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卒業と約束

全体公開 みずいこ・単話 2 2316文字
2026-03-28 22:17:09

えっちするのは高校卒業したらという約束をしていたみずいこの話

Posted by @a_yuuzora

「水上、卒業おめでとう」
卒業式終了後、自室にて生駒に改めて祝われて、学ランの胸にコサージュをつけている水上は猫背を丸めてぺこっと頭を下げる。
「ありがとうございます」
「あとひと月したら一緒に大学通えるんやな! めっちゃわくわくするわ。ボーダーの食堂も美味いけど学食も結構イケるで! おすすめのメニュー教えたるわ。それと──」
既に大学入学後に思いを馳せてやりたいことを次々と挙げていきそうな生駒に、水上は待ったをかけた。
「来月以降のことももちろん楽しみですけど、今の話しましょ。以前した約束覚えてます?」
「約束?」
「イコさんが『高校生には手ぇ出されへんよ、せめて卒業してからやないと』って言い張ってセックスが先延ばしになった件です。卒業したらしてええって話、でしたよね?」
「あ、あ~……せやな、ウン、そんな話したわ」
ついっと視線を逸らす生駒に、水上は眉根を寄せて睨む。
「忘れてましたね」
「いや、言われて思い出せたからセーフちゃう?」
「ギリセーフということにしときますか。そんで、今日がその約束の日ってことです。俺はずっとこの日を待ってました。半年以上前から」
二人が付き合い始めたのは去年の生駒の卒業式の日だった。寮でも作戦室でも気軽に会える関係性ではあったが、人付き合いの広い生駒が大学に行ってさらに交友関係を広めて遠くに行ってしまうような気がして、耐えきれず水上から告白したことで始まった関係だった。
幸運なことに交際が始まり、四か月ほど経って水上の方からセックスをしたいという話をした。ここで拒絶されれば別れも已む無し、場合によっては隊を辞めたりボーダー自体を脱退することも覚悟しての話だったが、生駒の反応は水上の予想からやや外れたものだった。
高校生には手を出せない。確かにその言い分はわかる。たった一学年しか変わらないとはいえ、満年齢でいえば二歳離れている。生駒としては気になるラインだったのだろう。だから水上はゴネずにその意思を尊重した。
だが、半年以上待って念願の卒業式を迎え恋人に再度打診をしたところ、当の本人は約束を覚えていなかった──あるいは意図的に考えないようにしていたし、思い出させてからはフィラーばかりだし視線は妙に合わない。生駒がセックスに前向きでないことは明らかだった。
水上は、ふーっと長く息を吐いて眉間を押さえる。
「イコさん、あんたが俺とセックスしたくないなら、俺はそれをできる限り尊重します。俺としては、したいって告げたときに『なんやそれキモい引くわ』って言われんかっただけで御の字やと思ってましたから。でも、期待させて長く待たせてからほんまは嫌やったっていうのは……残酷ですよ」
水上の失望を悟った生駒はぱっと顔を上げて、わたわたと大げさに動揺を示す。
「ちゃ、ちゃうねん! 別にお前とえっちしたくないとかそういうんやなくて、その、ほんまにいつかはそういうことするんやろなって思っとったけど現実味がないっちゅーか……水上がほんまに俺にそういう意味で興奮するんか? っていう疑念があって」
「興奮しなきゃわざわざ職場の上司にセックスしたいなんて言いませんけど」
「うわ、言われてみればほんまにそれはそう」
「疑いが晴れたならええんですか」
「いや、それと、卒業式当日にやるって、なんかこう、がっついてるみたいなハズさが……わかる?」
「がっついてんのはどちらかと言わずとも俺の方ですが、イコさんが恥ずかしがるような要素あります?」
「あるやん! 立場的に、お前が大人こっち側に来るの待ってたのは俺のほうやし」
なるほど、生駒からするとそういう視点になるのか。一刻も早く生駒が認める大人になりたかった水上からすると、あまり考えたことのない観点だ。
「ほなこう考えたらどうです? 『卒業式直後の恋人とえっちできるのは本日限り』!」
多くの人と同じように、生駒は限定品に弱い。自炊を始めてタイムセールを意識するようになってからは猶更だ。水上の狙い通り、言い回しを変えたところ、生駒の目がぱっと輝く。
「今日を逃したら学ランなんてどうがんばってもコスプレにしかなりませんけど、卒業式が終わった今ならホンモノですよ」
「コスプレかホンモノかっていったらそりゃあホンモノの方がええな……
「なんと今なら伝説の卒業式アイテム・第二ボタンがついてくる!」
「女の子たちが嵐山から欲しがって、弟にお下がりするから無理って言われて撃沈したあの伝説の……!」
そんな意味で伝説という大仰なワードを使ったつもりは無かったが、どうやら生駒の心には刺さったようだ。
「ついでに出血大サービス、このコサージュもつけましょう!」
「よっしゃ買った!」
「対価はイコさんのバージンですけど、ええですね?」
「そんなんいくらでも持ってけ!」
いやそれは本当にどうなのか。大変都合が良いけども。言い回しを変えるだけであまりにも都合良く展開しすぎていっそ心配にすらなるけども。
……イコさん、きれいなおねえさんに壺や絵画買わされそうになっても絶対断ってくださいね」
「ん? 別に壺とか絵が欲しいと思ったことないけどな? 同棲するときにインテリア新調するなら水上と相談するで」
身ひとつで済むセックスのことは考えていなかったくせに、準備や金銭がかかる同棲には前向きな生駒の考えがいよいよわからなくなって、水上は天を仰ぐ。まあ、生駒の思考回路が謎に包まれているのは今に始まったことではないし、わかる気もしない。わからないことを考えても仕方がないので思考を切り替えて、目先の大願を果たすことを考えることにした。


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