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date game

全体公開 ff14 温度差兄弟/🔥×💧 1 21 7266文字
2026-03-18 02:54:02

ホットディープ 🔥💧
デートする話
前編です

Posted by @yohima33

「兄者、デートしよう」
 朝食代わりに口に含んでいた炭酸水が、変な音を立てて喉を通る。ディープブルーは小さく咳き込み、探るようにレッドホットの前髪の奥を覗き込んだ。が、そこにあるのは普段通りの鮮やかな青色だけ。他に言いたいことがあるわけでもないらしく、レッドホットはじっと返事を待っていた。
……え、いつ」
「今から」
「今からァ!?」
 ディープブルーは持っていた缶をひっくり返しそうになり、慌てて手に力を込める。やりたい事を、やりたい時にやりたいように。それこそ温度差兄弟、エクストリームズ。ハチャメチャやってこそ自分たち……とは言ったものの。弟分の突発的な発想、言動には未だに目を剥くことが多い。ディープブルーは、口の端から漏れた炭酸水を拭った。
「断らせる気、ねえだろ……まァいいや。で、どこ行くつもりだ?」
……買い物、とゲームセンター。飯を食って、散歩……
 いつもと変わんねえじゃねェか、思わず出そうになった言葉を、炭酸水と一緒に喉奥へ流し込む。わざわざそれに『デート』と名付けているのだ。何か、少しだけ。いつもと違うことがしたいのだろう。あれと、これとと指折り考えているレッドホットを横目に、ディープブルーはもう一口含む。
「それから、帰ってきたら兄者を抱く」
…………は?」
 大きく開いた口から、勢いよく炭酸水が溢れた。


   ◇◇◇


 ネオンライトに照らされて、ディープブルーはジリジリ待ち続ける。待ち合わせというものがしてみたい、というレッドホットの願いを叶えるため、同じ部屋に住んでいるのにわざわざ別々の時間に出てきたわけだが……この、無駄としか言えない時間にディープブルーはカツカツ地面を蹴っていた。何をそんなに時間がかかっているのか。荷物も普段大して持ってもいないのに。思わず舌打ちが零れて、近くを通った子供がビクリと体を震わせた。何とも言えない居た堪れなさに、ディープブルーは更に苛立ちを募らせる。……まずい、下手に目立つと我らが圧政者サマに怒られる。少しでも視線を集めないよう、髪で顔を隠すようにサッと俯いた。
……いた、兄者」
 ピクリ、片方の耳が跳ね、聞こえた方角へ顔を上げた。遅ェよ、とかもうめんどくせェし帰ろうぜとか、ディープブルーは口を開く。……が、漏れたのは吐息だけ。瞬きを何度も繰り返して、頭の上から足の先までゆっくりと視線を動かす。……レッドホットが、あのレッドホットが。
「服着てる……
「兄者、オレはいつも服着てないわけじゃない」
 下は履いてるだろ、などと続けるレッドホットを無視して、ディープブルーは物珍しさに上着の裾を引っ張った。
「へェ、いいじゃん。お前、いつのまにこんな服買ってたんだよ?」
「つい最近だ。兄者とのデートで着たい、と思ったから」
 ガチ、とディープブルーの体が硬直する。そんな様子に気付かないまま、レッドホットはスタスタ歩き出した。
「ネクサスアーケードに行きたい、いつものサンダル、紐がダメになってきた……
 三歩進んで、ピタッと足を止める。普段なら隣を、なんなら一、二歩前にいるはずのディープブルーが動かない。レッドホットが不思議そうに振り向いて、どこか視線の合わない彼の顔を覗き込む。サラリと前髪が流れて、片方の目が晒された時。ようやく、ディープブルーは息を吹き返した。
「う、お……なんだよ」
「ネクサスアーケードに行きたい。兄者が、ついてこないから」
……あ〜、そういう……ワリ、ぼーっとしてた」
 大して悪びれもせず、ディープブルーは何事も無かったように歩き出す。レッドホットは僅かに首を傾げたが、何も聞かずにその後をついた。

