@libel_no_uraura
「リーンク君♥」
「キャーッ!?」
スッと音も無く背後に現れたギラヒムに、切り株に座ってうとうとしていたリンクは思わず生娘のような悲鳴を上げてしまった。
バッと飛び退きマスターソードを抜こうとして足が切り株に引っかかりすっ転んだリンクを、ギラヒムがしゃがんで覗き込みニヤニヤと笑う。
「何やってるんだい?勇者サマはどんくさいねぇ。」
土と落ち葉にまみれた頭を払ってぶすくれた顔で起き上がり、リンクは切り株にどかっと座った。ギラヒムに敵意は無さそうだと判断したためだ。
「それで何の用があって来たんだよ。ゼルダの居場所なら教えないぞ。」
つっけんどんなリンクにギラヒムはくつくつと笑いながら口を開いた。
「今日はバレンタインデーだろう?」
急に何言ってんだこいつという顔を隠さないリンクを無視してギラヒムは指を鳴らした。
パチンと弾ける音と共にリンクの手元にラッピングされた透明な袋がかさりと落ちてくる。
「うわっ。…何これ?」
「チョコレートだよ、見てわからないかい?」
「いやそれは見たらわかるけど…どういう風の吹き回し…?何かヤバイものでも入ってるんじゃないだろうな?」
袋をつまんで疑いの目を向けるリンクに、ギラヒムはニヤリと笑う。笑うギラヒムを見てびくりと震えるリンクにまたくつくつとギラヒムは笑い声を漏らした。
「心配しなくてもただのチョコレートさ。ほら。」
同じ袋を取り出したギラヒムが、中身を口に放り込んでみせる。カカオの甘い香りが漂った。
「人間のきみに合わせてバレンタインデーをしてみたくてね。食べてくれるだろう?」
「バレンタインデーをしてみたくて、って…いやまあ…変なものが入ってないなら…。」
疑いは消えないものの、警戒心は薄れた様子のリンクににっこりと笑ったギラヒムはまた指を鳴らして姿を消した。
ひし形の魔力の痕跡が消え去り、手元のラッピングに目を落としたリンクはおずおずとファイに問うた。
「…これ、食べても大丈夫かな?」
「…マスターはもう少し警戒心を持つべきかと。」
ファイがリンクの持つ小袋に意識を向ける。
「…異物は混入していないと推測されます。」
リンクの顔がちょっと輝く。ぱくりと甘いチョコレートを口に含んだリンクは存外美味しかったらしく破顔した。
「アイツも嫌がらせなしでプレゼントとかすることあるんだね。」
リンクの瞳を見たファイは、あ、と気付いてしまった。
「マスター、魔力が…」
「え?」
川で瞳を確認してください、と言われ、チョコレートを放り出したリンクは瞳を川面に映す。
「あ、あーっ!?アイツ、何がただのチョコレートだ!!」
リンクの瞳には赤いひし形の模様が浮かび上がっていた。どうやら魔力が混入されていたらしい。
地団駄を踏んで悔しがるリンクを、遠見の魔術で見ていたギラヒムは嗤った。
「リンクくんは本当に警戒心がないねぇ」
その後瞳のひし形模様は数日したら無事消えたが、リンクはしばらくギラヒムに会うたびにガルガルと威嚇していた。