X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです

月夜にワルツを

全体公開 TF 5893文字
2026-02-24 22:24:37

ついったで吐き出してたスタメガ。スタメガだよ。
飛行がど下手くそなメガ様に飛び方を教えてあげるスタのスタメガ。
※スタメガです。

月夜にワルツを

「気分は如何ですか?」
……問題ない」

数日に及ぶ改造手術を終え、漸く目を覚ましたメガトロンにスタースクリームは笑いかける。
マトリクスを我が物としプライマスの加護を持つプライムへの対抗に、未だサイバトロン星を狙うクインテッサからの侵攻を防ぐため、彼らはプライマスから与えられた変形機巧を改変する禁忌に手を出した。
理論上はスパークとコグさえ対応していればオルトモードを変えても変形も動作も問題ないことは随分と昔から分かっていた。それこそ50サイクル前には実験準備も整っていたのだ。ただ、親衛隊がどれほど戦力の片寄りを訴えてもプライム達はこの研究をよしとはせず、当然実験許可も出すことはなかったのだが──彼は違った。研究資料を見るや否や、彼はこの実験が己にも可能かどうかを聞いてきたのだ。彼の参謀達がその判断に否を唱えるはずもなく、彼のための翼を造り出した。

手術は無事成功。二つ目のオルトモードを手に入れたメガトロンは更なる力を手に入れた──はずだった。

変形に問題はない。
飛行機能も問題なく動く。
彼らの理論は正しかったと証明された。

しかし、問題はそこじゃない。
生まれた時から空を飛ぶ能力を手にしていた彼らには考えたことも無かった弊害。本来持ち得ないオルトモードを手に入れたらどうなるか。それはコグを抜き取られていた元コグ無しすら知らなかったこと。
変形の仕方を知らなくとも、変形後の身体の動かし方は誰もが本能的に理解していた。そう生まれてきたのだから、誰も腕の動かし方や足の動かし方などに悩むことは無いだろう。
だがそれが、後付けの身体であったら?
三本目の手の動かし方など誰も知らないのと同じこと。それも元からあるならともかく、後から付け足され形すらもが違うのだから。

つまるところ、メガトロンは飛行がとにかく下手だった。変形はできても離陸すれば姿勢を崩し墜落し、何とか空を飛べても着陸は墜落と変わらない。速度を出そうものなら制御が効かずに明後日の方向へ墜落していく。方向転換どころか真っ直ぐに飛ぶことすら儘ならない。

そしてもう一つの問題として、空を飛ぶために生まれたと言ってもいいシーカーズは飛び方を教えることが絶望的に下手だった。

「メガトロン様の飛行形態はステルス性を重視した造りとなっており、尾翼を排除した全翼機となっています。空気抵抗が減っている分、安定性を欠いていますから制御に時間がかかってしまうのも仕方ありません。まずは構造を理解するのがよろしいでしょう。姿勢制御のための計算式が──」

ショックウェーブやサウンドウェーブの説明は長すぎて早々に退室。

「こう、ぐってやってばってやって、後はそのままびゅーんってやったら飛べます!」

スカイワープの説明は聞くだけ無駄。

「あー……えー……? 飛び方とかいちいち考えたことないっすよ。なんか、こう、飛びます」

サンダークラッカーの説明も論外。

他のシーカーズの説明も似たようなもので、結果として彼らは空を飛ぶときに何も考えていないことが分かっただけだ。

「で、俺のとこに来たと。なんで最初から来ないんですかね、アンタは」
……うるさい」

自分でも現状を良くは思っていないのか、自主的な飛行訓練や兵士に教えを乞いに行っていたらしいのだが、最終的に頼れる相手もいなくなり、仕方なくスタースクリームを訪ねてきたメガトロンに苦笑が漏れる。馬鹿共を頼るせいで無駄に時間がかかってしまっているではないか。

「別に難しいこと考えなくていいんですよ。戦車に変形した時、砲撃の仕方なんて小難しいこと考えてないでしょ? 撃ちたいから撃ったら撃てた。飛ぶのも一緒。とはいえ、そもそもアンタが『飛べる』って思わない事には始まらない。まずは空の感覚に慣れるとこから、ですかね。さ、どうぞ」
…………

こちらに手を差し出すスタースクリームの意図に気付いたのか、メガトロンは僅かな逡巡の後、不承不承ながらその手を取った。
ジェットを灯し空に浮き上がると、窓枠から外に飛び出すスタースクリームに連れられるように、メガトロンもまたエンジンに火を灯す。まだ空中でのバランスがつかめないのか、遠ざかる地表にオプティックを揺らすメガトロンの手を強く握り崩しかける姿勢を支えてやる。

