某コラボ?な魔女お兄さん(魔法使い)なよだつか導入編。書きたいとこだけなので会ったところで終わってる。続くかは謎。
@kitunebana
厚い雲が月を隠している夜空。そこに一つ影が見える。黒くブリムの広い三角帽──魔女の帽子としてよく描かれるものを被り、黒いマントコートをたなびかせながら箒に乗って空を飛ぶという古式ゆかしいスタイルは、正しく魔女、もしくは魔法使いだ。そしてその黒づくめの存在は正しく魔法使いだった。
その魔法使い──夜鷹純は世界でも屈指の魔法使いだ。この世で一番と評する者もいるほどの魔法使いだが、欠点もある。人付き合いがあまり良くないのだ。人怖じするとは対極にあるような存在であり、実際人怖じするような性格でもない。ただ言葉がシンプルに鋭く、説明も足りないため対人関係においては秀でていなかった。しかし本人は気にする部分ではないため積極的に改善しようという姿勢もなく、唯一の友人とその家族くらいしか交流は殆どない。
「ぴっ」
常は静かで鳴くことなど殆どないfamiliar spritが純のマントの襟元で鳴いた。黒い毛に覆われた掌くらいのサイズの使い魔、通称"たぴ"。顔の部分は肌色で魔法使いをデフォルメしたような顔をしている。それも当然の話で使い魔は魔法使いや魔女の心から生まれる精霊だ。そのため主である魔法使いや魔女とよく似た顔を持つ。
そんな使い魔の言葉は基本的に「ぴ」という鳴き声で聞こえる。しかし主である魔法使いや魔女には普通の言葉で認識できるのだ。ちなみに稀に他の使い魔の言葉も理解できる者も居る。
「……なに」
「ぴ」
「……ハァ。わかったよ」
鳴くことは殆どないが、意志が弱いわけではない己の使い魔が意見を翻すつもりはないと理解した純はその言葉に従うことにした。純としても好奇心旺盛というわけでもない己の使い魔が気になっている存在が何か、気にならないわけでもない。スイッと音もなく箒を操作し使い魔が示した方へと飛んでいく。雲のせいで月明かりが殆どなく、星も見えないため暗い夜空。それでも純に支障はない。「月に似ている」と言われることも多い金色の瞳は夜の暗闇も問題なかった。
その瞳が捉えたのは地に転がる一つの影。大きさ的に人間の子ども、そう直感した。純は対人対応に問題があるとされる人物だが、子どもを積極的に虐げる気質でも無い。死んでいるなら弔うくらいはするし、傷を負っているなら治療ぐらいする。なにより己の使い魔が反応した存在だ。見て見ぬふりは選択肢に無かった。
「……生きてはいるみたいだね」
「ぴ」
空から舞い降り地面に足をつけた純が見下ろす子どもは、弱弱しいが呼吸していた。しかしあちこちに傷があり、何かに追われたような跡が見える。見たところ十代前半から半ばくらいの少年。髪は向日葵のような金色で、身長は純と同じか少し低いくらいだろうが、身体の厚みはそこまでない。服装も平凡な村人といった風。そんな少年が何に追われるというのか。その答えは容易に知れる。
「……ぴ」
少年の傍には純の肩に居るのと毛の色は違い黄色いが、同じ使い魔が力なく存在していた。急に空から現れた純を警戒している。
「僕は夜鷹純。君はその子どものfamiliar spritだよね。何があったか説明できる?」
「……ぴぃ。ぴぴっぴぴぴぴぴっぴ、ぴぴぴっぴぃ」
「ああ、なるほど」
黄色いたぴが語った短い言葉で純は少年に何が起こったか凡そ理解した。おそらく司は普通の人間家族の中に生まれた魔法使いだ。
