リオヌヴィ♀ 水龍の基準はちょっぴり高め
@kiyu_spring
⚠CAUTION⚠
本作品は水龍が先天性♀の話しになります。
あと、水の国の住人が全てヌ♀に強めの幻想を抱いてます。
そこら辺が問題ない方のみよろしくお願いします。
ヌヴィレット♀
フォンテーヌの最高審判官兼みんなの心の女神
リオセスリ殿の愛が重いことにあまり気付いていない
可愛がられることに慣れてきて威厳がなくなりがち
リオセスリ
「俺の」最高審判官であるヌヴィレット溺愛爵
ド天然水龍の全てが可愛くて、全てが心配になってる
身体の線は敢えて見えない方が良いタイプ
フリーナ
ヌヴィレットが可愛すぎて推し活が捗りまくる元水神
存在が芸術作品のヌヴィレットをどう飾るかが常に課題
適度な透け感と布地が身体に添うような質感がタイプ
召使
ナドクライとフォンテーヌを行ったり来たり執行官
お父様力と天然物水龍の親和性が良かった成れの果て
露出は少なく見せない色気で魅せるのがタイプ
フリーナが拐われた、という伝達が届いた。
どうやら、人気の少ない裏路地に店を構える洋菓子店に立ち寄ろうとした際に後を付けられて拐かされたらしい。水神の座を降りて人の生を謳歌しているはずの彼女を襲った不幸は、彼女の幸せを何よりも願っていたヌヴィレットにとってこの上なく感情を昂らせる出来事だった。
「ヌヴィレット様、犯行現場にはこれが」
デスクに腰掛けているにも腹立たしく、荒れた感情を出来る限り抑え込むだけで精一杯だったヌヴィレットの元に捜査に当たっていたシュヴルーズが駆け込んできて、犯行現場に残されていたという犯人たちの犯行声明らしき封書を手渡す。わざとらしく丁寧に封緘を施されたそれは明らかに事前に用意されていたものであり、フリーナの誘拐自体が緻密に計算されていたものだと物語っていた。
「犯人は数名で犯行に及んだ模様です。フリーナ様が裏路地に入ったところを待ち伏せて襲ったようですが、我々に犯行現場を見せるためにしばらくその場に留まり、巡回中の者が通り掛かって現場を目撃させた上でこの封書を置いて逃走したようです」
「…フリーナに怪我などはなかったのだろうか」
「はい、目撃した者によるとフリーナ様は恐らく何らかの手段で眠らされていただけで目立った怪我などは見えなかったとのこと」
「…そうか、それならよかった」
封書だけでも十分な挑発だというのに、犯人たちはフリーナを拐った現場を警察隊にだけ見せ付けて去ったという徹底ぶり。そのやり方から犯人たちの本来の目的はフリーナの誘拐ではなく、それを囮にした別の何かであると推測したヌヴィレットが手渡された封書を開けて中の文面に目を通すと、案の定予想が出来ていた内容が書かれていて眉間に皺を寄せながら思わず破りそうになったそれを何とか再び畳んでシュヴルーズに差し戻した。
「…ヌヴィレット様、差し支えなければ内容を伺っても?」
「…奴らの目的は、私だ」
はぁ、を溜め息を漏らしてそう呟いたヌヴィレットはデスクの書類を片付け始める。フリーナ誘拐の目的を聞かされたシュヴルーズは慌てて封書に目を通し、その内容を見てわなわなと肩を震わせた。
「なんて狡猾な…!」
「シュヴルーズ、本件は私が対処しようと思う」
「そんな…!幾らその美貌と知性と清廉さを以てしてこのフォンテーヌを支え、慈しんできた我が国最強の至宝であるヌヴィレット様とはいえ女性がおひとりで男たちの中に向かうのは危険です!」
なんかえらく接頭語が多い気がするが、きっとシュヴルーズも混乱しているのだろう。そう割り切りつつ、ヌヴィレットも今回ばかりは譲れない。
「封書には私だけが来るように、と書かれている。奴らの目的が私である以上、逆にフリーナは私を誘き出す餌でしかない。下手に多数で要求に従わずに出向けば彼女の身に何が起こるかわからないゆえ、危険は承知で私が出向くべきだろう」