 ドクドクと、ディープブルーの鼓動が早鐘を打つ。デートが初めて、というわけではない。この弟分が相手であればもう数え切れないほどしてきたし(レッドホットにその自覚はないようだが)、それ以外だって。自分のために服や装いを整えたのだ、と言われたことも多々ある。だから、そう。適当に受け流す術だって持っていたはずだし、まさか思考が止まるとは思いもしなかった。……レッドホットがそんなことを言うのは初めてだから、なんて。
 顔の熱を誤魔化すように、風をきって進んでいく。靡く自分の服がいつもと変わらないことに、小さく息を吐いた。……向かう先は、ネクサスアーケード。服の新調をするにはもってこいの場所。今日はプールに行かないから、と水着でなくシンプルなズボンを履いていて良かった。これなら、上着だけでも十分特別感が出る。
「何見たいっつった? オレ服見るわ」
「サンダル」
「じゃ、目的地は似たようなモンか」
 ディープブルーは迷うことなく、転移装置に足を踏み入れた。ソリューション・ナインの中でも、特別大きな建物。買い物、遊び場、何でも揃ったその場所は、退屈なドームの中で小さな暇を潰すのにはもってこいの場所。当然、この若者ふたりは飽きるほど通いつめている。
 ……だからこそ。だからこそ、そんな場所をデートスポットとして選んだからには、こちらが特別感を出さなければならない。一歩後ろを付いてくる弟分と似た格好にして、ペアルックらしくしてみるとか。いや、そんな小っ恥ずかしいこと出来るか! とディープブルーは即座に頭を振った。じゃあ、どうする。多少使い勝手が良くて、今後も定期的に着ることができ、かつ今回のデートというイベントに相応しい……。ぐるぐる思考を巡らせて、ディープブルーは小さく唸った。

 悩んでいる間も、足はぐんぐん進んでいく。あっという間に目的地、ネクサスアーケードに辿り着いた。首が痛くなるほど高い建物を見上げて、ディープブルーはチラリと視線をレッドホットに向ける。
……三階の、端の店」
「ああ」
「だよなァ」
 僅かな言葉だけで、ふたりはまた一歩踏み出した。体はすぐに三階へ運ばれて、チカチカと店の照明が目の奥を刺激する。この通りを真っ直ぐに。そこに、デザイン良し値段もお手頃、若者の味方、迷ったらとりあえずここの服を着ろ、と名高い店がある。特にセールをしているというわけでもないのだが、遠目に見ただけでも繁盛しているのが伝わってくる。ふたり、店の前に立ち並んだ。
「じゃ」
「ああ」
 それだけ言って、各々見たいコーナーに散っていく。ディープブルーは掛かった服の数々を適当に流し見て、ハッと息を飲んだ。……もしかして、一緒に回った方が良かったのか? と。いつものように解散してしまったが、あれとこれどっちが良いのかとかそういうやり取りをした方が……そこまで想像して、ディープブルーは顔を顰める。あの弟分と、今更? そんなこと聞かれてもみろ、正直どっちでもいいしどうでもいい。こっちが聞いたって同じことを言われるところしか想像できない。
「ガキじゃあるまいし……
 思わずこぼれた言葉は、店内を流れる音楽にかき消される。照明を反射して輝いているはずの服が、なぜだかくすんで見えた。



……兄者、服」
 先に靴を買って外で待っていたレッドホットが、ぽつりとこぼす。結局、ディープブルーが選んだのは無難にフードのついたジャケット。染色を頼んで、一応赤のラインを入れてもらったりなどはしたが……だからといって、水着でないだけで特別感はない。プライベートで着ている服と何ら変わりない自分の姿に、ディープブルーはため息をつく。
……ジャケット、一枚新しいの欲しかったんだよ。荷物になるから着てこうと思っただけで、別に」
「いいな、カッコイイ」
「ぐ」
 呻き、ディープブルーは下を向いた。先程まで、くすんで見えていたはずの服。たった一言、カッコイイの言葉だけで、まあ悪くないかと思えてしまう自分のチョロさに熱が上がる。
……いいから次だ次! どこに行く……
 ディープブルーが言いかけると、グゥウウウ……と大きな音。チラと見上げると、レッドホットが体を丸めて腹をさすっていた。
「腹減った……
……まずは飯だな」
 時刻は十二時を回る頃。レッドホットの腹時計は、正確だ。


