ホットディープ 🔥💧
統一王者が当て馬にされる(故意でない)話
統一王者視点→💧視点
統一王者の容姿、性別、会話文の描写なし
@yohima33
酷い依頼だった。レッドホットにデートの練習をしたいから相手をしてくれ、なんて言われた時は年相応に愛らしいところもあるじゃないか、と思ったのだが。本番の相手が相手だというのも分かるので、デート中何をしていても何を見ていても全部ディープブルーの話になるのも仕方ない。ちょっと質問してみても、結局ディープブルーの話に戻ってしまうのも、まあ……話題がないのなら仕方ないだろう、何よりこれは練習なのだから。本番相手になら、上手くいくのかもしれないと思う。
デートの練習とやらもそろそろお開き、という頃だった。ふと、視線を感じた。レッドホットは気付いていないようで、最近施したエアスピナーの改造の話をぽつぽつと続けている。そういう話はあまりしない方がいいと思う。
視線を感じた方角へ目だけを向けると、遠くにいたのは青髪のシャトナ族。目を大きく開いて、持っていた缶を落とした瞬間だった。……ああだめだ。これはやられた。彼らが意図したわけではないだろうが、今の自分は完全に当て馬。この後イチャイチャするためのいいダシになってしまった。全く、酷い話である。
「……ここで、終わりだ。……何点、だった?」
レッドホットがピタリと足を止め、彼らがよく居る駐車場の前にたどり着く。なるほど、ここから先はもう帰るだけなのでデートの練習としてはここで終了というわけだ。期待するようなレッドホットの表情と、遠くからの視線。交互に目を向けて、小さく息を吐く。……もう、結局何をしてもイイ役どころだったと言われるぐらいなら。いっそのこと、とことん当て馬役をやってやろうではないか。
レッドホットの頬に両手を添え、耳元へ口を寄せる。とにかく声を抑えて、聞き耳を立てていてもレッドホット以外には聞こえないだろうくらいか細い声で囁いた。伝えたのは、デートは零点だったことともうひとつ。本番の際は、誰かに見られていないか気をつけるように……ということ。そちらはどうやらピンと来なかったらしく、零点だったことにレッドホットはショックを受けているようだった。わなわなと口を震わせて、しょんぼり肩を落とす。ディープブルー相手ならきっと違うと思うから頑張って! などと適当に励まして、ひとまずその場を後にした。
……さて、何故わざわざ耳元で囁いたか。何故頬に両手を添えたか。もし遠くから見ていたヒトがいたのなら、おそらく別れの挨拶にキスをしたかのように見えたことだろう。そして、そういった文化はこのアレクサンドリアには無いらしい。青髪のシャトナ族は、落とした缶をぐしゃりと踏み潰して駐車場の方へと進む。怒髪天、完全に怒り狂っていて、こちらに目を向ける余裕すらなくなっているようだ。ドスドスと大きな足音に、くつくつ笑いがこぼれる。
もしこちらに何かしら来るとしたら、レッドホットに文句を言って十分にイチャイチャしてからだろう。からかいやがったな! と鼻息荒く苛立っている様が目に浮かぶ。まあ、多少の文句ひとつやふたつ。大人気ない対応だったとも思うので、受け入れることにする。向かう先は、モザイク・コーヒー。スフェーンおすすめ、期間限定コーヒーでも頼んで待っていようか。報酬もなし、こちらのことを全く考えていないデートと、理不尽な怒りを受けるだけ。本当に、酷い依頼だった。
◇◇◇
カンッ、カンカラカラ。空になっていた缶が、手から離れ落ちていく。最悪だ、酷い気分だ、なんてこった。さっきまで美味かったはずの炭酸が、胃の中でグツグツ煮え滾って気持ち悪い。なんで、なんで、なんで!
オレの弟と、統一王者サマが一緒にいやがる!?