「だからといって、犯人たちの言う通りにおひとりで対応されるのは承服しかねます!この文字だけでもヌヴィレット様に対する異様な執着が見て取れますし、奴らの目的はどうせ美しいヌヴィレット様との【自主規制】や【自主規制】のはず、もしかすると【自主規制】だけじゃ飽き足らず【自主規制】まで考えているかもしれない…そんな奴らならヌヴィレット様が来たとなるとフリーナ様のことなんて用済みだと切り捨てるかも…!」
「…君は意外とそちら側だったのだな…」
封書にはフリーナを拐った旨の記載、そして目的がヌヴィレットであることが明確に書かれていた。以前からヌヴィレットを目的とした襲撃計画などの話しは聞くところだったが、本人そのものは火力が高過ぎるため襲うにも襲えず計画倒れや特巡隊の世話になって終わりということがほとんど。それ故に犯人たちは今回こそはと、姑息にも人質という手段を取ったのだろう。確かにシュヴルーズの言うことにも内容的には異議はあるが一理ある、とはいえ特巡隊を引き連れて行けばフリーナの身に危険が及ぶ可能性も否めない。
「とにかく、私が関わる以上ヌヴィレット様おひとりでの制圧は承服出来ません!ヌヴィレット様の御身に口にするのも躊躇うようなもしものことがあれば、私は特巡隊を辞してメロピデ要塞に行きます」
「…わかった、それでは私が先行するので追って応援を連れて来るのではどうだろうか。私とて君を特巡隊から失うことは避けたいゆえ、単独ではなく後ほど合流という手筈であれば良いのではないか?」
まぁ確かに口にするのも躊躇うようなことを企んでいるのであろう輩の元に単独で向かうのは危険だというのも理解は出来るし、首長を止められなかった責任で彼女のような有望な人材を失うことは避けたい。妥協案として後続して応援を寄越してもらう案を提案したヌヴィレットに、シュヴルーズはそれでもまだ多少不服そうな表情をしつつもそれ以上の案が見付からないので素直に頷いた。
「…わかりました、それでは追ってフォンテーヌが誇る最高審判官愛護過激派四天王を派遣します」
「なんだその組織」
「我が国最強の精鋭部隊です」
「…そうか…」
もうこのタイミングでいろいろ問うたところで時間の無駄だと察したヌヴィレットは、とりあえず何だかすごそうな後続が来ることだけを承認して扉へと向かっていく。
「ヌヴィレット様、ヤられる前に殺れ!ですよ!」
「一応、我が国は法治国家のはずなのだが…」
無事をお祈りしている、と敬礼で見送るシュヴルーズのやたらと攻撃力の高い応援を背に受けながら我が国大丈夫なのか、そしてフリーナも大丈夫なのかと忙しい感情を抱いてヌヴィレットは指定された場所へと出向いた。
――――――…
「…君たちか、フリーナを拐かしたという輩は」
指定されたそこはフォンテーヌ郊外の自然窟で、入り組んだ通路の奥にある広い洞窟に辿り着いたヌヴィレットはそこにいた数人の男たちを見付けて不快そうに目を細めた。
「ははっ、やっと来たな!」
「フリーナは無事なのだろうな」
「当たり前だろ?お前を呼び寄せるための大事なエサなんだ、丁重にもてなしてやったに決まってる」
その中でも主犯格であろう男が視線を向けた先にはすやすやと眠るフリーナの姿があり、そしてその周辺には整然と並べられたアフタヌーンティーセットとげっそりとしている仲間の男たちがいて。
「薬盛ったはずなのに着いた瞬間目は覚めるし、起きたと思ったら茶が飲みたいだの菓子を食いたいだの言い始めるし、茶葉も菓子も指定したものじゃないと一生愚痴ってるし、ヌヴィレットを呼び出したけりゃ傷ひとつ付けずにもてなせとかほざきやがるし、だからって縛って転がしておこうとしたら変な水の生き物が出て来て攻撃してくるし、そりゃあもう丁重に丁重におもてなしさせてもらったぜ…」
