴場だと教えてもらったのがこの部屋だった。しかもいい酒も奢ってもらってしまった。遅くまで飲み明かし、特に賞金首との遭遇もなしときた。
この日は絵に描いたようないい日だった。少なくともこの時の僕ら二人の共通認識だったのだ。
毎日、こんな日ばかりならいいのに。そんな贅沢を空想し、相方とぐいぐい肩をくっつけあう。この時間は、実に「最高! 」の一言。ちょっとやそっとの過ちならいいんじゃないか? なんて血迷い事さえ考える。血迷ったことは、まあ前に何回かあるんだけども、だいたいこう、僕もこいつも調子に乗っている夜ばかりでして。
つまり何かというと。僕は、これ以上なくわかりやすいほど浮かれてしまっていたのだ。あーあ、これはまずいぞ。まずいが、でも。それでもなあ。
「今日は、もう、眠い、かも」
長旅後の深酒とは得てしてそういうものだ。それでも未練がましい僕は、ベッドまでたどり着いてからぴたりと止まる。丸くて大きな、珍しいベッドだ。ツインではなくダブルと聞いていたが、それどころではない。キング、いやエンペラーサイズのベッドと呼ぶべき代物だった。
肩に寄りかかるウルフウッドを見る。もし彼が乗り気だったら頑張っちゃおうかな。そんなことを、まだ根気よく考えていた。
だが彼も大して変わらない酔い方をしていたらしい。真っ赤な顔ですでにうつらうつらとして、普段の牧師の言葉を借りるなら「ガキくさい」ようにも見える。それのせいかなんだか、妙なやる気が霧散するほどおかしくなってしまった。
「んじゃあ、まあ! 寝ちゃうか」
「おん、寝よか」
そうと決まれば僕らに未練はない。睡魔に手を引かれながらぽいぽいと一張羅を脱ぎ散らかした。いつもならきちんとしまう赤いコートや装甲、ズボンを全て床に落として散らかす。いそいそと寝間着を取り出し被ったのは、なけなしの理性によるものだ。それが精いっぱいだったから前後逆に着ていたかもしれない。
明日、君に叱られるかな。ベッドの足元に出来た山を見て、そんなこと考えた。当人は着替えるどころかいつもの姿で寝ているくせに、散らかすなと言う、そんなところが彼にはあるのだ。だからせめてその時恩を着せてやり返すためだけに、すでに倒れ込んだ男の黒いジャケットだけ剥がしてやる。
「んん、」
先に夢の世界に入ってぐずる大男の様子が、ツボに入りかけた。笑いを堪え、起こさないよう気を付けてジャケットの袖を抜いてやる。その黒を僕の山に加えればもう完了だ。だがサービスとばかりに彼を掛け布団の中に突っ込んでやるあたり、僕ってやつは優しいものだろう。
とうに限界の僕も、彼が寝息を立てていることを確認してから同じ羽毛に潜り込む。まだ中は少し冷たくてぶるりと震えた。ほのかな温度が欲しくて密着したが、先と違ってエッチな気分にはならない。揺れる砂蒸気の上で昼寝をしているときのような、穏やかな心地よさだけがあった。気分よく意識を手放せる。僕はそれだけを確信していた。
それでも一個引っかかっている。何か、忘れているような?
