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ひとつ遅れの心拍

全体公開 神無三十一受け 6 31 2445文字
2026-02-08 16:59:14

カルみと 大怪我の話
シナリオネタバレあり

 

 目を開けるとそこは、見慣れた恋人の家の天井だった。

 「……ぁ?」 

 思わず小さく声を漏らした縞斑は、何が起こっているのか分からず辺りを見回そうと首を動かす。
 しかしその瞬間、ずきりと全身に軋むような痛みが襲って思わず顔を顰めた。大人しくベッドに沈んだ縞斑はようやく、見覚えのあるそのシーツもやはり恋人のものだということに気がつく。

 「……なに、が…………

 一体何が起こったのか。そう考えた縞斑は、自身の体の至る所に包帯が幾重にも巻かれていることを自覚した。特に脇腹と肩が痛みを主張しており、そこに巻かれた包帯にはじわりと薄く血が滲んでいる。
 なにより、いつも部屋を満たしている甘い匂いが消毒液のつんとした匂いに変わっていることに気がついた縞斑は、自分の犯してしまった失態に思わず頭を抱えてしまった。

 「いてて………あー……やっちまった」
 
 確か自分は戦闘中に怪我を負ったのだ。
 弾は残留しなかったが、その痛みと出血量は己の限界に近いもので、もう駄目かもしれないと考えてアサギリに連絡を取ったことは覚えている。
 出来る限りの引き継ぎをして、すぐにでも駆けつけようとする彼を宥めて、そのあとおそらく用事のために現場を離れたのだろう。
 そこまで考えた縞斑はふと、ベッドのそばの気配に気がついて視線を向けた。

 「……神無ちゃん、」

 そこには、シーツに頬を埋めて寝息を立てる神無の姿がある。

 瀕死の重傷を負った縞斑は、現場を離れたその足で神無の家へと向かったのだ。
 もらっていた合鍵で家に入って、薄暗い室内に神無の姿がないことを知ったところで意識が完全に途切れたのである。
 きっとあのあと、帰宅した神無が手当をしてくれたのだろう。泣き腫らした赤い瞼を閉ざしたその姿にちくりと胸が痛んだ縞斑は、そっと慈しむように神無の頭を撫でた。

 「ん……ぅ、?」

 その手のひらに導かれるように、神無が小さく身じろぎをして瞼を持ち上げる。
 眠たげに目を擦った彼はぼんやりと朧げな視界で自分を見下ろす縞斑の顔を見つめていたが、やがて我に返った様子でぱっと飛び起きて不安げな顔をした。

 「せ、せんぱい……っ!」
 「……うん。おはよ、神無ちゃん」
 「先輩……先輩、よかった……

 縞斑の手を握って無事を確かめた彼は、ようやく息の仕方を思い出したかのように震える息を吐く。
 その瞳に滲んだ涙は、縞斑が拭うより早くシーツの上にぽたぽたと落ちてしまった。

 「起きなかったら、どうしようって……
 「……心配かけてごめんね」
 「っ、ほんとだよ!アサギリから連絡来たとき、心臓おかしくなりそうだったんだからな!」

 アサギリから、負傷した縞斑との連絡が途絶えてしまった、という連絡が届いた神無は、自宅を飛び出して心当たりの限り彼を探し回ったのだ。
 それでも彼の姿は見つからず、神無が途方に暮れたそのとき、自宅のセンサーに誰かが触れたという通知が届いたのである。
 自宅の鍵を開けて入っていった誰かの通知を受けた神無は、まさかと慌てて自宅へ舞い戻った。
 そうして玄関扉を開いたら、そこには血濡れのまま気を失う縞斑の姿があったのだ。

 「なんでこんな危険なことしたんだよ……

 縞斑の傷は一刻を争うほどの重いもので、神無は直ちにアサギリに連絡をしてニトを呼ぶことにした。
 まもなく駆けつけた彼らの治療と、それまでに神無が懸命に行った応急処置のおかげで、縞斑はなんとか一命を取り留めたのである。
 もしも神無が通知に気が付かず、この場所で手遅れになってしまっていたら。そう考えて青ざめた神無には、縞斑の行動の理由が分からない。

 「……最期に、会いたいと思った」

 俯く神無を見つめていた縞斑は、彼の頭を撫でながらぽつりと呟いた。

 「は……
 「これで終わりになると思ったとき……叶うなら、顔が見たいと思ったんだ」
 「やめてくれよ……!あんたの口から最期なんて聞きたくない!!」
 
 顔を上げた神無が大きく首を横に振る。
 眉を寄せて苦しげに顔を歪ませる神無を見上げた縞斑は、再び滲み始めてしまった涙を拭いながら言葉を続けた。

 「何も伝えられないままは、後悔するでしょ」
 「そうだけど……っそうだけど!最期になんてすんなって言ってんの!俺がどんな思いで……!!」

 口走ろうとした神無が、唇を噤んで鼻を啜る。
 きっと彼には、あの日自宅で倒れていた養父の姿が縞斑と重なっていたのだろう。
 血に濡れたまま動かない縞斑を抱え起こして、アサギリたちが来るまで待つことしかできなかったその時間がどれほど不安で苦痛だったか、縞斑には計り知れない。
 縞斑は、あとからとめどなく溢れる神無の涙を拭いながら誠実に謝罪の言葉を選んだ。

 「……本当にごめん。俺の勝手で君を傷つけた」
 「そう思うならはやく良くなって。そんでお詫びにスイーツ山盛り奢れよ」

 しばらく縞斑に大人しく頭を撫でられていた神無は、ふいと視線を逸らすとそう条件を提示して唇を尖らせる。
 それはまるでへそを曲げた子供の挙げた内容みたいで、彼なりの安堵と歩み寄りなのだろうと受け止めた縞斑は小さく笑った。

 「…………そんなので許してくれるの?」
 「スイーツ山盛りトラック一台分」
 「はは、そんなに食べたら太るよ」
 「たくさん泣いてカロリー消費したからいいの!」
 「いたた、はいはい」

 そう声を上げた神無は、縞斑の腕を軽く叩くとベッドを立ち上げる。痛みにわざと声を上げた縞斑は、そんな彼の可愛いわがままを甘んじて受け入れて一刻も早く傷を治そうと心に決めるのだった。

 「笑ってるけどこのあとお説教二回戦だから。覚悟しとけよ先輩」
 「えっ」
 「アサギリめちゃくちゃ怒ってるけど、俺助けないもんね」
 「…………まずいな」



 


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