「…そうか…世話を掛けたようだな…」
「ちなみに今寝てるのは別に薬とか何でもなくて単に食うだけ食って寝てるだけだ」
「ふむ…それならよかった…のか…?」
男たちの目が死んでいる理由はどうやらフリーナの自由気ままな人質生活に完全に振り回された結果らしく、謝るのもおかしい気がするが何となく責めるに責めにくい雰囲気になってしまった。
「…っ、とにかく!のこのことひとりで来たからには俺らの要求を呑むってことでいいんだろうな?」
「その前にフリーナを解放してほしい、話しはそれからだ」
場の空気が段々おかしくなってきたことに気付いた主犯格の男が気を取り直して悪役らしい悪い表情を浮かべたので、ヌヴィレットもまずはフリーナを解放するよう伝える。しかし男が違う男に目配せをすると、フリーナに向けて懐から取り出した銃を突き付けた。
「ふん、幾らこいつに振り回されたとしてもお前を従わせるために一番有効な材料なんでな。解放するのは俺たちの要求を呑んでからだ」
「…ならば早く要求とやらを言うといい」
あくまでヌヴィレットに狙いを定めていることは変わらないらしく、下卑た笑みを向ける男の視線に不愉快を露わにしながらヌヴィレットは要求を寄越すよう告げる。頭が良いとは言い難い奴らではあるものの、フォンテーヌの民やフリーナを人質に取られると身動きが取れないことを理解しているだけ質は悪い。
「ははっ、お前の処女を寄越してもらう」
「……そんなもの、」
「――…ダメだ!ヌヴィレット!」
男の目的がそういうことだろうと予想は出来ていたが、実際に言葉にされると浅はかさが際立つ。あまりの浅はかさに返答すら億劫になっていれば、突然起き上がったフリーナが参戦してきて一同驚いた。
「チッ、もう起きやがったか…!」
「ダメだ!ヌヴィレット、それだけは軽々しく言ってはいけないよ!」
「フリーナ、無事だったか。案ずるな、君に手出しはさせない」
「美しい関係だなぁ?見てろよお嬢さん、あんたのためにこの国の最高審判官はこれから俺たちの慰み者になるんだからな!」
突き付けられている銃すら意に介せず、必死に説得を試みるフリーナに穏やかな笑みを向けるヌヴィレットに男は無遠慮に近付く。
「おっと、歯向かうなよ?」
「…別に歯向かってなどいないではないか」
「その威勢の良さがどこまで続くか見ものだな!」
そして、手にしたナイフでヌヴィレットの胸元を切り裂いた。
「やめてくれぇえええええ!!」
響く断末魔は、もちろんフリーナのものである。
当の本人は歯向かうなという条件の元、本当に微動だにせず切り裂かれた際に弾かれてしまったブローチの行方を目で追っているだけ。
「なんだ、顔のわりに」
「ああああなんでこんな時にそんな小悪魔可愛い濃い目ブルーとホワイトレースの下着で揃えちゃっているのさ!」
「顔のわりに、」
「真ん中のリボンがアクセントになってセクシーの中にちょっとした可愛さを演出してしまってるせいで、ただあどけない可愛さだけじゃなくその素肌に触れることにプレッシャーを与えるような絶妙な美を感じてしまうじゃないか!!」
「おい!外野うるさすぎるだろ!」
わぁわぁと本人を無視して騒ぎまくるフリーナに男がキレるも、ヌヴィレットに関して譲るつもりが全くないフリーナはまるで自分がされているかの如く嘆き続けて話が全く進まない。
「ううう…フォンテーヌが誇る至高の美、法衣に隠されてこその白磁の肌がこうも容易く暴かれてしまうなんて…!それもこんっっっっっな風情も情景もない場所で美とは最もかけ離れたような人間に…!いや、待ってくれ…これは原始の人間と無垢なる女神の邂逅…?!禁断の果実を口にする前の純真無垢なる女神を前に、野蛮な本能を見せる人間との出逢い…何も知らない女神の胸元に迫る牙が、これから訪れるであろう新たな世界への福音となる…!」