だが、頭が動いたのはせいぜいそこまでだ。足をすり合わせながらも、潔い僕は睡魔に白旗をあげる。
しょろり。そんな音が聞こえた気がした。しかし脳は川向こうまで旅立っていたから思考は一歩どころか十歩以上及ばず、疑念も焦りも何もかも、全部まるごと夢の中へと消えていってしまった。
「いだぁ!! 」
ガツンという衝撃で目を覚ました。
脳天に一撃、僕でなければ星を見るどころか夜空に旅立ちそうなそれは、紛うことなくウルフウッドの拳だ。僕はベッドの上をもんどりうつ。とてもではないがすぐ起き上がれるような痛みではなかったのだが。
「オラぁ! 起きろどけアホクソカストンガリィ! 」
暴言とともにシーツが思い切り引っ張られ、下手くそなテーブルクロスの犠牲となるグラスのごとく、僕は枕とともに投げ出された。
ダンと大きな音を立て、床に落ちる。着地もクソもなかったので、板張りの床とキスをして鼻が潰れて胸と膝も強かに打ち付けた。ジンジンと痛む全身に加え、二日酔いの頭もガンガンと響き続ける。なんだこの地獄は。というか。
「ッにすんだよ、気持ちよく寝てたってのに! 」
僕は歯軋りをしながらも怒りによって腹筋に力をこめ、重い体をおして飛び起きた。すぐに見えたのは窓の外である。アッと声をあげた。まだ夜中だ、朝焼けすら見えていない。
「なんてことすんだ、ボケた爺さんでもこんな時間に起きないってのに! そりゃないぜウルフウッドッ! 」
僕の抗議に、だが降ってきたのはガツンと先同様の拳である。涙目で見上げれば、ウルフウッドは頬を引く付かせて僕を睨みつけていた。
「ドアホ、ボケかけた爺さん以前の問題じゃ。自分でこれ、よお見てみい」
「は? 何をだよ、って、うわッ」
見ろとコイツが僕の顔に投げつけやがったのは何ということはない、ここのベッドのシーツである。これがどうした、どうしてこんなに機嫌が悪いんだコイツは。シーツお化けとなった僕は口を尖らせながら、そのベールをずるりと下ろそうとした、のだが。
「……ん? 」
そういえば、なんだか変なにおいがする。ツンと鼻につくそれはそのシーツからだ。いや他にも発生源があるような。具体的には、そう。似たような距離感だが、もっと近くに。
そこまで考えてから、気が付いた。ひやりと「そこ」が冷えていた。見下ろした僕は悲鳴をあげかけ、慌ててその口を自らの手で覆う。
「おま、え、これ、」
沁みだった。白い布、そしてズボンの「そこ」……股間に広がっている。
だが、驚きはここで終わらなかった。真っ青になった僕が助けを求めるべく見たのがウルフウッドで、彼もまた奇妙な姿をしていたからだ。着ているのはシャツ一枚。僕が脱がしたジャケット以外そのままだったはずなのに今彼の下半身はすっぽんぽんで、脱いだものを入れた桶を片手に抱えている。
そういえばともう一度手の中の布を見た。描かれた地図は、一人分にしては少し大きい気がする。確かに。確かに僕も相当飲んだけれども。
結構、飲んだやつがもう一人いたような。
「…………もしかして、あの。僕っていうか、僕ら」
震えながら、再びツレを見上げた。返事はない。代わりに投げたシーツを再びひったくるように奪い返した彼は、舌打ちだけを残して静かに洗面所に引っ込んでいった。
「うっそぉ」
天を仰ぎ、横目でベッドを確認した。相変わらず奇妙に大きく丸い寝具。その真ん中にも地図はしっかりと描かれている。もう僕には否定しようがなかった。
僕らは、寝小便をしたのである。いい年をして、酒を溺れた挙句に、だ。
「これは、その……例えば目が覚めてお前と一線超えてましたなんて展開だったときと比べたら、どっちマシったかな……、いだっ」
クリーンヒット、飛んできたのは水の入ったボトルだった。なんだよと視線を送れば、大きな手だけが出てきて、何やら指をさすのが見える。方向としてはベッドだから、マットを綺麗にしろ、ということだろうか。確かに、あの量なら沁みていそうだけれども。
「本気かよ」
僕はボトルを見て、項垂れた。長い夜が始まったことだけは確かに分かってしまったからだ。
