無双(青燐)軸で、ベレト加入ルートのEP.13冒頭ぐらいを想定。セーブデータの上書きにより、加入ルートは幻と化したため、設定の齟齬などあればすみません。夢だけ詰め込みました。
@Bombwooo
ずいぶんと変わった風貌の男がいるな、とは思っていた。白く透き通った肌に、湖の上澄みのような色をした髪と瞳。端正な顔立ちはわずかな生気を宿しながらも、温度は低い。聞けば、口数も少ないという。その割にひとりでぶつぶつと何か喋っているという話もあって、王国軍の中でも気味悪がっている奴らは一定数いるらしい。
俺の視線に気づいたのか、ディミトリが少しばかり唇をゆるめながら「紹介するよ」と男のもとへ俺を誘う。
男はディミトリと俺を見つめたまま、微動だにしなかった。なんだか、人形のようだなと思った。
「彼は、ジェラルト傭兵団のベレトだ。『灰色の悪魔』という名はお前も聞いたことがあるだろう」
「……ああ、あんたが。うちから出した兵もあんたに手痛い目に遭わされたよ。……ま、そっちはそっちの仕事をしただけなんだろうけどさ。俺はクロード、こう見えて同盟の盟主だ。よろしくな」
男――ベレトは俺が差し出した掌を凝視した。凝視、するだけ。そのまま、その場に立ち尽くしている。
いったいこいつは何なんだと、思わずディミトリに視線を投げる。彼もわからないといったふうに、少し肩をすくめるばかりで、場の緊張が妙に高まる。
彼の中でようやく整理がついたのか、俺の手が握り返される。線の細さからは想像もつかない、力の強さだった。
それから目が合う。俺を見つめるというよりも、俺の奥にある何かを見るような、そんな眼差しだった。掌にはいやに力が込められていて、気恥ずかしさよりも先に手の痛みが勝った。
「いっ……痛い痛い、あんた力強すぎだろ」
思わず顔をしかめて抗議の声を上げると、ベレトは弾かれたように手を離し、わずかに身を引いた。相変わらず表情は乏しいが、手持ち無沙汰に視線をさまよわせる姿からは、明らかに戸惑いが透けて見えた。俺は引きつりそうになる頬をごまかすように笑い、じんじんと痺れる指先を軽く振った。
それ以上のやり取りもなく、ディミトリが今後の話をしようと歩き出す。彼と肩を並べてその場を離れつつ、ふと背後が気になって視線を巡らせた。
立ち尽くしたままのベレトが、まっすぐにこちらを見据えている。射抜くような、それでいて底知れないほど静かな瞳だ。本来なら気味が悪いと吐き捨てるところを、どうしてかそんな気持ちは湧かなくて。ただ、奇妙な違和感だけが胸の奥底にじっとりと沈んでゆくのを感じていた。
ディミトリとの軍議がひと段落し、俺は腹ごしらえをしようと調理場近くの長椅子に腰を下ろした。手元には、湯気を立てる簡素な野戦食がある。ひと口すすろうとした、まさにその時だった。
突然、ベレトがずかずかと歩み寄り、何の躊躇いもなく俺の隣へ腰を下ろしたのだ。周囲を見渡せば、腰を掛けられる場所はいくらでもあった。だというのに、わざわざ肩が触れ合いそうな距離に陣取るのか。その意図がまったく読めない。
同盟の盟主を名乗る男が突然軍に合流したのだから、素性の知れない相手として警戒を抱くのも理解できなくはない。だが、それにしたって監視のやりようというものがあるだろう。そんな俺の不安など露知らず、彼は俺を見るでもなく、低い声でぽつりぽつりと虚空に向けて何かをつぶやいている。
「なあ、他に空いてる席はあるだろ? なんでよりにもよって俺の真隣に座るんだよ」
「ここがいいと思ったから」
「なんだよ、そこはあんたの指定席か?」
「違う」
即答され、それきり会話はきれいに途絶えた。俺の軽口が通じるような相手ではないらしい。
たまらなく気まずい空気が漂う中、ベレトは隣で静かに手元の器へ向き合い始めた。匙を動かす所作はただひたすらに淡々としていながらも、咀嚼するたびに生き物としての確かな息遣いを感じさせる。食事になると彼はそれに没頭するというか、完全に自分の世界に沈み込んでしまうようだった。これ以上腹を探ろうとしても無駄骨に終わるだろうと考え直し、俺も大人しくスープをすする作業に専念することにした。
器の底が見えるころには、ひと足先に食べ終えたベレトが、またしても隣からこちらをじっと見つめていた。無言のまま張り付くような視線を向けられれば、いくら俺でも落ち着かない。少し遅れて残りを平らげたころ、視界を遮るように冥色の鎧が近づいてきた。
「クロード、ひとつ確認し忘れていたことが……ああ、ふたりで食事をしていたのか。邪魔してすまなかったな」
「ふたりでっていうより、こいつが勝手に隣に座ってきたんだが」
ため息まじりに応じても、ベレトは俺たちを交互にぼんやりと眺めるだけだった。親しげに口を利く俺たちの間に割って入ろうとする素振りは、微塵も見せない。
「そうか。とにかく、片付けが終わったら俺のところに来てくれ」
人の気も知らず、ディミトリは穏やかに微笑んで踵を返した。
王の背中を見送り、再び沈黙が舞い降りる。これ以上、何を考えているのかわからない傭兵と並んで座り続ける理由はない。早々にこの場から逃げ出そうと、俺が片膝を立てて腰を浮かせた瞬間だった。
「クロード、」
「……なんだよ」
「手を」
また手か。手がいったい何だというのか。眉をひそめて警戒するべき場面だというのに、どういうわけか、俺は無意識に右手を差し出していた。彼の落ち着いた声には、不思議とこちらから掌を預けたくなるような、得体の知れない力があった。
ベレトの指先が、俺の掌を下から支えるようにそっと触れる。先ほどの骨が軋むような握手とはまるで違う、壊れ物を扱うような、慎重でやわらかな手つきだった。両手で包み込むように俺の手を温めたあと、彼は伏し目がちに唇の端をゆるめた。
「ありがとう、気が済んだ」
ベレトはそれだけ言い残すと、俺の手をすっと離した。そして盆を持ち上げ、さっさと調理場の奥へと歩き去ってゆく。
掌に残るかすかな温度と、やわらかい感触。あいつの中でいったい何が完結したというのか。つくづく勝手なやつだと内心で悪態をつき、宙に取り残されたままの右手を静かに下ろす。遠ざかってゆく背中は、最後まで一度もこちらを振り返ることはなかった。