@tirichann
佐久早が難しい顔をして点眼薬と睨めっこしていたので、私は思わず声をかけた。
「佐久早って目薬怖いの?」
佐久早は失礼だと言いたげな目つきでこちらを睨むが、すぐに入れればいい点眼薬とずっと対峙しているのだから点眼薬が苦手なのだろう。「さすのが難しいだけだ」と言っているが、格好つかないことには変わりない。私がちょっと面白がっていると、佐久早に抗議の目線を送られた。こういう時に体をつついたりしてくるわけではないところが佐久早らしい。
「さしてあげようか」
私は佐久早から点眼薬を奪った。佐久早は今椅子に座っているので、私が立った状態ならば十分上からさせるだろう。そう思っていたのだが、佐久早は座高が高く、私の身長はそこまで高くなかった。佐久早が座って点眼されようとすると、相当背中を反らなければいけないのだ。体が柔らかい佐久早ならばできるだろうが、背もたれがある以上難しい。
これはもう諦めた方がいいかもしれないと言おうとした時、佐久早が立ち上がった。
「部室に行く」
「何で?」
「寝っ転がればさせるだろ」
佐久早も、教室の床で寝転がって点眼され、周りの注目を集めることは嫌らしい。部室に行ったら二人きりで別の意味で意識してしまうのではないかとか、膝枕になるのではと考えないでもない。私が躊躇しているのを見越したように、佐久早は「自分の言葉に責任を持て」と言った。
仕方ないので、佐久早に連れられてバレー部の部室に来る。狭い部屋の中の空気はどこか熱い気がして、妙に佐久早を意識してしまった。佐久早は床を指差す。
「座れ」
やはり膝枕であるらしい。佐久早的に床に寝転がるのはいいのだろうかと思ったが、普段から掃除しているのだろうし頭は私のスカートの上なのでいいのだろう。私はスカートが綺麗なことを確認し、横座りをした。その近くに佐久早が寝転んで、膝の上に頭をのせる。体が大きいからか、頭も重い。佐久早の重みを感じながら、私はそっと点眼薬をさした。佐久早は案外抵抗せず、一回で成功した。
「怖いわけじゃなかったんだ」
「自分でさすのが下手なだけだ」
私のからかいにも動揺することがない。パーソナルスペースの広い佐久早が膝枕を許すのだから、私は佐久早に気に入られていたと思ったけれど気のせいだったらしい。そう思っていたが、私は違うことを知った。
「また目薬さしてくれ」
出しているのは、花粉症用でも病院処方のものでもなく、ただ眠気を吹き飛ばすような市販品である。さす必要性はあまりない。毎日マスク生活なのだし、嘘でも花粉症と言ったらどうなのだろう。私は呆れる気持ちで佐久早に付き合った。部室に二人きりで過ごすことが増えたら、点眼薬をさし終わっても「もっと」と膝枕をねだられたり告白されたりすることがあるのだろうかとぼんやり考える。私はそれを望んでいるのだろうか。佐久早は私を好きなように思えるが、私は佐久早をどう思っているのだろう。パーソナルスペースの広い佐久早に少し認められたくらいで恋愛を意識してしまう自分をちょろいと思った。でもどうせ恋愛をするなら、佐久早がいいのかもしれない。佐久早の後をついて部室に行きながらそう思った。