これは、ある旅の一夜の物語――酒に溺れて道を誤った僕たちの戦いの記録である。
マットを洗う、選択をする。確かにそれも必要だがその前にやるころがあるはずだ! 豪語した僕の「とりあえずまずは宿の主人に謝ろうぜ」作戦は即、洗面所のウルフウッドに却下された。恐ろしい。その目にも止まらぬ早撃ちは、普段の六倍速かったかもしれない。
「なんでだよ。これお前も見ただろ、マット綺麗にしたって結構盛大なアートに仕上がってるから難しいよこれは。結局バレるなら誠心誠意謝罪、そして弁償をしたほうが絶対いいと思うんだけどな、僕は」
至極真っ当な提案のつもりだった。だからさすがにこの即却下は納得がいかず、僕は口を尖らせてブーイングをする。それがうるさかったのか、じゃぶじゃぶと続いていた水の音が止まり、ウルフウッドの頭が扉から出てきた。
呆れた。彼は、それだけを顔に書いて固めたような表情をしていた。なんだよと、僕がもう一度抗戦の姿勢をとれば、彼は返してきたのはシンプルなワンセンテンスだった。
「おどれの財布の中身、覚えとらんとは言わんよな」
「……………………はい、まあ」
僕は、そよと視線を泳がせた。覚えてますとも。ちょっと忘れかけていたけれど、わかっていますよ。そんな気持ちと裏腹に、僕は小さく縮こまる。
ここで、僕が遡るべきは実は残念ながら哀れ漏水の夜でも飲みすぎの酒場でもない。もっと前、朝からのことだ。先に述べた通り、僕らはこの街についた時点で宿に困っていたわけだが、それ以前にこの二人旅はもっと困難に直面していた。具体的に言えば、脚、つまりバイクの破壊である。もっと詳細にいうなら、朝食を食べて「今日の昼前にでも付くだろう」と会話、ウルフウッドが小便にと席を外したときのことだ。
ちょっと、バイクを触った。別に運転しようと思ったわけではない。椅子代わりにしていた岩が微妙に低く、ブーツを直すのにそこそこ高さのある椅子が欲しくて、運転席に座ったのだ。
ただ、その直後に賞金稼ぎが突っ込んできて、ドンパチの際にバイクを活用しようとして壊した、というだけで。
正直、ちょっとくらいは前に見たウルフウッドのテクニックを真似てやろうという思いつきもあった。ついでに言えば、多分大人しくウルフウッドが戻ってくるのを待てば、撒きながら逃げて予定より一時間程度の遅れで済んだはずだ。だが、僕は思いつきを実行して失敗、加えて賞金稼ぎを追い払う際に予備のお金を入れていた袋が破けていて見事なコインのバラマキ。ウルフウッドが気付いたのはすぐだったが、面倒な連中が集まり始めていたので取りに戻ることもままならない。前線の連中を追っ払い、僕らは一目散に逃げだすしかなかった。ちなみに袋が破けたのは、勿論バイクが大破したときである。
いつもなら、そこそこに連帯責任と言える範囲だ。だが今回は間違いなく僕のやからしから端を発するものだった。だから結果として僕はウルフウッドにこっぴどく叱られ、バイク代の弁償をして財布がほぼすっからかんになったのである。宿代だって「穴場」を見つけなければ彼が多めに負担していただろう、奢ってもらった件も含めてやっとちゃらにしてもらったのが昨晩だとも言えた。
さて、問題です。この状況でベッドの弁償なんて発生したら誰が支払うでしょう。
「別におどれが身体売って払うちうなら止めんがなあ」
「えー、えっち」
「アホカスタコボケカスダボボケトンガリ、六百億に決まっとるやろがタコ、寝言は寝ていえやアホ」
「なんかカスとボケが多くなかった? いや最終的に全部なんか回数が……あ、いえ。はい。今日の僕はアホのボケのタコです」
一度機嫌が直った分、余計に怒られているような気がする。僕はちんまりとしながら、汚れたベッドマットの上に正座をした。ウルフウッドは、しばらく睨みつけていたが、ふうと息を吐いて新しいタバコを取り出し火をつけるとまた洗面所へと引っ込んでいく。
「洗剤と水、とりあえずつけとけ。シミの前にまず匂いとるつもりでやっとけ。シミがとれるかは後でワイが見る」
「はーい……ども……」
