童話パロよだつか。姫ポジは🦅。SNSで連載中。完結したら支部にまとめてここは多分消します。※🦅25歳、☀17愛くらい?
@kitunebana
①
ある王国に一人の王子が生まれた。雪のように白い肌。黒檀のような黒い髪。林檎のように紅い唇。王子のあまりの美しさに出産に立ち会った者たちは息を呑み、自国の王子の誕生に更に沸いた。
美しき王子は肌の白さと唇の鮮やかな紅さから「白雪王子」と呼ばれるようになる。
◇◆◇
白雪王子──ジュン・ヨダカはそれはもう麗しく育った。成長してもその美しさは陰ることなく、むしろ輝きを増す一方だ。この国一番、いやこの世界一と称える者も多い。しかし彼を「白雪王子」と呼ぶ者は年々と減っている。それは何故か?答えは簡単だ。ジュン王子の性格が原因だった。
姿は神が創造したものとばかりの美しさ、しかし周囲に振り撒くのは春風などではなく凍える吹雪。多くを語ることはないがその美しき唇から発される言葉はどれも鋭く、相手に二の句を告げさせない。自然といつしか彼は「白雪王子」ではなく、「氷雪王子」と呼ばれるようになったのだ。
そんなジュン王子の母である王妃が亡くなった。病死だと言われている。国民は悲しみ、国母へと冥福の祈りを捧げた。そして喪の明けて間もなく、国王は新しい妃を娶ったのだ。
ジュン王子の継母となった新しい王妃は、外見は美しいと言っても許されるだろう。国王よりも年若く見え、見た目だけならジュン王子の方に年齢が近く見えるかもしれない。そんな王妃には一つ、秘密があった。
──王妃は、魔女だったのだ。
◇◆◇
「鏡よ鏡、この国で一番美しいのは誰?」
王妃の部屋の一角、誰にも入れないように細工された場所に一枚の鏡が設えられている。その鏡に向かってそう訊ねるのが王妃の日課だった。普通に考えれば無機物に話しかけるヤベエ人間にしか見えない。しかしその鏡は普通の鏡ではなく、魔法の鏡とされるものなのだ。
『そりゃあ勿論、ジュン王子にございます』
そしてこの魔法の鏡の答えは毎日、一字一句変わることがない。つまり毎日王妃は「ジュン王子以下」と告げられているわけだ。魔法の鏡に自我があれば「何で毎日懲りずに同じこと聞くんだろう?」と思ったかもしれない。しかし魔法の鏡は喋るし、問いには答える。けれど自分の意志というものは無いのだ。なので馬鹿正直に毎日「この国で一番美しいのはジュン王子」と答え続けていた。ちなみに王妃は思いつかないのか鏡への質問は同じだが、質問が「この国で」ではなく「この世で」と変えても実は答えは同じだったりする。
王妃は最初この言葉に腸が煮えくり返った。衝動のままジュン王子を殺そうとしたこともある。けれど王妃のどんな策略もジュン王子には通じず、全て難なく躱されてしまっていた。ジュン王子の運が良いとかそういう次元ではない。
そうして継母となった王妃から秘かに命を狙われながらも何事もなく育ったジュン王子は成人を迎えた。
その頃になれば王妃も考えを改め始めた。ジュン王子の命を狙うことは止めようとしたが、それは情が湧いたとか諦めたとかではない。あれだけ美しい男を自分のものにする悦楽は如何程のものか。そしてその美しい男を手に入れたならば、自分はそれ以上ということになると考えたためだ。都合よく国王が亡くなり、王妃が国の実権を握ったこともありその考えは加速した。普通に考えれば国王の実の息子であるジュン王子が玉座に就くのが当然なのだが、どういう力が働いたのか王妃が国主となってしまっていたのだ。
そんな王妃は露骨にジュン王子へと擦り寄った。発情期の獣もかくや、という勢いでジュン王子に色目を使い、媚びを売って科をつくったのだ。そのどれもが功を奏せずジュン王子には相手にもされない。鬱憤が溜まった王妃は再びジュン王子を亡き者にすることにした。
◇◆◇
「……ジュン王子。この先を行けば隣国に通じてます」
「シンイチロウくん、いつもみたいに普通に喋って」
ある日、ジュン王子は幼馴染であるシンイチロウと共に森を歩いていた。二人は身分さはあれど親友で、普段は気さくに話す仲である。そんなシンイチロウが畏まった物言いをして、真剣な顔で伝えてくるものだからジュン王子も気になった。
「ジュンくん、このまま逃げてほしい。王妃が君の命を狙ってるんだ」
「それは知ってる。今更でしょ」
なにせ長年刺客が送られてくるのだから。何を今更?である。