ここまでたっぷり数分、紅茶ならそろそろ良く茶葉が蒸されているくらいの時間だなと慣れた光景に思考を巡らせていたヌヴィレットは、段々と持ち前の面倒さが表に出て来て顔を引き攣らせている男に向かって声を掛けた。
「要するに、君たちは私を犯したいという理解で合っているのだろうか?」
「そ、そうだよ!わかってんじゃねぇか!」
「そうであればさっさと済ませてもらいたい」
「…っ、これを見てもまだそんな余裕でいられるか?」
右も左も自分のペースでばかり事を進める連中に痺れを切らした男が、乱れた衣服の隙間から覗くランジェリーを手直しているヌヴィレットを本人が無抵抗なのを良いことに強引に押し倒し、遂に伝家の宝刀とも言えるそれを見せ付けるように取り出した。
「うわああああ!ヌヴィレットぉ!やっぱり幾ら芸術とは言っても君のそんな姿は受け入れられないよぉ!」
「……………」
「ははは!どうだ、恐怖で声も出ないか?大人しくしていれば悪いようにはしない、どうせ終わる頃には自分から欲しがるようになるんだからな!」
流石に実物を前にすると芸術だ何だとは言ってられなくなったフリーナの悲鳴が響き、欲しかった反応を得られた男がにやりと口角を上げる。一方、跨がられて目の前にそれを突き出されたヌヴィレットは驚くことなくそれを凝視している。
「男のものを見たのは初めてか?」
「……早く、やりたければやるといい」
「気丈だなぁ?俺はいつでもお前をヤれるってのにな!」
「ならば早く準備をしろと言っている」
無言を怯えているのだと解釈した男がわざとらしく煽るも、どちらかというと怪訝そうな表情をしているヌヴィレットは男のモノを一瞥して溜め息を吐いた。
「…なるほど、そこから奉仕までしろと?」
「…は?何言って」
「このままでは何も出来ないだろう」
「何も出来ない?」
何となく会話が噛み合っていない状態に混乱する男を他所に、勝手知ったると言わんばかりの態度でヌヴィレットは目を細める。
「勃たせろ、と言っているのだ」
「いやもう勃ってるだろ」
「えっ」
「は?」
その瞬間、世界が静寂に包まれた。
その場にいた全ての男性がその言葉の示す意味を察してしまい、自らのボスが置かれたあまりにも過酷な現実を直視出来ずに目を背ける。何だかんだこういう破廉恥な出来事は小説でしか読んだことがない恋愛経験に疎いフリーナですら、その事実を前に思わず口を閉ざしてしまう。
「これで…勃っている、と…?」
「ふ、ふん…どうせエロ本とかそんなものでしか見たことがないんだろ…?実物ってのはそんな夢物語みたいなもんじゃないのさ…!」
驚愕の事実を突き付けられたヌヴィレットの反応が余計に痛々しく男の傷を抉り、男の精一杯の虚勢は声が微妙に震えていて憐れにすら見える。そして生半可人間感情を学んでいる水龍は、己の言葉が男を深く傷付けたことに気付きおろおろと戸惑って。
「す、すまない…私が知る実物がもっと大きく逞しいものだったゆえ、浅はかにも万人がそうなのだとばかり思っていただけなのだ…」
「うぐっ…なんで実物知ってんだよ…!」
「だから最初に言ったではないか…処女なんてそんなものはないのだから渡せない、と」
「ぐはっ…処女ですら、ない、だと…?!」
水龍渾身のフォローは、より鋭利な刃物となって男の何かをズタズタに切り裂いていく。周りの男たちはもう見てられないとばかりに背を向けて耳を塞いでしまい、フリーナは歌劇でも見たことがないような深い悲しみと憐憫を込めた目を向けていた。
