X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです
Xフォロワー限定公開・リスト限定公開の停止について

文体練習03(レトクロ)

全体公開 レトクロ 2969文字
2026-03-08 09:55:08

本編軸で、第二部のどこか。ラッキースケベ的なアレで、「クロードの理魔法(風)が暴発して、訓練中に衣類が絡んでしまった」というシチュエーションは共通で、それぞれ独立した別々のお話です。繋がってはいません。

Posted by @Bombwooo

【ベレトの場合】

 息と息が触れ合いそうなほど、近い。とにかく、身動きがとれなかった。お互いが身をよじればよじるほど、状況は悪くなる。
 どこがどういうふうに絡んでいるのかが分からなくて、これは自分が外套を切ってやるべきだということはすぐに理解した。しかし肝心の、剣がない。いや、仮に剣があったとしても、ろくに自由もないこの状態で、彼の衣服を切らず、自分の外套だけを切るというのは至難の業だ。
 自分に物の価値は分からないが、彼が身につけているものは同盟の盟主に相応しい価値のあるものなのだろうと思う。どうしても、傷を付けることは憚られた。戦で傷付くのとは訳が違うのだ。
「どうするかなあ、これ」
 ほとほと困り果てたとばかりに、クロードが眉尻を下げる。今の自分はきっと、彼と同じ顔をしているに違いない。
「案がある。……先に自分が手を動かしてもいいだろうか」
「ああ、いいぜ。ふたりでやみくもに動いたってどうにもならなさそうだしな」
 彼がそう言って息を吐くと、ふたりのあいだに張り詰めていた布が、わずかにゆるんだ。彼の腰あたりに情けなく縛り付けられている右腕を、慎重に引き抜こうとする。――それなのに。
「ふふっ、あはは! くすぐったいって!」
「あっ、こら。笑うんじゃない」
 クロードが笑うせいで台無しだ。もとはといえば、彼が理魔法を暴発させたせいでこんなことになっているというのに。
「悪い悪い、我慢してみるよ」
 彼はこちらの顔をちらりと見やると、また肩を震わせた。さては、必死な自分の顔を見て笑っているのか、この男は。五年経っても変わらぬ悪童ぶりには呆れてしまう。
……他の誰かが気付いてくれるまで、ふたりでこのまま待つか?」
「わ、悪かったって! 頼むからどうにかしてくれ」
 彼がようやく唇をまっすぐに結んだので、自分は再び絡まった布地の隙間へ慎重に右腕を滑り込ませた。じりじりと布が擦れる音のあと、ふっと手首を締め付けていた拘束が解ける。
 よし、抜けた――と安堵したのも束の間、急に支えを失った反動で、ふたりの体勢が大きく崩れてしまった。
「っ、」
「おわっ!」
 踏みとどまろうとした足がもつれ、ごつん、と鈍い音を立てて互いの額が激しくぶつかる。痛みに顔をしかめながらも、これ以上彼にのしかかるのを防ごうと、自分は咄嗟に空いた手を前へ突き出した。
 彼の中央、ちょうど胸のあたりに掌が押し当てられる。その瞬間、手から伝わってきた予想外の感触に、自分はぴたりと動きを止めてしまった。
 服越しに触れたそこは、五年前に記憶していた、少年のような頼りなさはなく、大人の男としての確かな厚みを備えていた。それでいて、鍛え抜かれた筋肉特有のしなやかな弾力があり、ひどくやわらかい。掌のすぐ下で、彼の力強い心音がどくどくと打ち据えているのが生々しいほどに伝わってくる。
 触れてはいけないものに触れてしまったような、妙な気まずさと熱が指先から這い上がってきた。ぶつけた額を擦りながら、クロードが何度か瞬きをする。
 やがて、こちらの掌の位置と、自分がひどく狼狽えた顔をしていることに気付いたのだろう。その翠の瞳に、いかにもいたずらを思いついたような光が灯った。
……顔に出てるぜ」
 押し当てられた胸の奥から、くつくつと響くような笑い声が伝わってくる。彼はからかうように目を細めると、わざとらしく小首を傾げてみせた。
「俺が男でよかったな、先生?」