「今度は本気なんだよ。……僕に、ジュンくんの心臓を持って来るよう命じた」
「……そう」
自他ともに認める親友であるシンイチロウ相手ならジュン王子も今までのように返り討ちとはいかないと王妃は考えたらしい。そして断ればシンイチロウ自身と、関係者全ての命に係わる。仮にも王妃はこの国の一番上の立場に収まっているのだ。王命に背くことが何を齎すか、わからなければ愚かだろう。シンイチロウのソニドリ家を滅ぼすことなど容易い。それでもシンイチロウは命令に頷くことも、ジュン王子の命を奪うことも出来ず、時間稼ぎのようにジュン王子を国外に逃がそうとしているのである。
「ひとまず僕は猪か何かの心臓をジュンくんのものだって偽って時間を稼ぐよ。その間に王妃に叛意を持つ人たちと連携してこの国を君に返すと誓う」
「……別に僕、王位とか興味ないんだけど。どうせなら王制を撤廃して有能な人間たちによる議会運営での国政に変えた方が良いと思うよ」
そんなジュン王子の言葉にシンイチロウは困ったように眉を下げる。ジュン王子がそういう考えなのは元々知っていたからだ。
「まあ、でもいつまでも命を狙われるのはどうにかしたいかな。でも僕が手を下したら僕を持ち上げる人間が居なくならないよね」
「うん。ジュンくんは熱狂的な支持者が居るから……」
熱狂的というより狂信的という方が正しいかもしれないジュン王子の支持者は高位な者に多い。ジュン王子が王妃を排したならば、必ず彼を玉座へと担ぎ上げるだろう。
「それなら確かに僕は国外に出るのが一番みたいだね。僕が死んだことにして、王妃を排して、議会制に移行。前王の直系は僕だけだから、僕が消えたままなら問題ないでしょ。傍系にまでは手を出さないと思うしね」
納得したジュン王子はシンイチロウの提案に乗ることにした。ただ険しい道を往くことになるシンイチロウのことは気掛かりではあるが、自分がいない方が都合が良いことも確かなので。
「元気でね、ジュンくん」
「シンイチロウくんも。……問題が片付いたら連絡をして」
「うん、必ず」
逆ならまだしも、他国を彷徨うことになるだろうジュン王子へと連絡する術があるとは普通は思わない。しかしジュン王子もシンイチロウも、その心配は一切していなかった。二人の間には──正しくはジュン王子には、シンイチロウからの連絡を受け取ることが可能なのだ。
「それじゃあ」
「気を付けてね」
こうしてシンイチロウと別れたジュン王子は森の中を一人歩いていく。例え獣や盗賊などが出たとしても敵ではない。ジュン王子は途轍もなく強いので。
◇◆◇
「あれ、君どこかで見たことがあるな?」
しばらく森を進んで隣国の領域に入った頃、ジュン王子は見知らぬ男と出会う。モサモサとした頭髪をした男は警戒心など無くジュン王子に話しかけてくるので、ジュン王子も警戒することが馬鹿らしくなった。
「んー?……あ!そうだ!君、隣国の王子様だよね?確かジュン・ヨダカ王子!!あ、氷雪王子の方が良かった?」
ジュン王子の氷雪王子という通称はその美しさと共に自国だけでなく隣国まで響き渡っていた。しかし面と向かって氷雪王子と呼んでくる人間は居なかったのでジュン王子は少しだけ面食らう。
「……ジュンで良いよ」
ジュン王子のこの発言は既に王子ではないという主張のつもりだったのだが、男には通じてはおらず単純に「そう呼んで」と言われたと受け取っている。ジュン王子翻訳検定殿堂入りはどこにでもは居ない。
「そう?じゃあジュンくんね!実は家で面倒を見てるツカサくんが君のファンでさぁ!めちゃくちゃ憧れてて、元々の素養は無かったのに魔法だって使えるようになった子でね」
「ふぅん」
実はジュン王子、魔法が使える。王妃が魔女だと先述したが、この世界で魔法を使える人間は間々存在するのだ。力の強弱はあれど基本的に先天性であり、後発的に魔法が使えるようになることは珍しい。可能性としては素養が無いとされていたが実は眠っていただけ、などの場合だ。なので男の言う「ツカサくん」とやらに多少の興味を持った故の「ふぅん」だったのだが、これも通じては無かった。
「あれ?興味ない?というかこんなとこで何してるの?ここ、国境過ぎてるよ?」
「知ってる。国に居たらいつまでも命を狙われるから出てきたところなだけ」
トップシークレットともいえる内容をアッサリと暴露するジュン王子だが、人を見る目はある……というより勘が良い。そして豪運だ。何事も彼の好いように事態が動く。この頭がモサモサした男には話しても大丈夫だと判断した結果だ。
