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think,drink

全体公開 ff14 温度差兄弟/🔥×💧 2 4503文字
2026-02-06 18:01:47

温度差兄弟
エオカフェネタです

Posted by @yohima33

『モザイク・コーヒーとアルカディアのコラボメニューについて』

 古風にも紙に記されたその文字をひとつずつ目で追って、ディープブルーは深く息をつく。ライトヘビー級、クルーザー級の闘士たちがやっているのは知っていた。オレたち未成年なのにアルコール取り扱っていいんだな、なんて思ったことを覚えている。いつか自分たちの番が来ることも、頭の片隅では理解していた。……が、それはそれとして。
「めんッどくせェ〜〜……
 件のモザイク・コーヒーの隅の席で、ディープブルーは項垂れる。その隣で、レッドホットは真剣にメニュー候補に選ばれた食材の名前を見つめていた。



「もうイメージ出来てるわ」
「早すぎだろ、話聞いたのさっきじゃねェか」
 企画書を受け取った日。ヘビー級揃って説明を聞いた後に、こりゃ面倒だぞ少しでも情報収集をとディープブルーはヴァンプ・ファタールに声をかけた。あっけらかんと返された答えに、ディープブルーは目を見開く。
「ライトヘビー級のコラボメニューが出た時点で、既に練っていたのよ。アタシならこうする、もっと自分らしさを出せる、ファンを悦ばせることができる……ってね」
「あァ、そういう……
 どうやらかなり私怨が混じったものだったらしい。選択を間違えたな、とディープブルーは後退りし、そのままフェードアウトしようと試みた。
「要は、顧客の求めているものを考えればいいだけ。今回はコラボレーション……つまり求められているのは『らしさ』よ。イメージカラー、キャラクター性、それにちなんだメニュー……どれだけ自分『らしさ』を盛り込めるか、ようく考えてごらんなさい」
 ……なるほど、一理ある。選択は間違いという程でもなかったのかもしれない。それなりの成果を得たところで、ディープブルーはそくささと逃げるように去っていった。これ以上を求めれば、ダメ出しばかりもらうに違いない。そんな面倒なことはゴメンだと、先に退室したレッドホットを追いかけた。



「兄者、グレナデンシロップってなんだ」
……オレが知ってると思うかァ?」
「それもそうか」
 弟の質問に答えることすら面倒で、ディープブルーは突っ伏したまま手をヒラヒラ振った。その返答を聞いて、素直にスタスタ店員の元へ行ってしまったレッドホットに少々苛立ちを覚える。あいつ今『それもそうか』っつったか?
「ザクロのシロップ、らしい。赤かった」
 戻ってくるなり、レッドホットは学んだことを兄へと報告する。どうやら見せてもらったらしく、具体的な感想まで添えられていた。
「へェ……『レッドホット』のイメージにピッタリじゃねェか。採用すんのか?」
「いや、しない」
「進まねェ……
 きっぱり断言したレッドホットに、ディープブルーは再び項垂れる。ここでひとつでも決まれば、あとはそれに合わせてそれっぽい部分まで持っていくだけだったのに。材料ひとつすら決まらない現状に、ディープブルーは足踏みをした。
「マァジでどうすんだって! このままじゃ何にも決まんねーぞ!」
「兄者は、何かないのか」
「何かありゃとっくに出してるッての!」
 ウガーッと喚くディープブルーを、チラチラと遠巻きに人々は視線を送る。このままでは暴れ出しかねない、とレッドホットは腕を組んで兄を落ち着かせる方法を考える……が。
……飽きた。泳ぎたい」
 レッドホットは、頭脳戦には向いていない。あっという間に飽き飽きしてしまい、首をゴキッと回した。
……だな。ここに居たってしゃーない。一旦リセットだ」
 ディープブルーはぴょんと立ち上がり、エアスピナーの起動キーをくるりと回す。ようやく立ち退きそうな気配に、周囲の人々はホッと胸を撫で下ろした。のそりと腰を上げるレッドホットに、クイッと指を折り曲げて見せる。
「プールでひと泳ぎして、こいつはその後考える……まァ、どうにかなるだろ」
 企画書をくしゃりと丸め、ポケットの中へと放り込んだ。


   ◇◇◇


 ぷかぷかと、波に揺られて流される。端から端まできっちり泳ぐレッドホットの起こした水飛沫を受けながら、ディープブルーはただひたすらに揺蕩っていた。
 赤と青……『らしさ』とやらが必要なら、それは外せない要素だろう。飲み物としてはそう馴染みのある色ではなく、いっそカクテルなんかが良かったんじゃないか。真っ先にアルコール担当を掻っ攫っていったヴァンプ・ファタールを恨む。
 あとはサーフィン、波、ふたりでひとつ、爆発……。大衆のイメージを考えれば考えるほどに、どれを取り入れればいいのか分からなくなってくる。味だって、苦味を感じるものはおそらくイメージから外れる。ぐるぐるぐるぐる頭を回し、その重さに耐えきれなくなってディープブルーは水中にどぷんと潜った。