どでかいため息が最後についたのを聞き、僕はもう見えていないのをわかっていてぺこりと頭を下げた。漏らしたのは多分僕だけじゃないだろとか言いたいことがないでもなかったが、今は不利なので飲みこんでやることにする。何より、多分だけれど、ウルフウッド自身も自分のやらかしも含まれているから余計に苛立ち、だが最後まで殴ってこないというのが現状に見えた。それなら責めてやるものでもないだろうと思う。
「でもなあ。なんか多分『どうせ大してシミとれんやろ、トンガリやし』くらい思ってそうなんだよな、あいつ」
苛立ちや怒りの部分以外が、どうにも「どうせトンガリ」というナメともいえるものが垣間見えるような。これは心外だ。僕は切換えと同時に、ふむと腕を組んで次の決意を固めるとした。
「そうだ。ここはやっぱり百五十年の積み重ねから生まれたリカバリー力を見せてあげないといけないでしょ、うん」
朝からやらかしてばかりだ。だが、ちょうど今はウルフウッドも恥ずかしいミスをして心が弱っている。こういうところで頼もしさというのを見せれば、彼も僕をかなり見直すんじゃなかろうか、なんて思うのは多分的外れではないはずで。
よし、と僕はベッドから飛び降りた。両手に持ったのは勿論水と洗剤のボトルである。丸い布地に描かれた地図は、遠い日に見た天体模型のようだ。だが、僕はこれからこの大地を消さねばならない。ナムサン。どこかで聞いた呪文とともに、聖水……っていうと駄目そうだ、洗浄液をぶっかけていった。
しばらくは静かな音だけ聞こえていた。スプレーの音、泡の音、水の音。ウルフウッドに分けてもらったタオルを押し当てながら、僕は丁寧にマットの縫い目に泡をしみこませていった。
気が付いたのは、概ねの地図を上書きしきった頃だ。くんと匂いを嗅いでソープのそれのみであることに安堵した僕は、ふとベッドの頭にある何やら装置らしきが目に付いたのである。
「なんだこれ、リモコン? 」
ケースに差し込むように立てらえたそれは、何かの装置の操作用コントローラーのようだった。掌におさまるサイズでいくつもボタンがついている。手に取れば、ケースがそのまま充電口になっていたらしくコードもないシロモノだった。黒くてぴかぴかするそれは、だたちょっとだけ傷があって古いようにも見える。
「あ、なんやそれ」
「あれ、ウルフウッド」
シャツこそあれど全裸の僕同様ぶらぶらとさせたウルフウッドが戻ってきていた。その手には洗い終わったらしい服がしっとりと濡れた状態でかけられていた。部屋の隅、乾いたところにでも干すらしい。手伝おうかと聞けば、いんやすぐ終わると返ってきて彼は一度、すぐそばの窓際へと離れていく。
「マット、だいたいええんやないか。乾くまではそっちのソファで寝るしかないが、まあそこらの安宿のベッドよりはマシやろし」
「そりゃそうだよね……ってあれ一人しか寝られなくない? え、もしかして僕は椅子とかで寝ろみたいな感じですか? 」
「せやろな。んで? 結局なんやそれ」
「せやろなって……まあいいや、このリモコンだろ? それがわからなくてさ。ベッドについてるってことは部屋の設備で、寝るときに使うやつかなとは思うんだけど」
ライトのリモコンか、空調か。めぼしいのはそのあたりだが、ボタンに違和感があった。見た目はどちらかというとマッサージマシンなどに近いかもしれず、妙な回転マークやライトマークなど変わったものが並んでいた。ウルフウッドは干していてこっちを見ていないが「とりあえずなんか押してみ」と無責任なことをいう。
とりあえず、危険ではないだろう。そう信じて、僕はその言葉に大人しく従った。
「うお!? 」
「あ? 」
ぴかり、ではなく、びかり。そんな毒々しい色の光がベッドの足から発せられた。なんだこれは。僕もウルフウッドも思わず反射で手をかざしながら、その光を確認する。それは一色に終わらず七色に変わりながら、寝床を明るく包んでいた。とてもではないが眠れない、そんなパーティ空間の演出だ。
「なんやこれ、寝る場所光らせてどないすんねん」
「僕もさすがに初めて見たなこれ。というかこれ部屋のリモコンじゃなくてベッドのリモコンなんだ……」