「処女は渡すことが叶わないが、フリーナを解放するために私の身体が必要ならば差し出そう。男性の生殖器にはあまり詳しくはないのだが、私の手で少しでも手伝えることがあれば言ってほしい」
「ヌヴィレットもうやめだけてよぉ!これ以上彼が頑張れることはないんだ!!」
「そうなのか…もう、これ以上は…」
「やめろよぉ!!そんな目で見るな!!」
ハンカチで目尻を押さえながら制止するフリーナの声、そして心痛な面持ちで男の可哀想な一物を見遣るヌヴィレット。矜持やらいろいろなものが最早木っ端微塵になってしまった男は、男泣きというのか半泣きでヌヴィレットの頭の横に手を突く。
「お前が誰の何を知ってるかなんて関係ねぇ!犯しちまえばみんな一緒なんだよ!覚悟しやが、」
怒っているのか泣いているのかわからない情緒不安定過ぎる啖呵を切った男の頬を、ヒュッ、と風のようなものが過ぎる。掠っただけのそれは鋭い切り傷を残し遅れて男の頬から鮮血が伝った。
「ほぅ、一体何を覚悟させるつもりだい?」
一瞬のことに思考が追い付かない男と、地面に転がった氷塊を見て表情を綻ばせるヌヴィレット。ふたりが目を向けた先には大層愉しげに不機嫌を露わにしているリオセスリが立っていて。
「ヌヴィレットさん、俺はあんたに自分を大切にしろとあれだけ言っていた気がするが」
「フリーナが人質に取られていたのだ、仕方なかっただろう…」
「仕方ない?あんたほどのやつが、何処の馬の骨とも知らない男の粗末なモノに媚びて腰振るつもりだったと?」
開幕からヌヴィレットしか見ていないリオセスリがじわじわと距離を縮めてくるその圧に耐えきれなかった男は、無意識のうちにヌヴィレットの上から立ち退き、理由のわからない恐怖に震える。
「媚びたところで、彼の生殖器はこれ以上どうすることも出来ないと聞いた。これでは私を犯すことなど出来ないだろうと思っていたのだ」
「なるほど、つまりヌヴィレットさんはこんな貧相なモノでは相手にならないと思ってたってことか」
「相手ではない、抱けないと思っていた」
「…っ、く…いや、ヌヴィレットさん…一応男ってのは大なり小なり竿はあるんだから、突っ込めば抱くのは抱けるんだよ。もちろん、気持ち良くしてやれるかは別として、だけどな」
この時の会話を聞いていた周りの男たちは、後にこんなにも心から悲しみを覚えたのは人生で他になかったと語ったという。というか、間違いなくリオセスリはヌヴィレットの暴言に笑ってる。その証拠に後退る男を完全に無視してヌヴィレットを抱き起こしたリオセスリは、先程の不機嫌など微塵も感じさせない優しい表情で身体を隠すように自身のコートを肩に掛けていた。
「そう、なのか…それは私が浅慮だった…」
「いいや、ヌヴィレットさんがそれだけ初心で経験が浅いってだけさ。その可愛さは美徳だからこれからも無くさないでくれ。まぁ、今回みたいなことは二度と起こらないでほしいものだが」
すっかり自分の考えの甘さに気付いて触角をふにゃふにゃにしているヌヴィレットを腕の中に隠しながら、もはや息をするのも忘れている男にふと温度の低い目を向ける。
「…俺の最高審判官様が世話になったようだな」
「あ、あんたは一体…」
「ああ、気にしなくていい。メロピデ要塞でそのうち顔くらい合わせるだろうさ」
「ま、まさか……!?」
目の前にいるのが要塞の番犬だと気付いた男が顔面蒼白になっている背後で、他の男たちとついでに何故かフリーナも怯えていた。
「生憎だがヌヴィレットさんはその程度の粗末…おっと失礼、慎ましやかなモノじゃあ満足出来ないんでね…もう少し立派になってから出直し、なっ!!」