本来、魔法使いや魔女は血統により受け継がれる。人外の力を持ち、行使し、寿命も違う。普通の人間の中に紛れて生きる者も居なくはないが、そう多くもない。人間は自分と違う生き物を許容できない者も居る。そのため寿命が長く、年齢を重ねても一定の年齢から見た目が変わらず不思議な力を使う魔法使いや魔女は畏怖や嫌悪の対象になることもあるのだ。
だから魔法使いや魔女は基本的に人外の領域で生活している。人間と交わるものも存在するが、少ない。条約が結ばれているわけではないが不可侵の存在。けれど過去、人間を伴侶とした魔法使い化魔女の血が時代を経て蘇る場合があった。いわゆる先祖返りと呼ばれる存在は、普通の人間たちの間に脈絡もなくポンッと生まれる。どうして気づかれるかといえば、簡単だ。魔法使いや魔女には必ず使い魔が存在する。個体による、もしくは修業した使い魔は己の存在を知覚できなくする魔法が使えるが、その数は少ない。そして人間たちの間に生まれる先祖返りの使い魔は、その血が覚醒した瞬間に現れ、その存在を隠すことはできない。
そういった理由から司は先祖返りの魔法使いであり、そのことが発覚したことで追われる身となったのだと純は推測した。
「……チッ」
異物を排除しようとするのは生物的本能としては間違っていないかもしれない。けれど、子どもだ。おそらく何の罪を犯したわけでもない、ただ過去の血の交わりが覚醒しただけ。普通の人間と魔法使いや魔女は積極的な交流はなくとも皆無ではないのだから、先祖返りだと発覚した子どもは魔法使いや魔女に相談するなり預けるなりすれば良い。それだけで済む話だ。なのに何故、暴力で排除しようとするのか。純には理解できないことであり、許せるものでもなかった。
「"sana"」
飾り気のないシンプルな杖を純は司へと向け、唱える。すぐさま杖の先から発された青白い光が司を包み、身体の傷が癒えていく。
「ぴ、ぴぃ」
司の黄色い使い魔がクルクルとその場で回転し、身体の痛みが消えたことを確認している。
「ぴ」
夜鷹の方の上から黒い使い魔がクールに言い放つ。塩対応にも見えるが、そもそもこの純の使い魔が司の使い魔を気にしたからこそ今の状況がある。
「ぴっぴぴぃぴ!」
ペコリとお辞儀するような仕草を司の使い魔は見せるが、司自身は未だ目を瞑って地に伏したまま。傷は純の魔法で治ったはずなのだが、もしかすると近しい存在などに追い立てられた経験から精神的に疲れており起きられないのかもしれなかった。このまま捨て置くのは良くないと思うが、この後どうしようかと考える純の耳に小さな声が聞こえる。
「……ぅ」
見れば司の手がピクリと動いている。気が付いたらしい。
「起きたの」
そう声を掛けるが純はしゃがむでもなく、立ったまま見下ろしている。薄っすらと目を開けた司の視界には黒い何かが傍に居ることしかわからないだろう。
「……ぇ……だ、れ?」
司が掠れた声でそう言った瞬間だ。雲間が切れ、月の光が辺りを照らす。帽子のブリムが広いこともあり陰になって見上げる純の顔は司には良く見えない。そのはずだった。けれど司の蜂蜜のような濃い金の瞳は確かに見た。月明かりの下、黒づくめの格好をした白皙の麗人の姿を。そして直感的に理解した。己を助けたのは純だと。
「……かみ、さま?」
突然目にした見たこともない美しい存在。直接目にしてはいないが不思議な力で癒された己の身体。そんな奇跡の存在は両親が語っていた神様という存在だと司は思った。けれど純は神様ではない。
「ははっ、違うよ。僕は神様じゃない──魔法使いだ」
司に示すように杖を振る純。その先端から氷の結晶が舞い、消えた。
「……魔法、使い」
呆然としたように、司は鸚鵡返しで呟く。この夜の出会いが司のこの先の未来を決める出会いとなった。