……いや、待て。落ち着け。なんやかんや、アイツはそれなりに可愛がられるタチだ。なんか知らねえが、よく飯を奢ってもらったりなんかしてるらしいし。ああそう、きっとそうだ、そうに違いない。今回はたまたま、たまたまオレが目にしたってだけで。いつもみたいに、飯を奢ってもらった後なんだろう。そうなんだろ、なあ。そうだって言ってくれ。
頭ン中がグルグルしておかしくなってきた頃、ワンチャン見間違いかもと期待してもう一回アイツらを見てみる。レッドホットのやつが何か言って、統一王者サマが近付いて……は、え、なに。なん、何して。
「…………はァ?」
出た声は、案外静かだった。スーッと体が冷えて、それでも脳は沸騰してて。ぐしゃり、落とした缶を踏んづけたらしく潰れた音が聞こえたが、もうそんなの気にする余裕はない。統一王者、アイツは後で沈めるとして問題はこっち。何、流されていやがる。なんで突き飛ばしもしない。なんだよ、満更でもねえってか。はァ、そうか、へ〜。
ヒューネの小さな小さな丸い耳でも聞こえるように、わざと音を立てて前へと進む。ブチブチ血管が切れて、ギシリと歯が軋む。イライラすんなァ、おい。ンだよ、オレとは遊びだけだったってか。
ついに目の前までたどり着いて、ようやくそいつと目が合った。ハッ、骨抜きにされてんのか? オレのことここに来るまで気付かなかったのかよ。オレとは遊びだったくせに、全然遊び慣れてねえじゃん。なんだよ、キスひとつで、そんな。
……キスひとつで、そんな。オレは、なんでこんなにイラついてやがるんだ?
「兄者、なんでここに」
「……居ちゃ悪ィかよ。あ〜……お前の都合は悪かったのかもなァ。気ィ効かなくてゴメン……ッて、なァ!」
足を高く上げ、蹴りやすいように晒された腹を思い切り吹っ飛ばす。レッドホットは二、三歩よろけて、小さく呻き声を上げただけ。あ〜ムカつく、イラつく、腹の奥がグツグツ煮えてる! 蹴りがそんなに効いてねえことにも、オレに会ったからって対して慌ててねえことにも! なんで、なんでそんな普通でいるんだコイツは。お前、今、ここで!
「おいおい、レッドホットく〜ん。オレって上玉捕まえといて、浮気か、おいコラ! なんッか言い訳でもしてみやがれ!」
二発目からは、普通に避けられた。ボヤっとしてる癖して、そういう所はちゃんと闘士なんだよなァ。イラつくぜ全くよォ! 腹いせに、代わりに地面に蹴りをくれてやる。その間も何とも不思議そうな顔して、本当に何が何だか分からねえみたいな面しやがるから、余計に腹が立つ。
「浮気? 何のことだ」
「とぼけてんじゃねえ! 今誰と居やがった、何してやがったか言ってみろ!」
もう叫ぶことすら疲れて、それだけ聞いて項垂れる。肩で息して、肺の辺りが苦しくなってることに気が付いた。肺とか、その奥……とか。苦しくて、目眩がして、重たくて。下を向いてたら、なんか吐いちまいそうだったから。少しだけ、顔をあげる。
オレの癇癪が治まったとでも思ったか、レッドホットもまた息を整えていた。顎に手を当てて、考え込む仕草を見せる。ちょっとずつ、周りの温度も下がってきて。頭が冷えて、沸騰した胃の中もだんだん冷めてきて。視界が広くなって、ようやく目の前のコイツをしっかり見ることができた。……ん? なんか、コイツ。元々隠し事なんかできるような奴じゃねえってのは知ってたが。コイツの顔とか、態度とか。見れば見るほど、冷静になるほど……まさか、何か、オレは。
とんでもない勘違いを、してるんじゃねえのか?
「……? 統一王者サマ、と居た。デートの練習した。オレとのデートは、零点だ、って言われた」
「は?」
とぼけた顔をしたのは、今度はオレの方。開いた口が塞がらねえって、こういうことか。レッドホットは、なんでもないことみてェに言い放つ。コイツが何を言ってるのか、全部わからねえ。デートの、練習ってなんだ。零点? コイツはずっと、何を言ってやがるんだ?