そして、爽やかな笑顔のリオセスリの拳が男の顔面にめり込み美しい弧を描いて吹っ飛ぶ。そのまま地面に突っ込んだ男を眺めながら素手とはいえ思いっ切り殴っておきながら「水の上での武力行使は控えないとな」なんてぼやいていて。
「リオセスリ殿…何事も多様性が重視される時代ゆえ、身体的特徴についてはあまり語らない方がいいのではないのだろうか」
「いいんだよ、こういうやつに限って器も竿もしょうもないんだ」
「ふむ…一般的という基準を知らないので何とも言い難いのだが…彼と比べるとなれば、君のものは逞しく立派な方なのだろう?」
「さぁ、どうなんだろうなぁ」
庇っているように見えて死体蹴り状態のヌヴィレットを可愛がるリオセスリに、それまで黙っていたなんちゃって人質ことフリーナが声を掛けた。
「ちょっと公爵!!普段使いの下着にそんな可愛らしくてセクシーなデザインのものを着せるなんてどういう了見だい?!まさかこんなことになるなんて思ってなかったけど、とはいえそんなレースや刺繍がふんだんに取り入れられた下着なんて着てたら雨に濡れた時にうっすらと透けて、まるでカーテンの向こうに隠れた妖精のような姿のヌヴィレットが衆人環視に晒されてしまうんだよ!?」
「違うのだフリーナ、今日は彼と食事の予定が」
「ああそう勝負下着なら仕方ないね!!」
「流石フリーナさん、理解が早いな」
人質にされていた気配など微塵も感じさせないフリーナ渾身のお説教は、最も納得せざるを得ない理由を以てして丸め込まれる。勝負下着とは何だろうという顔をしているヌヴィレットを抱き寄せたリオセスリは、身体がすっぽり隠れるようコートで覆ってその身体を大切に横抱きで抱えた。
「そういえば外にも見張りがいなかったっけ」
「私は気配を消して来たのゆえ、気付かれはしなかったが…」
もはや捕まるのを待つだけの憔悴した手下たちを横に立ち上がってぱんぱんと服を叩くフリーナがふと洞窟の外にもいたはずの見張りがうんともすんとも言わないことに気付くと、思い出したようにリオセスリが口を開く。
「あー…外の奴らなら、」
「赤月に代わってお仕置き済みだ」
その声に被さる形で涼やかながらも他を圧倒する声を放ち自前の鎌をゆるりと構えて洞窟の出入り口に美しく佇む召使の姿に、また面倒なのが増えてしまったことを察したヌヴィレットは、酸っぱいものでも食べた時のような表情を浮かべた。
「ふふ、セーラー服とやらはヌヴィレット殿のような愛らしい御仁が着るのであればこその美徳、私の性には合わないから控えさせてもらったが…まぁ月は古より代理の存在にてお仕置きを繰り返してきているのだから問題はないだろう」
「召使殿、此度の助力は感謝する…が、フォンテーヌの有事に執行官が介入するのは如何なことだろう…」
「気になさらずとも良い。今回は偶然このエリアを散歩していた一般のファデュイが武器を持つ者を見掛けて事情を聞いたが、相手が武力行使をしてきまので正当防衛を行使しただけ、となっている」
「ちなみに俺も偶然通り掛かったらファデュイが応戦していたから介入したところ、中に人質がいるらしいと聞いて救出の手助けをした少し腕の立つ一般の公爵ってことになってる」
何度聞いてもわけがわからない、というか法の抜け道ってこういう感じで使われるのだろうなと法の弱さを痛感するヌヴィレット。一般のファデュイは恐らく多数の武装集団を一薙ぎで蹴散らさないし、もはや一般の公爵に至ってはそもそもどういう存在なのかわかりもしない。そしてこれらの取って付けたような理由が特巡隊の彼女との同意の下に締結されているのだろうと思うと、もうなんか考えるだけ無駄なのだろう。まぁ一般の公爵はさておき、召使配下のファデュイは予言後から特に協力関係を築けているのでそれこそ通りすがりに蹴散らしたといっても違和感がないことだけが救いか。
