『3つ揃えてその未来へ』ワンドロライ参加のお話です。お題は『バレンタイン』or『バラ』ということで、両片想い了遊とバラの話です。
@d9_bond
花をもらった。
送り主は鴻上了見で、彼は下校途中の遊作の前にふらりと姿を現し、手にしていた一輪を差し出してきた。
「何事だ?」
問うと、了見は珍しく少し考える様な間を置いた。
「……店先で見て、きみを思い出した」
いつかカードを投げ渡された際ほど急ではないが、そもそも花を送り合うような間柄ではない。何か記念日や切欠が思い当たることもない、平日だ。それでも了見から差し出されたものを拒む理由もないので遊作はすぐに受け取った。きれいな花だった。
遊作が受け取ると、了見はなぜかありがとうと礼を口にするなり踵を返して立ち去ってしまった。
真意を問う間もなかったのでつまりその意図は闇の中である。
──というような経緯を、頬を上気させて帰ってきた遊作が語るのを聞きながらAiは半目になっていた。
今日はソルティスの調整日だったので学校について行かなかったのだが、ついて行けばよかったと歯噛みする。自分が付いていればその場で鴻上了見へ二十七はツッコミをいれてやった物を。
何かあるとしたら明日、二月十四日とばかり思っていたのだがそれを読まれていた可能性はある。あるいはあえて自分の不在を狙ったのかもしれない。鴻上了見はそういうやつだとAiは思っている。
遊作の家に花瓶という気の利いたものは存在しない。なんなら余分な容器すらないので、遊作は普段使いのガラスコップに花瓶の役割を任命した。
「切花は毎日水を変える……」
花を傍らに、携帯であれこれと調べている遊作は興奮冷めやらぬといった様子だ。
「明日は休みだし、花瓶を買いに行こうと思う」
「最近はフラワーベースって言うんだよ」
「同じことじゃないか?」
「検索だとそっちのが種類多くでるぜ」
「本当だ。逆に迷うな」
端末に表示されたガラスの一輪挿しと、卓上の花を見比べながら遊作はどれがいいかと唸り始めた。
遊作が貰ってきたのは、青いバラだ。
少し前までこの世に存在しなかった、人の願いが生んだ花。
鴻上了見がこの花に何を見て、藤木遊作を重ねたのかは分からない。
考えられるとすれば、かつて相対した折の対話だろうか。一度は全てを終わらせようとした者と、新たな道を見せるとそれを阻んだ者。
(ま、アイツもはっきり言わなかったってことは、今は伝える気はないってことなんだろうけどな)
なんにしろ、遊作は非常に喜んでいるようなのでその点だけは良かった。
「……綺麗だな」
呟いて、遊作は白い指先でそっと花弁のふちを撫でる。
ベルベットのようなやわらかな花弁を幾重にも重ねた鮮やかな青は、殺風景な部屋に明かりを灯したようだった。