「下は見ないで。姿勢が崩れます。ほら、顔を上げて。大丈夫、ちゃんと掴んでますよ」
……────」

促されるままに顔を上げ、視線を遠くに向ければ眼前に広がるサイバトロンの広大な大地に息を呑む。エネルゴンの川は回路のように地表を走り、まるで惑星そのものが一つの巨大なパーツのよう。
金属に輝く地表とそれらを覆う色彩豊かな有機物。各地に点在する光は両軍の前哨基地だろうか。遠くに霞むアイアコンの光も良く見える。
遠い昔に死んだ廃墟のようでいて、確かに息づく生命もある。
無機物と有機物。
破壊と再生。
相反するそれらを抱え込んだ母星は、斯くも美しい物だったのか。

空から見た景色に見惚れるメガトロンのオプティックが星空を写し輝く様にスタースクリームは笑みを深める。初めて空を飛んだ日のことなど最早記憶の彼方にあるが、もしかすると自分も初めてこの景色を見た日には彼と同じ顔をしていたのかもしれない。
50サイクル前とはまるで様相が変わった景色だが、空から見る母星はいつ見ても変わらず美しい。

「いい景色でしょう? これら全て、貴方の物だ。この先、制空権は名実共に貴方だけの物となる」
……悪くないな」

元より制空権はディセプティコンの物。それら全てをディセプティコンはメガトロンに捧げているが。彼が翼を得たのならば話はまた変わって来る。
捧げられてばかりであった空を彼は自由に駆け抜けることができるのだ。
そうなれば、未だディセプティコンに追い縋ろうと飛ぶ厚顔無恥なオートボットも、身の程を弁えないクインテッサも、全てが彼の翼の前に砕け散る。

──が、それも彼が自由に飛べるようになればの話。
今の状態では状況は以前と変わらない。

「でしょ? そのためには、もっと練習は必要そうですが……空でワルツでも踊れるようになれば上等ですよ」
「お前とか?」
「出来ませんか?」

スタースクリームの提案に怪訝な顔で見上げてくるメガトロンに笑ってしまう。すっかりスタースクリームよりも大きくなった機体が、今ではスタースクリームに手を引かれていなければこうして滞空していることすら儘ならない。可愛いものだと挑発気味に問いかければ、メガトロンは僅かに目を伏せ視線を逸らす。

……踊ったことなんかないぞ」
「大丈夫ですよ。それも俺がリードして差し上げます」

確かにこうして手を握っていなければ飛ぶこともできない雛も可愛いものだが。
スタースクリームが見たいのは、彼の翼でオートボットを、クインテッサを、全ての敵を撃ち砕いてサイバトロンの空に君臨する主の姿。
その為の飛び方を教えるのも、ああ、悪くないものだろう。

星空の下、空中であることを忘れさせるほど流麗に、完璧な所作で一礼したスタースクリームが微笑んだ。

「さあ、お手をどうぞ」




その日から始まった、真夜中の個人レッスン。
月明りの下、二人だけで踊るそれは戯れのようにも思えたが、メガトロンの飛行技術は目に見えて上達していた。
元々、人型のまま空中で踊れる技量を持つものは親衛隊でも限られている。一般兵は当然──奴らがワルツを踊れるかは別として──サンダークラッカーやスカイワープでも怪しい物だろう。曲芸飛行に近しい練習のおかげか、左右の推力コントロールに姿勢制御はスタースクリームから見ても驚くほど上達が早かった。

そして成果が出ているとなればメガトロンもこのふざけた練習に文句も言えず、こうして今夜も雲の切れ間から差し込む月明かりをスポットライトに二人きりで飛んでいる。

「クイック、クイック、スロー……そう、上手くなりましたね」
「馬鹿にしてんのか」
「まさか。正直驚いていますよ。流石、呑み込みが早い」

空の上を滑るように飛びながらステップを踏めば、メガトロンも危なげなくついてくる。飛行技術もさることながら、ワルツのステップも、まだぎこちなさは残るが大したものだ。この分では、夜の戯れが終わってしまう日も近いのだろうか。

(まあ、そうなりゃ次はタンゴでもやらせてみるか)

当然これで終わりにするつもりも無ければ、『初日に比べれば』という話。雛がようやく羽の動かし方を知った程度で満足されてはたまらない。口を引き結びながらも得意気な顔が隠せていない幼さに悪戯心が刺激され、少し意地悪をしたくなる。

「それじゃ、少しテンポ上げてみましょうか」
「は? あ、ちょっ、馬鹿、待て!! うわ、あ、──ッ!!」

メガトロンの手を引いて、半ば強引にクイックスピンを仕掛ければスタースクリームに振り回される形となったメガトロンは途端に足を縺れさせてバランスを崩してしまう。
慌てて調整をしようと焦った結果消えたエンジンに次の瞬間感じた浮遊感は一瞬で、途端に重力に捕まり墜ちていく。

「──っと、大丈夫ですか?」
「ぁ……

完全に宙に投げ出される寸前、すかさずスタースクリームがメガトロンを抱き寄せる。
唇が触れそうなほど間近に迫った、悪戯を成功させ得意気に浮かんだ笑み。
月を背に楽し気に笑ったそのオプティックに、メガトロンの間抜けな顔が映り込む。

