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佐久早誕2026

全体公開 HQ 1 656文字
2026-03-19 07:51:44
Posted by @tirichann

 苗字の顔は、とても彼氏を祝う女子高生のものとは思えなかった。造形のことを言っているのではない。どう見てもその表情は怒りを表している。通常の女子高生は彼氏の誕生日に、彼氏の目の前で怒らないだろう。
「何で佐久早は三月生まれなの!」
 それを俺に言われても仕方ない。が、花粉症でない俺には理解できない悩みなのだと思う。何を言ってもスギやヒノキとは無縁の者からの嫌味になってしまうとわかっているので、俺は黙ってティッシュを差し出した。
「ありがと! おめでと! はい終わり!」
 苗字は洟をかんで俺のそばから去ろうとした。
「待て」
 彼女からの誕生日祝いが、たった一言で終わりは寂しいだろう。真っ赤な目と鼻で写真に映りたくない苗字の気持ちもわからなくもないが、俺は結構この日を楽しみにしていたのだ。
 思えば、自分の誕生日を祝われたいと思ったのは初めてだ。記念に写真を残しておきたいと思ったのも初めてだった。苗字のおかげで、俺は段々俗世になじんできている気がする。こういう言い方をすると修行僧か何かのようだが、俺は元から人と関わるのがあまり好きではなかったのだ。それが、苗字という人間を通して外の世界に触れている気がする。苗字は俺に新しい世界を見せてくれたのだ。その苗字はと言えば数ミリ単位の世界で苦労しているようだが、だからと言って俺の誕生日に俺から離れていいわけではない。その真っ赤な鼻も目も、苗字の一部として残してもらおう。


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