   ◇◇◇


……あ〜、ヘタクソ! オレがやってやる、そこどけ!」
「兄者、さっきもそう言って失敗してただろ。次はオレだってやれる」
 生意気にも口答えしてくる弟分に、ディープブルーは青筋を立てる。腹も膨れ、さてどうするかと見渡した先にあったのはゲームセンター。どちらかといえば体を動かす方が好きな彼らにとって、窮屈なこの環境は長時間居るにはあまり向いていない。……逆に言えば、短時間ならそれなりに楽しめるということである。
 彼らが選んだのはクレーンゲーム。上手くやれば大量の菓子が手に入るため、勇んでコインを入れたはいいものの……あまり成果はふるわないようだった。
「かったりィ……んあ?」
 ムキになっているレッドホットの後ろで辺りを見渡していると、チラリと興味を引くものが目に入る。以前来た時には確か無かったはず……円状のサンドバッグが真ん中に置かれ、後ろには縦長の測定器。所謂パンチングマシーン……なのだが。その、測定器に描かれているイラストに目が行く。やけに見覚えのある、赤い髪の悪役面のヒューネ。その隣には、ボムのイラスト。
「アルカディアって、こんなことまでやってんのかァ……
「兄者、何見てるんだ……『ボムキングの力で吹っ飛ばせ! スマッシュインパクト』……?」
 ふらりと傍を離れていたディープブルーを見つけ、レッドホットは駆け寄る。手には小さな菓子を三つ持っていて、どうやらあの後少しだけ取れたらしい。パンチングマシーンとディープブルーを交互に見て、レッドホットは首を傾げた。
……やりたいのか?」
「え゙、いや、う〜ん……
 ディープブルーは、言い淀む。正直なところ、そこまでやりたいわけではない。が、気になって仕方ないのも確かだ。パンチングマシーンといえば、点数によって評価があるものがほとんどで。しかも、これにはスピーカーが付いているのだ。つまり、これには。
……これ、ブルートボンバーがセリフ入れてると思うか?」
「やってみるか」
 その言葉で、レッドホットがコインを入れた。腕をぐるぐる回し、気合いは十分。早速、マシーンから愉快な音楽が流れ出す。
『ボムキングの力で吹っ飛ばしてやるぜ!』
「ダハハハハッ! おいおい冗談だろ、ガチでブルートボンバーの声入ってんじゃねェか!」
 ピカピカブルートボンバーが光り出し、測定器は上へ下へとランプを点滅させている。笑い転げるディープブルーに目もくれず、レッドホットはグッと構えた。

 少し前のことではあるが、レッドホットはパンチングマシーンを破壊したことがある。あれは当たり所が悪かったというか、事故というか。ディープブルーが煽りに煽って、レッドホットが苛立ちを抑えられずに放った一撃がサンドバッグ部分から少しだけ逸れ……。とにかく、レッドホットにはそれほどのパワーがある。それでも筋肉量だけで言えばブルートボンバーには劣り、そしてこれはどうやらアルカディア監修らしい。つまり。
「吹っ飛ばす……!」
 本気を出したって、きちんと当てれば壊れないということだ。真っ赤なサンドバッグにしっかり狙いを定め、全身を強張らせる。小さく息を吐き、大きく振りかぶって。勢い任せに、拳を繰り出した。
「でぇああああ!」
 パァンッ! と耳触りのいい破裂音。みるみる上がっていく数値に、ディープブルーはヒュウと口笛を吹いた。ランプが頂上まで上り詰める直前、ピタッと止まりマシーン全体が輝き出す。ファンファーレが、鳴り響いた。
……九十四!?」
『ゲハハハハ!』
 ブルートボンバーの高笑いで、マシーンは元の姿に戻った。下の方に貼られた表を、ディープブルーがチラリと見る。……『九十点以上:ドーピング級』。それがどれぐらいのものなのかは全く分からないが、相当凄い数値なんじゃないだろうか。
「これ、試合の時の声、収録してるのか」
……あ〜、そういうことか。お前、頭いいなァ」
 スピーカーから流れてきたブルートボンバーの声は、どれも単調でガサガサとした酷い音質。試合の録画映像から無理やり引き出したのであれば、それにも合点が行く。
「あ? じゃあオレたちの知らないところで、オレたちの声も使われてるかもしれねえってことか?」
……確かに、そうかもしれない」
 レッドホットは興味なさげに服を正す。そろそろ行くかと言わんばかりに歩き出したディープブルーの後を付いて……点数表が視界に入り、彼はぽつりと呟いた。
「兄者は、やらないのか?」
「あ? やらねえよ」
……オレのが、強いもんな」
…………はァ?」
 何となく、火をつける。ディープブルーはよくレッドホットがキレやすいだのと言うが、ディープブルーも負けず劣らずだ。ほんの少し、闘争心に油を注げばすぐに着火する。
 ディープブルーは踵を返し、チャリンとコインを投入した。マシーンから愉快な音楽が流れ出す。腕を伸ばし、首をバキッと鳴らして、その場で二回ほどジャンプする。パンッと胸の前で拳を突き合わせ、キラキラ輝くパンチングマシーンをジッと見据えた。
「お前、何点だっけ」
「九十四」
「いいかァ? よ〜く見とけェ。こういうのはな、コツを掴めば……
 スっと姿勢を低くして、思い切り腕を引く。そのまま真っ直ぐに、直線的に。とにかく中心を狙って、無駄な力を入れないように。
「オラアアアァァァッ!」
 ズン、と奥深くに沈む音。サンドバッグが壊れそうな程に拳がめり込み、ディープブルーが小さく笑う。数値は上がり、上がり……
『ゲハハハハ!』
……九十、六……!」
「こんな程度か。……なァ、レッドホット? オレのが強い、だろ?」
 くっと人差し指を曲げて、ディープブルーは僅かに右の口角を上げた。ブチ、とレッドホットの血管が切れる音。モーグリの背比べ、お互い導火線は短かった。