「…はぁ…私はスネージナヤに喧嘩を売りたいわけでもないし、メロピデ要塞の自治に干渉したいわけでもないのだからふたりはもう少し立場を弁えてもらえると助かるのだが…」
「なんだ、フォンテーヌは一般人が怪我した人を介抱するだけで国際問題にでも発展するのかい?」
「そこまでの拡大解釈は一種の才能だと思う」
「仕方あるまいよ、我々はこの正義の国にいる以上悪い人を見逃せない性質を持っているのだから」
助けてもらっておきながらではあるが、本当にいつか大問題に発展しそうだからもう少し立場を弁えてもらいたいというヌヴィレットの嘆願はあっさりと正義の味方という言い訳で封じられる。
「さてと、そろそろこんなところから離れようか。もたもたしていると約束の時間に遅れちまう」
「ああ、時間は大丈夫だろうか…」
「大丈夫さ、ちゃんと調整してあるからお色直ししたって構わない」
「それはありがたい」
事態も一段落、とりあえず誰も怪我もせず無事だったのでこの際お咎めは無しでいいだろうと結論付けたヌヴィレットがリオセスリの首に腕を回す。
「あっ、もしかして新しく出来たレストランに行くのかい?!それなら僕も」
「…フリーナ殿、それならぜひ私とどうだろうか?ちょうど来週オープンのカフェのプレオープン招待を受けていてね、ペアだから誘う相手を考えていたところだった」
「ぼ、僕と君が一緒に…!?」
「立場上既に水神ではないのだから問題はないだろうし、フォンテーヌのスイーツに関してフリーナ殿以上の適任はいない。箔が付くときっと店も喜んでくれるだろう」
どう見てもレストランデートだというのに、そういうところだけたまに疎いフリーナの気を上手く引いた召使はふたりの方に視線を向けて不敵に微笑む。
「…そういうわけで、私とフリーナ殿はこれからカフェに伺うが…おふたりは予約している店があると見える、残念だがまたの機会に」
「そうだな、ご丁寧にどうも」
「近いうちにパレ・メルモニアに感想を伺いに行かせていただこう」
駆け引きが苦手なヌヴィレットとカフェの新作に心を躍らせながらこっそり逃げようとする手下たちをサロンメンバーで床に沈めるフリーナを横に、バチバチと大人の大人気ない駆け引きを繰り広げていた自称一般人二名。結局道を譲られた方がそこは折れる他ないので、リオセスリは肩を竦めながら踵を返した。
「…召使殿、此度は…」
「堅苦しい挨拶は不要、これは慈善事業のようなものだからね」
その肩からひょこりと顔を覗かせたヌヴィレットの言葉をそっと遮り、微笑ましいものを見る表情をしている召使に彼女は少しだけ考える素振りを見せて。
「……ありがとう、召使殿」
ふわり、とその目を柔らかく細めて彼女なりに考えに考えた堅苦しくないお礼を伝え、愛想を振りまき過ぎだとリオセスリにつつかれながらふたりは屍累々の洞窟を去っていった。
「――…フリーナ殿、」
「ふふ、僕はもう思い残すことはないよ」
「芸術は時に残酷だと思わないか?」
「宝石の輝きでこの目が潰れるなら本望だね」
ふ、と飾り気のない洞窟の天井を仰ぎ見る召使と、その横で親指を立てて床に突っ伏すフリーナという形容しがたい状況の中、伸されたまま本能的にいよいよ空気に徹することに決めた宝盗団の残党というわけのわからない空気だけが残された洞窟は、駆け付けた特巡隊が雪崩込んでくるまでそのわけのわからない空気のままだったという。
その後、主犯格の男は法廷でありとあらゆる最高審判官に纏わる法律を犯したと糾弾されまくり、公爵は嫌だと魘されながら無期懲役で要塞に放り込まれそうになったところを、要塞側からそんなに長くいてもらわれると迷惑だと謎の情状酌量が発生して国外追放になったため、これを期に宝盗団から足を洗って璃月にある精力の秘薬を求める旅に出たのだとか。