【クロードの場合】

……なあ、きょうだい。俺たち、今どうなってる?」
「見ればわかるだろう。君の理魔法が暴発して、巻き込まれて転んだ。そして、自分の外套が絡まって動けない」
 至極まっとうで、感情の起伏に乏しい声が降ってくる。上から。そう、上からだ。
 突風に煽られてひっくり返った俺の上に、先生が完璧にのしかかるかたちになっている。しかも最悪なことに、あの無駄に長い外套の裾だか袖だかが、竜巻の勢いで俺たちの腕や胴体をぐるぐる巻きにしてしまったらしい。いったい、何がどうなったらこうなるんだよ。
 身動きがとれず、俺の視界には至近距離にある彼の顔面しか映っていない。このまま見つめ合っているのは、心臓に悪すぎる。俺は気を紛らわせようと、現実逃避の観察を始めた。目はふたつ、鼻はひとつ。唇もひとつ。うん、当たり前だ。ごく普通の、人間の顔のつくりをしている。
 なんてふざけたことを考えてみたものの、数秒後にはあっけなく白旗を揚げる羽目になった。――だめだ。いくらなんでも近すぎる。普段から整った顔だとは思っていたが、こうして逃げ場のない距離で見せつけられると暴力的なまでに綺麗だった。長い睫毛が瞬くたびに、透き通るような瞳の奥に吸い込まれそうになる。吐息が直接肌に触れる距離で、自分の脈がばかみたいにうるさい音を立て始めた。
 このままじゃ、いろんな意味で危ない。俺にはそっちの気なんてない、断じて。いや、そうした関係を否定はしないが、とにかくこの人にだけは走りたくない。
 俺はどうにかしてこの硬直状態を打破すべく、布地の隙間でわずかに動く右手を這わせた。目視できないので、完全に手探りだ。どこか結び目のようなものがあれば、解けるかもしれない。
 指先が重なった布を抜け、何やら引き締まった、弾力のある場所に触れた。結び目とは違う、なめらかな起伏。どうにか状況を把握したくて、無意識にその張りのある表面を撫で回していると、少しだけ動揺したような、掠れた声が降ってきた。
……クロード。そこは、自分の脚だ」
「うは、そりゃ悪かった」
 いつも通りを装ってみるが、額には冷や汗がだらだらと流れた。指先に意識を集中させると、確かに分厚い布地越しに、鍛え抜かれた男の太腿の感触がありありと伝わってくる。つーか、なんであんたはそう冷静なんだよ。
「これは結び目を探そうとしてだな……
「探すのは構わないが……くすぐったい。あまり、触らないでくれ」
 びくりと筋肉が跳ねるのが掌を通して伝わってきて、俺の顔は一気に沸騰した。触られている向こうより、触ってしまった俺のほうがどうにかなりそうだった。
 慌てて手を引っ込めようとするが、外套の布が絶妙に絡まっていて、どうやっても太腿から手が離せない。焦って動かせば動かすほど、いやらしい手つきでまさぐっているようなかたちになってしまう。
「おいおいおい、嘘だろ! 抜けない! 先生、ちょっと腰浮かせてみてくれ!」
「無茶を言うな。君が焦って暴れるせいで、さっきより布が締まっている気がするが」
 静かな指摘と、微塵も揺るがない綺麗な顔。その下で、俺の手は彼の脚をまさぐり続けている。最悪だ。
 いくらなんでも、こんな間抜けな体勢のまま窒息死だけは避けたい。こんなかたちで同盟を終わらせたくない。それは向こうも同じなのか、真剣な表情で何かを考えている。
 これ以上彼を見つめていると本当にそっちの気に走りそうだったので、俺は逃げるように固く目を閉じた。だが、それは完全な悪手だった。視覚を塞いだせいで、手のひらに張り付いた太腿の弾力が、さっきよりもずっと生々しく際立ってしまったのだ。俺はたまらず、別の意味で息を止めた。


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.