「え!?それって大事じゃない?あ、だったら行くとこ無い感じかな?良かったら家来る?」
「……いいの?」
突然根無し草となった身である純は今夜の寝床すら無い状況だ。男からの申し出はありがたいものではある。しかし「不用心じゃないの?」という思いもあった。一方的に知っているジュン王子に対して警戒心が無さすぎる。
「いいよ~!ツカサくんに会ってほしいし。それに僕の妻も君のファンなんだよね」
先ほどから男は妻とツカサくんとやらがジュン王子のファンだと言っているが、それはジュン王子の国で催された出来事があり、それを見たのだった。雪の季節に冬の精霊へと奉納する舞をジュン王子が踊ったことがある。神や精霊もかくやというジュン王子の舞は完璧で、美しく、誰をも熱狂させたものだ。
「それに僕、人を見る目はある方だって思ってるんだ。ジュンくんは大丈夫だって思うから誘ってるから心配要らないよ」
「……君、変わってるね」
「そう?あ、名乗ってなかったね。僕はコウイチだよ。コウイチ・カゴ。よろしく!」
「うん、よろしく」
「じゃあついてきて」
そう言って先導するコウイチの後に続いてジュン王子は森を抜けた。
◇◆◇
「ただいま~」
「あ、カゴさんおかえりなさい」
「やあツカサくん。実はお客様連れてきたからよろしくね!」
森にほど近い一軒家の扉を開くとコウイチは元気よく金髪の青年に挨拶をした。どうやら彼がツカサくんらしいとコウイチの後ろに立っていたジュン王子は察する。
「え!?ちょっと、そういうのは前もって言ってくださいよ!ご飯の用意とか色々あるんですからね!?」
「僕は食べないから大丈夫だよ」
「そういう問題じゃ……ん?貴方がお客さ……え?まさか……嘘だよな?ジュン・ヨダカに見える」
「僕はジュン・ヨダカで間違いないけど」
ジュン王子の声に反応してコウイチの背後へと視線を向けたツカサは驚愕に目を見開いている。誰だって隣国の王子がこんなところに現れるとは思わないだろう。
「えっ、えぇー!?」
「うるさいよ」
「あはは!ツカサくん思った通りの反応だねぇ」
二人の邂逅を楽しそうにコウイチは笑い飛ばす。その姿をジュン王子にうるさいと言われたため掌で物理的に口をふさいだツカサが恨めしそうに見た。
②
「それじゃあジュンくん、改めて紹介するね。この子はツカサくん」
「うん」
「あぅわっ……」
憧れのジュン王子との邂逅に、ずっとツカサは落ち着かない様子だ。
「それからこっちが僕の妻、メイコ。抱っこされてるのが娘のヨウだよ」
「初めまして!」
「あぅ」
ニコニコとしたメイコと彼女に抱っこされているヨウ。家のリビングに腰を落ち着け改めてジュン王子はコウイチから家族を紹介されていた。
「あ、確認してなかったけどジュンくん赤ちゃん平気な人?」
「うん。シンイチロウくん……友人に同じくらいの子が居るから」
「そうなんだ?ちょっと人見知りには早い気がするけど、ヨウはそんな感じがあるから寄ってこなくても気にしないで」
幼い子どもとの接触というものは人が考える以上に少ないものだ。縁がない人間には本当に接する機会が少ない。それ故苦手だと思っている者も居るのだが、ジュン王子は平気だと伝えた。
「歩き回るには早いよね?」
「ハイハイは出来るんだよ~」
「そう」
親馬鹿なのか得意気なコウイチの言葉にジュン王子は「そういえばシンイチロウくんの息子も縦横無尽にハイハイしてたな」と想像よりも速いスピードで部屋の中をハイハイし、足にまとわりついていたこともあったリオウのことを思い返していた。シンイチロウの子はジュン王子にとって甥っ子のような存在である。ウゴウゴとベビーベッドで寝返りすら出来なかった頃を考えれば凄い成長だと改めて考えた。そんなリオウとヨウは同い年くらいだろうとあたりをを付ける。
「それからメイコはちょっとだけ身体が弱いから起きてこれない日もあると思うけど、こっちも気にしないで」
「……もしかして精霊の加護のせい?」
「お!わかっちゃうもんなの?」
「……人によるかな」
この世界に魔法が使える人間は間々居る。そしてその中には精霊から加護を与えられている人間も少ないが存在していた。その恩恵や能力は精霊により様々だが、加護を与えられた人間にプラスに働くとは限らない。メイコのように身体に悪影響が起こる場合もあるのだ。それは精霊のマナに身体が耐えきれないか、自身の保有魔力量が少なく精霊の加護が働くのに必要なマナが足りない場合に起こってしまう。