「少し悪戯が過ぎましたね」

流石にまだ不意打ちには対処しきれないか。これで対処されても可愛げが無いのでこちらの方が可愛いものではあるのだが。とはいえやはり、まだまだ課題は多いらしい。
もう暫くはこの夜の戯れも続く様子に知れず安堵の笑みを浮かべていた。

レッスンの続きをしようかと思えば、メガトロンが未だ呆けたようにスタースクリームを見上げていることに気がついた。流石に怒ったか、それとも怖がらせてしまっただろうか。

「メガトロン様?」
……なんでもない」
「────」

目元を赤く染めて、不安定なオプティックを揺らしながら視線を逸らす姿に察してしまう。
なるほどなるほど。
これはまた、随分と可愛いものではないか。

メガトロンが起き上がり滞空するのを手伝ってやりながら、姿勢を正すと再び手を取り抱き寄せた。
重ねた手をいつもより僅かばかり強く握ってみれば、戸惑いがちに握り返される。

「基本のステップから、おさらいといきましょう」
……ん」

俯きがちに応えられた小さな声に、笑いだしてしまいそうになるのを堪えてゆっくりと足を踏み出した。
その夜のレッスンでは、以降メガトロンと目が合うことはなかった。

 ■

なんて、そんな夜も懐かしい。
今では多少不意打ちを仕掛けたところで墜落するような失態は見せないばかりか、推力コントロールも完璧で彼の姿勢は僅かも崩れることはない。

(流石にこれは、見せつけてくれる……

彼が持つのはプライムのコグだから、というのは負け犬の嫉妬でしかないだろう。
コグの性能一つでこんな芸当ができれば誰も苦労はしていないだろうに。
まさかひと月と経たずにこの曲芸飛行を物にするとは誰が思うものか。オルトモードの飛行も、スピードはともかくとして飛行技術は既にスタースクリームに並んでいる。
あの日ふざけて仕掛けたクイックスピンも今では流れるようにこなしてみせる。

誰もが寝静まった時間、星空の中で踊るワルツは静謐な美しさを感じさせるが、二人だけのステージでは寂しさも滲ませた。

「曲の一つもないってのは、少し味気ないもんですね」

月光に照らされた白銀の機体は美しい。
蒼く光る銀色も、夜空に浮かぶ赤も、月明りに浮かび上がる傷痕すらも、何もかも。
言葉にしてしまえば陳腐だが、それ以外の言葉をスタースクリームは持ち得ない。
今の彼の姿をサイバトロン星の全ての者に見せつけたくもあり、誰にも見せることなくこの腕の中に閉じ込めたまま、変わらず二人だけの空で踊り続けたいとも思う。
それをするには、彼には最早無用の戯れになってしまったのだろうが。

…………

そんなスタースクリームの心情を知ってか知らずか、メガトロンは何も答えずに僅かに重ねた手に力を込めた。

「メガトロンさま?」

スタースクリームが異変に気付いた瞬間、強く腕を引かれる。
即座に体勢を立て直すが間に合わない。
視界が回る。
立場が換わる。
入れ替わる。

気付いた時にはリード役を奪われて、メガトロンの腕の中。ただ茫然と彼を見上げていた。

「──どうだ、上手くなったものだろう?」
…………

唇が触れそうなほど間近に迫った、悪戯を成功させ得意気に浮かんだ笑み。
月を背に楽し気に笑ったそのオプティックに、スタースクリームの間抜けな顔が映り込む。
肩を抱く力は強く、このままスタースクリームが飛行をやめても彼はさして問題なく支えてみせるのだろう。

「はぁ~~~~あ……ほんっと、アンタはよぉ……

全く本当に、可愛げが無い。
リード役のステップなんて、教えた覚えは一度もない。
スタースクリームからリードを奪い取りながらも完璧に制御された推力の中では抵抗すらもできずに流された。

熱を持った顔を隠すように手で覆い、彼の腕に体重を乗せてやるが思った通り、揺らがない。気に入らなくてわざと反動をつけて起き上がってみるものの、それでも即座にバランスを調整し対応してくる。
可愛かったのは一瞬、生意気に育ってしまったものだ。

「ったく、誰に似たんだか……
「手本がろくでもなかったもんでな」
「それはそれは」

肩越しに振り返ればニヒルに笑うメガトロンと目が合った。静かに佇むその姿が、支えはもう必要ないと告げていた。
しかしこのままやられっぱなしというのも親衛隊隊長の名が廃る。見上げた空に輝く二つの月は変わらず二人を照らしていた。月が隠れるにはまだ早い。
振り返った時にはいつもの不遜な笑みを浮かべて、見せつけるように月光の下跪く真似事を。

「次はタンゴでもいかがです?」
「ああ、悪くない」

差し出されたスタースクリームの手を前に、メガトロンもまた可笑しそうに笑いながらその手を取った。


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.