 ぱちりと目を開ければ、潜った勢いで生じた泡が浮かぶ様が見える。水中から見るエレクトロープの明かりは、鈍くて何の刺激にもなりはしない。呼吸が出来ない状態なら、思考はシンプルに、真っ直ぐになっていくもの。これは、ディープブルーが泳ぐようになってから知ったこと。余計なことは全部泡にして、頭の中を本当に考えたいことだけにする。水底に向かって足を動かし、軽く背をつけた。泡は、ひたすら上に向かっていく。
 視界の端で、見慣れた足がチラチラ動いている。突然沈んだディープブルーの様子を見に来たのだろう。仕方ない、そろそろ上がるか。ディープブルーは浮力に身を任せ、泡と共に上に向かっていく。
 浮かび上がる直前、ディープブルーは僅かに口を開けた。ぶくぶく泡が浮かんだ青色が、なぜだか美味しそうに見えたので。中に入り込んでくる水が、美味しいはずがないのに。それなのにどこか知っている感覚に陥って、ディープブルーは懸命にその糸を辿る。逃すな、これはひらめきだ。思考はシンプルに、真っ直ぐに。肺の中が空っぽになっていって、くらりと目眩がする。視界の端が暗くなって……頭の中で、泡が弾けた音がした。そうか、これは。
「ッぶはァ!」
「あ、無事だった」
 何度も咳を繰り返すディープブルーに、レッドホットは首を傾げる。大きな波があったわけでもないのに、何故そんなにも苦しくなるまで潜っていたのだろうか。
「ゲホ、ぅえッ……おい、ソーダだ」
「何がだ?」
 ある程度咳も落ち着き、ディープブルーは前髪をかきあげる。彼の中では繋がっている話題も、レッドホットには伝わらない。泡となって散らばった思考をかき集め、伝えるために言葉を考える。
「エクストリームズ、コラボメニュー……ソーダがいい。ソーダにするぞ」
 ザバッと勢いよくプールから上がり、カバンに移し替えていた企画書を取り出す。そのままズカズカ戻って、きょとんとしたレッドホットの目の前に突き出した。……紙は濡れ、へにゃりと今にも破けてしまいそうだ。レッドホットは、再び首を傾げた。


   ◇◇◇


「青ッ!」
「赤い」
 机にトンと置かれたグラスを見て、ふたりは目を丸くする。しゅわしゅわ、パチパチ弾ける泡。鮮やかな青色と、底で燻る赤色。上に乗ったレモンなどのフルーツが、サーフボードっぽさと爽やかさを演出する。
「これ、なかなかなんじゃねェ?」
「モザイク・コーヒーって凄いな……
「バァカ、オレたちのアイデアが良かったんだよ!」

 プールから帰ったあとのディープブルーは早かった。紙が使い物にならないからとシュガーライオットのインクを拝借し、控え室の壁一面を使ってひたすらアイデアを描き起こした。時折レッドホットがそれは何だあれは何だと口を出すと、ディープブルーがあれこれ描きつつも説明する。そこで受けた質問を元に、色々描き加えてみたり。さあデザインは決まった、あとはコラボメニューの開発担当者に任せようとなった時。シュガーライオットからの通報を受けたメテムに見つかって、長時間に渡るお叱りを……とまあここはどうだっていい。とにかく、あの時思い描いたものが今目の前にある。ふたりは顔を見合せ、ニッと口角を上げた。
「さァて、味はどうなんだ?」
 試飲用にと出されたグラスを光に透かして、ディープブルーはカラリと揺らす。ザクザク氷が音を立て、その隙間を縫って泡がパチリと弾けた。
 上の層を、ストローで流し込む。辛く、強い炭酸ではない。後に残らない甘さと、喉を通ったあとの爽やかさ。喉奥でシュワシュワ音が鳴り、キュッとディープブルーは目を閉じる。
「ふ〜ん、さっぱりしてんなァ」
……これ、下の赤いの、ゼリーだ」
 ザコザコストローで掻き混ぜて、レッドホットが勢いよく啜った。さっぱりしているソーダと一緒に、甘く重たい、つるりとしたゼリーが口に入る。どちらも喉越しは良く、爽快感がメインになっているようだ……が、ソーダ部分のみを飲んだ時と違い、ベリーの独特な甘みが舌に残る。ディープブルーもゼリー部分までストローを差し込んで口に含み、ハッと鼻で笑った。
……あれだ、お前の攻撃って焼け跡残るだろ」
「だから、後味」
「開発担当、オレたちのこと大好きかよ!」
 ケラケラと楽しそうに声を上げ、ディープブルーは何度も口を付ける。赤と青、サーフィン、波、ふたりでひとつ、爆発……。思いつく限りの『らしさ』を、余すところなく盛り込んだ。これはさすがのヴァンプ・ファタールも舌を巻くのでは。くつくつ悪戯な笑みを浮かべるディープブルーに、レッドホットは首を傾げる。
「あとは、名前」
「技名とか、魔物の名前とかだっけかァ? そうだな……
 トリックならいくつも思い浮かぶし、自分たちを示す格好良い言葉は沢山あるだろう。が、この爽やかさや甘さがオレたちだというのなら。凝った言葉選びも、取り繕った感じも必要ない。
「波乗りソーダ。シャレた名前は、ヴァンプ・ファタールにでもくれてやらァ」
……分かりやすい、いいと思う」
「じゃあこいつで決まりだな。メテムのやつにとっとと申請しちまおうぜ」
 カンッ、あっという間に飲み干してグラスを机に置く。ディープブルーはコラボメニューの試作品を持ってきた店員に、ヒラリと手を振った。隣で、レッドホットが親指を立てて良かったことを伝える。店員はニコリと微笑み、耳元に手を当てて何かを話し出した。コラボメニューの担当者に、成果を報告しているのだろう。
「こんな程度か……終わっちまえば、案外楽な仕事だったな」
「兄者、大分苦戦してた」
「お前も大してアイデア出してこなかっただろうが!」
 余計なことばかり口にするレッドホットの腹部に蹴りをくれてやる。イテ、と小さく漏れたその声にまた苛立ちが募り、ディープブルーは地面を蹴った。
「コラボ、始まったら……また飲みたい」
 レッドホットが、名残惜しそうにモザイク・コーヒーを振り返る。珍しい弟の反応に、ディープブルーは目を丸くした。一呼吸置いて、フッと鼻で笑う。
「ま、気が向けばな」
 エアスピナーの起動キーを、くるりと回した。


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