   ◇◇◇

「カフェラテ、トール、テイクアウトで……お前は?」
「同じの」
「ふたつで」
 指を二本店員に指し示すディープブルーの声には、覇気がない。レッドホットも、その巨体を少し丸めていて些か小さく見える。ふたりは、なぜだか少しやつれていた。
 ……なぜだか、と言っても理由は明白。はしゃぎすぎたのである。あの後何度挑んでも百点満点が取れず、決着が付かなかったために別のゲームに移行。目をつけたのは、ダンスリズムゲームだった。比較的靱やかな動きが得意なディープブルーが初めは有利だったものの、レッドホットがその体力をバネに後からどんどん食らいついていく。ここでも決着は付かず、次はあれだこれだとぐるぐる周り……結局勝敗は五分、ただ疲れきった大の男ふたりが誕生しただけとなった。
「しばらくお前とはゲーセン行かねえ……
 ぐで、と首を回してディープブルーは深いため息をつく。相槌を打つ余裕もないのか、レッドホットは黙ったままカフェラテが出来上がる様を見つめていた。
「歩くのだりィ……やっぱエアスピナーで来た方が良かったなァ……
 階段も距離も関係ない、既製品よりずっとスピードも音も出る自分のエアスピナーが恋しい。ディープブルーはカウンターに置かれたカフェラテをふたつ手に取り、軽く揺らしながらレッドホットに渡す。からり、氷が音を立てた。
……あ、工事中だ」
「あ? あそこ元々何あったっけ」
…………忘れた」
 レッドホットはゆったり歩きながら、見えたもの気になったもの全部口に出す。どうやらこの男、せっかちな兄とつるんでいるわりに散歩がそこそこ好きらしい。以前、ジジイみてェだなと絡んだら殴り合いの喧嘩になったので、ディープブルーは口を噤んでいる。
「なんか向こうの方光ってんな」
「ライトショーか?」
 景色が、ゆっくり流れていく。エアスピナーに乗っていたらあっという間、気にとめる間もないものにも意識が向く。考えることが増えてやけに気疲れするものだから、ディープブルーはあまり散歩が得意ではない。
「これ、シュガーライオットの絵だ」
「へェ、こんなとこにもあんのか」
 それでも、ただ事実を口に出すだけの弟分との散歩は嫌いではなかった。その素直さにつられて、思考がクリアになっていく感覚。見ないようにしているものに、ひとつひとつ焦点をあてる時間。得意ではないし、趣味でない。それでも、それを許容できるのは。
「あの自販機、また詰まってる」
 隣にいるのが、レッドホットだからだ。……まあそれが分かったところで、ディープブルーは決して口にはしないのだが。

……さァて、ようやく帰ってこれたわけだが」
 部屋の扉の前、ディープブルーはグッと背筋を伸ばす。腕や肩をバキバキ鳴らし、それからフッと力を抜いて。空になったカフェラテの容器を潰して、部屋のロックを解除した。
「もう満足かァ? デートとやらは」
「ああ、楽しかった」
 レッドホットは、満足そうな顔をする。僅かに上がった口角と、いつもより足を高くあげて歩く姿が、さらにそれを物語っている。分かりやすい弟分の仕草に、ディープブルーは小さく息を零した。
「兄者、シャワーは」
……ア?」
 ふと思い出したように、レッドホットが呟いた。ぴくりと耳を震わせて、サアッとディープブルーの血の気が引く。すっかり平和ボケした空気に流されて忘れていたが、そうだ。一番初め、今日のプランを聞いた時。最後の最後に、でかい爆弾を落とされていた!
「帰ったら兄者を抱く……オレ、言わなかったか?」
 さっきまでの、柔らかな雰囲気はどこへ。前髪の隙間から覗く青色が、やけにギラリと輝いている。キュウっと腹の奥が疼いた。


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