「……練習?」
「兄者との、デートの練習。……あ、まだ誘ってなかったか?」
いやそんなのどうでもいいわ。咄嗟に浮かんだ言葉は、回らなくなった口から出ることはなかった。
「へ、いや、お前、キス」
「……キス? そんなの、兄者と以外しない」
「でも、さっき」
「顔は、触られた。あと、なんか内緒話。点数と……誰かに見られていないか、気をつけろって」
オレ以外と、しない。当然のように言い放たれた言葉に、体がスッと軽くなった。あァ、そう。そうか。オレ以外と、しないのか。
……なんて、冷えて頭が回るようになった頃。レッドホットの言葉に、違和感を覚える。内緒話。誰かに、見られてないかだと? 元を辿れば、キスを仕掛けたのはアイツから。実際はしてなくて、じゃあなんであんなに近くで話し出したのか。その忠告の意味とか、わざわざ両手で顔を覆ったわけとか。考えるほど、ひとつにまとまっていく。……ほほ〜、なるほどなァ。そういうこと。
つまり、オレたちは……というかオレか。オレは、初めから。
「……おい、レッドホット。行くぞ」
「どこに」
「アイツんとこだよ、生身の統一王者サマァ! からかいやがって、吹っ飛ばす!」
どうせモザイク・コーヒーあたりだろ。わざわざ見せつけてくれたんだ、反応見るためにまだこの辺に居やがるに違いない!
と、転送装置に向かう足を途中で止めて、くるりと振り返る。……そうだそうだ、忘れてた。キスこそしなかったが、触られたことには変わりねえ。コイツはオレの弟分。つまりオレの。クソ、頬もベタベタ触りやがって。心底腹が立つ。……外ですんのは、趣味じゃねえ。適当に、雑な娯楽に消化されちゃ堪らねえ。それでも、それでもこのバカに今一度。教えてやらなきゃいけねえことがある。
「おい、面貸せ」
「……? ……ッん、ぶ」
その引き締まった頬に、噛み付いてやる。そのまま舌を這わせ、口元までもっていく。他に気配もねえ、音もしねえ。なら、別にいいだろ。小さく歯を突き立てて、その分厚い下唇を食んだ。
「練習とか、ぬるいこと言ってんなよ。ぶっつけ本番、それで全部上手くいってる。……だろ、レッドホット?」
煽るように、舌舐りして鼻で笑う。一触即発、適当に風が吹いただけでも火がついちまうような、扱いの難しいバケモン。それがコイツ。だからこそ、オレたちはタッグを組んでいる。チリチリ熱の篭った視線を受け止めつつ、今にもガブッと食い付いてきそうな口を片手で覆った。
「おいおい、統一王者サマのありがたいお言葉忘れたかァ?」
「……誰かに見られていないか、気をつけろ」
「そういうことだ。続きはまた後で、な」
そう、オレたち……というかオレにはやることがある。一言や二言、あたりで止まりゃいい方だがまァそりゃ無理だろう。とにかく文句を言わなきゃ、弟と楽しく遊べそうにもねえ。煽ったのはオレだが、少しの間お預けだ。だってまだ、コイツにもオレは怒ってる。なんだよ、デートの練習って。相手を選びやがれってんだ。
「……兄者」
「ぁん?」
今度こそ転移装置へと体を向けると、後ろから控えめな声が聞こえてくる。
「今度、デートしよう」
「……いいぜ。お前が零点食らったってデート、腹抱えて笑ってやるよ」
真面目な顔して、そんなこと言うもんだから毒気が抜かれちまった。オレたち、しょっちゅうふたりでいるってのにまだ足りねえと。欲深いソイツは、そう言いたいわけだ。
「なんなら、これもデートに数えてもいいぜ?」
「……? これは、カチコミだろ」
「そうだけど……」
キュッと愛らしくも腕に絡みついてやったのに、ソイツは意味わからんみたいな面して首を傾げた。ンだよ、コイツのツボ本当にわかんねえな。バカらしくなって、パッと離れて肩を竦める。
こんなバカでかわいい弟分のデートに、零点を出したんだ。採点方法がどんなもんなのか、たっぷり聞いてやろうじゃねえか。腕を回して、ゴキッと首を鳴らす。そんで、とっとと帰って、その熱で腹の中を灼いてくれ。前髪の奥に狙いを定めて、キュウっと目を細める。
「楽しみだなァ、お前とのデート」
チリチリと、また熱の篭った視線が突き刺さった。