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あたたかさの理由

全体公開 ヌヴィリオ 2194文字
2026-03-27 22:01:35

ヌヴィレットとの距離感を探っていたら、自分の気持ちを知ってしまったリオセスリの話

Posted by @otroom0v0

「ヌヴィレットさん、お茶が出来たぞ」
 ティーセットをトレイにのせて、パレ・メルモニアの客室に戻ったリオセスリは、窓辺のソファに座るヌヴィレットをじっと見つめた。彼の手には審判に関する資料があり、テーブルには筆記用具やファイルが積まれている。
 ――相変わらず仕事熱心だな。
 ふっと笑って歩み寄ると、ヌヴィレットがようやく顔を上げた。
「ああ、すまない」
「俺が勝手に用意したんだ。あんたも好きにしてくれ」
 そう言ってテーブルに茶器を並べると、紅茶を注ぐ。温かな湯気と共に、ふわりとスモーキーな香りが立ち昇った。お茶の支度が出来ると、少し考えてヌヴィレットの隣に座る。彼は特に気にした様子もなく、ティーカップを手に取り、お茶の香りを楽しんでいた。その端正な横顔を眺めながら、リオセスリはゆったりと足を組む。
 ――この人は随分と、俺に気を許してくれるな。
 海灯祭の贈り物をきっかけに、共に過ごす機会が増えた。元々友好関係を築いていたが、ここ最近はぐっと距離が近づいたような気がする。今日も仕事の用事で来ただけなのに「君さえよければ、少し休んでいかないか」と提案された。断る理由もなくて応じたが、この絶妙な距離感に戸惑っている。
 親愛の証? それとも特別な何かがある?
 掴みどころのないヌヴィレットの態度が、リオセスリの心を揺さぶっていた。そしてそれは、少年のような好奇心を刺激する。
 どこまで許されるのか。何を求められているのか。真意を探りたくて、リオセスリは行動に出ることにした。まずはティーカップを手に取り、お茶を楽しむフリをしてみる。
「うん、美味いな。ヌヴィレットさんの口に合ったかい?」
「ああ。とても澄んだ味わいだ。香りもよく、心地いい」
 紅茶を飲むたびに、ヌヴィレットの目が伏せられる。その長いまつ毛があまりにも綺麗で、じっと見入ってしまいそうだった。気取られる前に視線を逸らすと、リオセスリも紅茶を味わう。そうしながら姿勢を崩すフリをして、ヌヴィレットとの距離を埋めた。拳一つ分程度の、友人同士にしては少々近すぎる距離。けれどヌヴィレットは、やはり気にした様子もなく、ティーカップをテーブルに戻した。そうして再び書類に視線を向ける。
 そんな態度を密かに観察しながら、リオセスリはひとつ理解を深めた。
 ――俺に対しては、それほど警戒していないのか?
 公平の象徴とも称されるヌヴィレットが、ここまで許してくれるとは思わなかった。元々寛容なのか、それともリオセスリだけなのか。ますます興味を引かれて、リオセスリは目を細めた。ゆったり足を組みなおすと、その足先をさりげなくヌヴィレットの近くへ寄せる。そうしながら、自身の心臓が次第に急ぎ足になっていくのを感じた。
 ――流石にやりすぎか?
 これじゃあまるで、ヌヴィレットに迫っているみたいだ。我に返ったリオセスリは、ここからどうやって適切な距離に戻るべきか、静かに考えを巡らせる。
 そんな時だった。不意に足を組みなおしたヌヴィレットと、コツンと足がぶつかる。思わず彼を見れば、目が合った。薄紫の瞳が、驚いた様子で見開かれている。
「すまない、当たってしまったな」
「いや……俺も気を遣うべきだった。ちょっと近いな」
 今だ、とさりげなく離れようとした――その時。ヌヴィレットがリオセスリの腰に手を伸ばし、引き留めるように抱いた。脇腹に食い込む指を意識して、胸の鼓動がより速まっていく。
「ヌヴィレットさん……?」
 本人も無意識だったらしい。その瞳に動揺が浮かび、けれど手は離さない。ほんの少し気まずい沈黙が訪れた後、ヌヴィレットがそっとリオセスリを見た。
……このままで構わない」
「えっ?」
 ヌヴィレットが、離れかけていた距離を埋める。先程よりもずっと、近くに。その瞬間、リオセスリはカッと顔が熱くなるのを感じた。
 ほのかに香る、ホワイトリリーの清廉な匂いが、呼吸と共に入り込んでくる。端正な顔が追い詰めるように迫り、縦に伸びた瞳孔がじっとリオセスリを捉えていた。
 ――こんなに綺麗な人だったのか。
 目を逸らせずにいると、やがてその表情が憂うように陰る。
「すまない、馴れ馴れしかっただろうか」
 離れそうになるヌヴィレットの手を、さっと押さえて包み込む。
「このままでいい」
 自分でも何を言っているのか、分からなかった。でも、そうしたいと思っていた。リオセスリとヌヴィレットの視線が絡み合い、甘く溶けていく。そうして、悟った。
 ――俺、好きなのか。
 知りたいと思う気持ちの正体を知って、ははっと笑う。そうして今度は、ヌヴィレットの肩に身を委ねた。緊張しているのか、彼の体はぎくしゃくと強張っている。それがおかしくて、表情が緩んだ。
……今日はあったかいな」
 窓から降り注ぐ光が、ソファに座るふたりを照らしている。眩しくて、胸がぽかぱかと温まるような……そんな陽気だった。目を閉じて深く息を吐くと、ヌヴィレットが遠慮がちに身を寄せてくれる。
 ――あんたがいるから、あったかいのかもしれないな。
 そう気付いた時、胸の奥がじんわりとぬくもった。力を抜いて、ヌヴィレットの肩に頭を預けてみる。抱き寄せてくれる手に、ぐっと力がこもった。それがくすぐったくて、リオセスリはふふっと笑った。


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