カルみと 手荒れの話
シナリオネタバレあり
@popo_trpg_ss
時計の針がてっぺんを通り過ぎてしばらくが経ったその日、翌日が休みであるのを良いことに二人はいつもより長い夜を過ごした。
「そうだ先輩、ちょっと手ぇ出して」
シャワーを浴びて汗やら何やらを流し、すっきりした様子でベッドに体を預けて休んでいた神無が思い立ったようにそう声を上げる。
縁に腰掛けて濡れた髪を拭っていた縞斑はそれを聞くと、首を傾げたまま分からないなりに手のひらを差し出した。
「どうかした?」
「んー……」
手のひらを両手で受け止めた神無は、少しだけ気だるげな生返事をしてにぎにぎと縞斑の手を握る。
指の形を確かめるように撫でる両手は決して、数時間前のような艶を纏った触れ合いではなかった。
誘っているつもりはないのだろうが、神無の考えが分からず縞斑はされるがままにその様子を見守る。
やがて神無の手が縞斑の指先に辿り着くと、彼は少しだけ眉を寄せてむぅと唇を尖らせた。
「……やっぱり、荒れてる」
「え?荒れ?」
首を傾げた縞斑が視線を落とせば、神無が不服げに触れていた自分の指先は確かに冷えと乾燥によって普段よりかさついている。
どうやら縞斑の指が荒れていることが気に食わないらしい神無は、その手を撫でたまま言葉を続けた。
「ハンドクリームとかでちゃんとケアしてる?」
「うーん、べたべたして苦手なんだよね」
「そんなこと言っても、切れたり赤くなったら痛いだろー?」
手のケアについてあまり乗り気ではない縞斑にますます眉を寄せた神無は、ちょっと待ってと一言断って枕元へ手を伸ばす。
「ゔっ……」
「あぁほら、無理しない。どれ取ってほしいの?」
途端、ぴきりと無理を強いた腰が悲鳴を上げてベッドに撃沈した神無を宥めた縞斑は、彼の指差した枕元の引き出しを開いた。
中に入っていたチューブタイプのハンドクリームを取り出して神無に渡せば、彼は蓋を開けて中身を自分の手の甲に出して見せる。
「これはさらっとして匂いもないからおすすめ。塗ってあげる」
「えー……とはいってもねぇ……」
「おら、とっとと手ぇ出せ」
「チンピラみたいだなぁ」
手にクリームが残るのが苦手らしい縞斑のために、指先を馴染ませた神無は余分なクリームを自身の手のひらで引き受けてマッサージするように両手を揉み込む。
自分よりも高い体温の小さな指に揉まれた縞斑は、クリームはともかくマッサージは心地良くてお気に召したらしく大人しくしていた。
「もっと自分に興味持ちなよ。これ開けたばっかりだしあげるから」
「塗る習慣がないからなー……」
「アサギリに朝晩頼んだら?」
「ハンドクリーム塗ってって?絶対呆れられるよ」
それくらいご自分でやってください。あなた、それでも大人ですか。と呆れ顔で拒否する相棒の姿が想像に容易い縞斑の横で、神無もそんなアサギリの冷めた顔を思い浮かべたらしくぱたぱたと足でシーツを叩いて笑う。
神無からの頼みは出来る限り聞き入れる縞斑だが、自分に無頓着なその振る舞いは簡単に治らない。
もらったところで使い切ることなく引き出しの中の肥やしにしてしまうからと断ろうとした縞斑だったが、ちらりとそんな彼のことを上目遣いに見た神無が口を開いた。
「……すっごいいじわるな奥の手でお願いしていい?」
「ほう?どうぞ」
そんなたいそうな前置きをして尚勝ち目があると言いたげな神無の様子に、結果はどうであれ興味が湧いた縞斑は言葉を促す。
すると神無は、マッサージを終えた縞斑の指先を取って自身の頬をふにと押して見せた。そうして彼の手に擦り寄った神無はいたずらっ子のように笑う。
「えっちのとき、ちょっとチクチクした」
「……、」
「だからちゃんとお手入れして」
「…………はい、ごめんなさい」
「にゃはは!別に怒ってはないって!」
神無が縞斑の手荒れに気がついたきっかけを察した彼は、素直に謝って神無からハンドクリームを受け取った。
そんな彼の献身的な様子を笑った神無は、言葉通り特に怒っているわけではないらしい。きっかけはともかく、縞斑が指を痛めるのを避けたいだけだ。
自分のことが関われば縞斑は考え直してくれると、彼から注がれる愛情を疑わない神無は笑みを浮かべて目を閉じる。
途端に訪れる微睡みと、しばらくしてそばに感じた恋人の気配にますます幸せな気持ちになった神無は、明日も続く平和な休日に思いを馳せるのだった。
終