なんも考えてません。
こどもがいます。
@kurato0o
ウォロショウ
「ただいま。いい子にしていましたか?」
玄関の方向から声が聞こえる。もうそんな時間か、とショウは思った。
「いいこにしてました!」
親譲りの敬語を話す我が子に、元気でよしと彼方から思う。
気合いでうっすらと目を開くと、ウォロが大きな身体を半分に折って、屈んで相手をしている。彼の表情は昔では見ることができなかったくらいの柔らかいもので、子供ができると人は変わるというのを一瞬で可視化している。
頭から泥をかぶった後のカピカピになっている子供の髪をぽんぽんと撫でて、部屋の中央でぐったり力尽きているショウを見やってうっとりと顔を緩めた。
「ヒスイの英雄と呼ばれる人をあそこまで追い込むなんて、流石ワタクシの子」
その褒め方は如何なものか。
ショウは引き攣った笑みを浮かべながら身体を起こした。
「ウォロさん、おかえりなさい」
「おかえりなさいー!」
ウォロ譲りの美しい金髪は、今はカピカピだが、光は失われていなかった。ショウとお揃いの色素の薄い青みがかった丸い目をしている子は、ウォロが手を伸ばすと大人しくその腕に抱かれた。
「今日も派手に暴れまわったようですね」
「元気でぐずったりしないので有難いんですけどね……」
ウォロに抱えられて、子は嬉しそうにきゃっきゃっと両手を上げた。
ショウもウォロもフットワークは軽いし、体力のある方ではある。その遺伝子をおおいに受け継いだのか、子は尋常ではなく体力があって元気だった。歩き始める前から床を這いずり回り、立ち上がった瞬間には無敵回避のような動きで転ぶ度に自分で受け身を取っていた。そんな子が成長するにつれて、こちらの対応も過酷になっていく。夜は疲れてすんなり寝てくれるので、それは助かっている。
「アナタは休んでいていいですよ。夜はワタクシが作ります」
「いいですよ、ウォロさんも疲れているでしょうし……」
「いいから、休んでいなさい」
どこからか抱っこ紐を取り出して、大きなリュックの代わりに身に着ける。手慣れた仕種に頼もしい気持ちになるのは、昔から変わらない。何故かこの胡散臭い男は、いつもショウの目に頼もしく映るのだ。
大人しく、昔より広く新調してもらった宿舎というか今となっては立派な一軒屋でぬくぬくとしながら、ウォロの善意に甘える。ちゃきちゃきと夕飯の用意をする男の背中で両手をぶんまわしながら暴れている我が子を見て、なんだか幸せだなと思うなどする。
「やっと寝ましたね」
「はい、昨日はすぐ寝たから嫌な予感はしていたんですが」
ぽんぽんと子のおなかあたりを叩きながら、ウォロは白い肌をより白くさせて呟いた。家事も育児も積極的な男は、毎晩子を寝かせている。愚痴もごもっともである。
疲れたようにぐったりとしておきながら、ごろりと向きを変えて布団で寝そべっているショウを抱き締める。枕に項垂れたまま、長い睫毛を伏せて呼吸を整える美丈夫は、音もなくそのまま眠りに入る。
隣で眠る男と、まだ小さな子どもを目に焼き付けて、ショウも瞼を下ろす。男の胸の中は温かかった。