「私に加護を与えてくれてる精霊は好奇心が強いの。何でも興味を持つみたいで、私を依り代にしてこの世界のことを色々と見てるみたい。でも私にそれをずっとさせてあげられる魔力量は無くて」
「代わりに体力が削られてるんでしょう?」
「そうなの!よくわかったわね!」
過去にも似たような例があったみたいだからね、とジュン王子はメイコに答えた。
「精霊は高次元存在だから、人間とは少し感性が違うことも多い。人の子の身には負担が大きくても気づかなかったりとかね」
「ええ。だから私は刺激の多い都には常に居るのは難しくて。ここは森の近くで目新しいものも少なめで、マナも豊富なの。だから体調も良いことが多いのよ」
自然が多い場所にマナが多いことは事実だ。そして魔力がある人間は周囲からマナを吸収している。そのためマナの多い土地や、魔力量の多い人間の傍に居ると減った魔力の回復が出来る場合も多い。だからコウイチはメイコのことを考え、この場所に住んでいるのだろうとジュン王子は理解した。ツカサを家族同然の扱いをしている理由にも。
「カゴ家はこれで紹介終わりだよ。メイコもツカサくんもジュンくんのことは知ってるよね?」
「ええ」
「はい」
「今日から一緒に住むことになったから、よろしくねー」
何とも軽い締めくくりでコウイチは「はい!自己紹介終わり!」とした。ジュン王子が命を狙われることを理由に国を出ていることは言わないでおくようだ。
「えっ!?詳しい説明は!?」
「あはは。とりあえずツカサくん、ジュンくんのお世話お願いね!」
「ちょっとカゴさん!?」
説明する気は無いコウイチは自分が招いたのにジュン王子のことをまるっと全てツカサに投げた。
「……よろしくね、ツカサくん?」
「ヒェッ!?」
とりあえず「挨拶は礼儀だよ!ちゃんとしようね!」とシンイチロウに言われていたジュン王子に、憧れから名を呼ばれたツカサはまたも叫びをあげてしまい早々に二回目の「うるさいよ」を頂戴した。
◇◆◇
一応シンイチロウが偽の心臓を王妃に持ち帰ることで死んだことにされているとはいえ、いつ追手がかかるかもわからない。けれどジュン王子はカゴ家を出て放浪の旅に、ということはせず生国に程近い隣国に根を下ろしたままだった。例え王妃からの刺客が現れたとしてもどうにでもできる実力を持つジュン王子なので、実はそこまで心配は要らない。どちらかと言えば世話になっているカゴ家の人間に被害が出ないようにという思いは持ってはいるものの、それもどうにかなる……というか「する」のがジュン王子だ。なので居心地も好いことからジュン王子はカゴ家に留まることにしていた。興味を抱いた存在も居るので。
「ツカサくん、もう一回」
「っ!……はい!」
カゴ家に近い開けた場所でジュン王子はツカサに舞を舞わせていた。かつてツカサが目にし、憧れたというジュン王子が舞ったものを。拙さや至らないところはあるものの、ツカサの舞はジュン王子のものによく似ていた。身長に違いはあるが、足の運びや手の動きなど全てジュン王子の動きをトレースしている。
「……うん。さっきよりは良くなったね」
「本当ですか!?っ……嬉し過ぎる!!」
「大袈裟。まだまだ改善点はあるよ」
「うぐっ」
ジュン王子がカゴ家に来た頃はかなりぎこちなかったツカサも寝食(ジュン王子は殆ど食べ物を口にしないが)を共にして、今では打ち解けている。こうして「見た?やって」形式とはいえ舞を教わるくらいには。
「やっぱりツカサくんは太陽が出ている時の方が調子が良いね」
「そうですか?」
「うん」
ジュン王子の言うようにツカサの身体は太陽の陽がある場合、通常以上によく動く。意識しているのではないためツカサ自身はイマイチ理解していないが。
「ツカサくんって精霊の加護持ちだよね」
「え?」
「まさか気づいてなかったの?太陽の精霊の加護、持ってるでしょ」
「えぇっ!?」
まるでそこに精霊が居るかのようにジュン王子に指で背後を示されたツカサは反射的に振り返るが、そこには何も存在していない。一瞬「あれ、揶揄われた?」とも思ったが、短いとも言えない期間になってきたジュン王子との生活によって彼はそんなことはしないということをツカサは理解していた。つまり気づいていないだけで本当に太陽の精霊から加護があるのだと。