一旦ライトボタンを押し直した。何度か押せば、光り方を変えてから沈黙する。酔ったタイミングでこれを見たらきっと大爆笑していただろうが、残念ながらここにいるのは酔って漏らして酔いが醒めた男二名だ、出るのは失笑に限りなく近い乾いた笑いである。
「こりゃ穴場ちうんはあれか、流行らん趣味の悪い連れ込み宿やったってところか」
「あー、そっちの演出ねえ。目新しくはあるだろうけど、この立地だと金持ちも来ないだろうし、ちょっとニッチすぎたね」
「他はどんなボタンがあるん。あれか、揺れたり起き上がったりするんか」
「いやあ、どうだろ。揺れはありそうだけど、これちょっと違うかな」
淡々と機能を探すあたり、まだちょっと酒が残ってたりして。僕はそんなふざけたことを思いながらいくつかのボタンを押してみた。ベッドは確かに揺れたり風を出したり忙しなかったが、僕が一番気になっていたボタンを押したところで様子が変わった。
回転ボタン。もしかして、丸いし……まわっちゃう、のか!? そんな僕のどきどきも空しく、終わったのは――ががが、ぷすんという無惨な音とともに二十度ほど回ろうとしたベッドが力尽きたときだった。
「………は? 」
固まって冷や汗を流す僕をよそに、窓のほうから低い声が届く。いやいや、待って。僕じゃないって。多分あの、僕らが漏らしたときだって。そんな言い訳をしながらまだ他は動くと示すようにボタンを押したが、ご機嫌なミュージックを流して激しく揺れながらゴージャスに輝き、彼女はまるで辞世の句を読み終えたサムライのように突然静かになってしまったのだった。
「………………あ? 」
「あの、その。僕もさすがにぃ、予想外というかぁ」
震える僕に届いたのは悪鬼のような形相から発せられる、目からのビームだ。レーザーだ、これは。僕はこんなところで、こんな理由で死にたくはなかったので、その発信元に対して静かに、そして無事だったカーペットに額をこすりつけるようにDOGEZAをし、ただただ命乞いをするのであった。
「僕が直すので、僕が直すので……! 」
ベッドは、思いのほか複雑な作りだった。ロストテクノロジーでこそないが、作成者のクセがよく出ている遠回りな回路で、それが僕らのアートとその後始末の中濡れてショートを起こしてしまったらしい。回路を整え直しながら直してやれば辛うじて復元できたが、何かの拍子にまた使い物にならなくなるだろうなということは専門でない僕にも確信できた。
「そっちも終わった? ウルフウッド」
「おん」
彼が洗い終えて干しているのは、僕のコートはじめ服一式である。漏らした分も含め、彼が「ちょうどええから」と僕の服も一通り洗ってくれたのだ。ウルフウッドが唯一着ていたシャツも既に干され、間抜けにもとうとう僕らは全裸二人となっている。生まれたままの姿というには修羅場を越え過ぎたボディは、やたら広くて玄人好みの連れ込み宿にあまりにも浮いてしまっていたのだが、それがなんだか僕にはむず痒いことにも思えていた。
干し終わったウルフウッドが、タバコとマッチを手にベッドまで戻ってくる。そしてどしりと座ったのは濡れていない端っこである。ベッド脇にしゃがんで修理していた僕は、彼が火をつけるのをじっと見上げて眺めていた。
「全裸でタバコ吸うのってさすがに怖くないか? 灰とか落ちそうだけど」
「慣れないガキならそれくらいあるやろな。ワイは……せやな、間違うて横の修理工の股間に落とすくらいはしてまうかもしれんが、それくらいやし」
「そういうこという? いやー、その修理工もまた漏らしちゃうかもな。熱くて。そういうときは責任取ってもらわないと」
よいせと立ち上がる。手持ちの荷物から出した工具を片付けるつもりだった。
だが、僕の身体はくるりとまわる。引っ張られたのだ。手に持っていた工具がベッドの脇へ落ち、マットの上で開いたままの工具箱にぶつかって音を立てる。
「へ」