そしてこれこそが初めて会った日、ジュン王子がコウイチがツカサを家族同然に扱ってる理由として考えたことの一つだった。精霊の加護持ちだからといって魔力量も多いとは限らない。ただ魔法が使えるだけの人間よりは多いだろうが、メイコのように足りなくなることもある。けれどツカサの加護が太陽の精霊だと気づき、魔力量の多さにもジュン王子は気づいた。
とはいえ一緒に住んでいるうちにツカサとカゴ家の人間は本当に本物の家族のような関係なのだとも理解している。
「コウイチくんがツカサくんは元々素養は無かったのに僕に憧れて魔法を使えるようになったって言ってたけど」
「待って!?カゴさんそんなこと言ったんですか!?」
「うん」
「嘘ぉ~!?本人にバラすとかっ!?」
知らぬ間に暴露されていた内容にツカサは頭を抱えた。
「それでね、多分だけどツカサくんは後発的に魔法が使えるようになったんじゃなくて、使えるけど使えてなかった状態だったんじゃないかって思うんだよね」
偶に居るんだよね、というジュン王子の言葉にツカサは何とも言えない顔をした。
「……俺が貴方の舞いを見たのは十四歳のときです。冬の冷たい空気の中、冬の精霊への奉納舞を踊る貴方は本当に美しかった。息をするのと同じように舞い、同時に氷の結晶が空気中に舞って……あの氷の結晶って貴方の魔法ですよね」
「そうだよ」
「俺も同じようになりたいって思ったんです。でも舞いは幼い頃かの練習が必要だとか、魔法は生まれつき使えなければ後天的に使えるようになることは殆どないって言われて」
「それでもツカサくんは諦めなかったんでしょ。だから今こうして踊れてるし、魔法も使えてる。誇りなよ」
「っ……ありがとう、ございます」
憧れのジュン王子に褒められ司の涙腺は決壊した。けっこう頻繁に決壊するくらい司の感情表現は豊かだ。そんな司の涙を指で拭いながらジュン王子は言葉を続ける。
「僕もね、精霊の加護持ってるんだよ。夜と月、あと氷。三つの精霊からのね」
「ズビッ……三つ、とか、凄いですね」
精霊の加護は人間一人に一つ。それが普通だ。それを三つも持っている、それも不変であり力の強いものばかりなジュン王子は本当に規格外だった。
「だからね、僕と離れてるときに僕にどうしても伝えたいことがあれば月に祈って。夜や氷は時間や時期が限られちゃうけど、月は昼間でも空に在るから。僕に伝えてくれるんだ」
これがジュン王子がシンイチロウからの連絡を受け取れる理由だった。
「……本気で凄いですね」
「ツカサくんも太陽が出てる間は同じことが出来ると思うよ。君への加護は強いみたいだからね」
なにしろ太陽の精霊なんだからと告げるジュン王子に、ツカサは加護を持っていることすら気づいていなかったので驚きの連続だった。
「……あの、もし良かったら、なんですけど」
「なに」
「もし!もし、ですよ?……俺に魔法とか精霊の加護のこととか、教えてもらうことは出来ますか?」
モジモジと言い難そうにジュン王子にツカサは言った。こんな国の外れに住んでいると、そういったことを学ぶ機会は少ない。というより皆無に近い。コウイチが用意してくれた本を読んでの独学くらいしかツカサには出来なかった。
「いいよ」
「いいの!?じゃなくてっ、本当に良いんですか!?」
「うん」
ツカサとしては一世一代とまでは言わないが、それでもかなり勇気を振り絞ったのだ。舞いを教わることになった切欠はジュン王子の方から「君、僕のファンなんだって?踊れる?見せて」と言われたことであり、「じゃあ続きは明日ね」とジュン王子の方から「見た?やって」形式ではあるものの指導を続ける旨を宣言されていたので少し違った。
ジュン王子としては最初にコウイチから話を聞いたときからツカサに対して興味を持っていたので、どちらかと言えば「どうしてこんなに驚いてるのかな?」くらいの受け止めようである。
「とりあえず基本的なところから始めた方が良さそうだね」
ツカサは自分が精霊の加護持ちだと気づいていないくらいだったので、ジュン王子は基礎から教えることに決めた。
「おっ、お願いします!」
パアァッ!と喜びを隠すことのない輝くような笑顔でツカサが笑う。それを見てジュン王子は「笑顔が太陽みたい。だからツカサくんは太陽の精霊の加護があるのかな?」と考えたことをツカサは知らない。