気が付けば、ウルフウッドが馬乗りになっていた。全裸の尻を全裸の僕の腰の上に乗せ、その顔は楽しそうににやりとタバコを上に向けている。ベッドの上に置かれていたリモコンがころりと僕の頭の横にまで転がってきていた。尻が、湿ったマットで少し冷える。
僕はそれをちらりと見た。もしかして、あれだけ出して酒抜けてなかったかなと思う。彼がじゃない、僕がだ。今日はいい日だったのだ、ちょっと悪いことがあったなら、何かで上塗りするのもいいだろうなんてちょっとでも思うのは、きっと酔っ払いに違いない。
「……いやあ、例えば目が覚めてベッドにアートを描いていたときと、お前と一線超えてましたなんて展開だったときをさ。比べたらどっちマズいと思う? 」
「せやなあ、一番はニッチなことして遊んだ場合やないか? 」
ちょっとやそっとの過ちならいいんじゃないか? そんな血迷い事、考えていたのはこいつも同じらしい。そういう部屋だと認識した途端空気に当てられたということにしたい。過ちは、何度かあった。そしてだいたい理由さえあればいいのだ。それが酒である必要は必ずしもない。
「とりあえず回しながらバードキスでもしちゃう? 」
「その程度で済むんか? 揺らしたってもええけど」
どっちを? 僕はふふと笑いながら、ちょっとにやつきつつウルフウッドを引き寄せた。手にリモコンを持ったまま、彼の首に手をまわす。指を添えたのは、回転ボタンだ。調整したからきっとゆっくり回るだろう。光と揺れで大笑いしながらヤるのもたまにはいいかもしれない。
僕は、ウルフウッドの口に噛みつきながら、ボタンを押したのだ――それが、運の尽きとも知らずに。
「「……んあ? 」」
どちらともなく、いや同時にあわせた口から色気のない声が出た。次いで耳に届いたのは、幻聴かと思われた風の音である。
風とモーターの、ぶおんぶおんと激しく回る、ベッドの音だった。
「あ、あ、あ、あああああ」
ベッドは加速する。ぐおんぐおんと勢いよく、嵐の中の風車のようになっていく。その台風の中心、ウルフウッドが唖然として僕に跨っていた。
「あの」
ぶおん。空気の音が僕の声をかき消していく。そろそろ遠心力に負けそうで、必死にマットを手と爪先で抑えたのは本能的なものだろう。上に乗った男は、あの見事な体幹でもって体制を維持しているが、そんなことをより裸の身体に浮き出していく血管、赤くなっていく肌がなんとも見事であり、これが情事であればなあ! なんて僕の最後の逃避を無情にも消し炭にする導火線のようであった。
「トンガリィ……」
「は、はひぃ」
僕は涙目だ。ちょっと心当たりがあった。回路が結構ややこしかったのでシンプルにしたついでにもっと効率よくなるように改善した気がするのだ。だから調整機能をつけたが、そういえばリモコンに調整ボタンをまだつけていなかった気がする。
「はよ直せクソカスアホボケダボヌケカスクソトンガリィ! 」
「はぁい! 」
勢いよくまわるマットの真ん中、涙目になりながら僕はまず修理のために回転を止める方法を考えるところから始めねばならない。なんて苦難の道、もう一度チビってしまうかもと思う。だがそんなことを言えば締め上げられそうで、僕はとても口にはできやしなかった。
翌朝、よくまわったマットは嘘のように乾いていて、服も綺麗なものだった。アートも消えたおかげでいい年をして漏らしたことはまったくバレず、僕らは口笛なんぞもしつつ宿屋をあとにすることに成功した。
その後、件のベッドが前より回転するようになったのかは秘密だ。ただ、僕が買ったばかりのサイドカーで全身筋肉痛になりながら、寝不足なくせに元気でつやつやご機嫌なウルフウッドを見上げる羽目になっていたあたりで、ある程度の結果を推測していただきたい。
僕らはきっとまた懲りず、また過ちをおかすだろう。その時は、もう少し痛い目を見ないで済むといいなと密かに、僕は信じてもいない酒の神様に手を合わせて祈りを捧げていた。だが、その口に叩きつけられた砂こそがその神さまの答えのように思えた。それでも、きっと僕らは酒をやめられないのである。
酒。それはあらゆる過ちを呼び込む、魔の飲料物の総称、そして一生の友達の名前である。
Fin.