ホットディープ 🔥💧
※統一王者が出てきます!!
🔥と統一王者が会話します
統一王者の容姿、性別、話言葉などの表現なし
うさぎは寂しいと死ぬ、そういった話です
@yohima33
ヴィエラ族は住処を離れると早死する。これは、統一王者がポロリとこぼした噂話のひとつである。ヴィエラ族とは、エオルゼアにおけるシャトナ族の別名。ところ変われば名前も変わる、覚えるのが大変なのだと統一王者は苦笑した。
その噂話の派生として、ヴィエラ族は寂しいと死ぬというものもある。ちょっと死にすぎじゃないだろうか、とレッドホットは首を捻った。長命種だからこそだろう、と統一王者もまた困った顔。世界を股に掛ける冒険者でさえ、その理由については知らないのだ。
「……じゃあ、兄者も寂しいと死ぬのか」
レッドホットが聞くと、統一王者は顎に手をやる。少しだけ何か考え込んで、これは自分の考えだがと切り出した。言うに、ヴィエラ族、シャトナ族は……。
◇◇◇
扉が閉まって、レッドホットは首を回す。ふとベッドの方へ視線を向ければ、ぴこぴこと跳ねている青色の耳。ディープブルーは僅かに目を開けたが、すぐにまた眠りに落ちた。連日の試合で、疲弊しきっているのだろう。夕食用にと買ってきたものを机に置いて、レッドホットは先にシャワーを浴びることにする。
ドライヤーで雑に髪を乾かして、洗面所の扉を開く。そこからそろりとベッドの方を覗くと、酷く驚いた表情のディープブルーがそこにいた。どうやら、ようやく目が覚めたらしい。
「……お前、いつのまに」
「ついさっき帰ってきた。ただいま」
「シャワー浴びてんじゃねェか! ついさっきでもねえだろ……」
ボフン、と毛布に倒れ込み、ディープブルーはゴロゴロ身悶える。シャトナの耳をもってして、弟分が帰ってきたことに気付けなかったのが悔しかったらしい。呻きながらぐるぐる毛布を巻き付け、ギュッと体を丸くする。と、ぴこんと耳だけがふいに飛び出た。
「……ん? なんかいい匂いすんな」
「飯買ってきた。あっためて食おう」
「それを先に言え!」
ガバッと毛布をひっくり返し、ディープブルーはバタバタと机に向かう。すれ違う際に聞こえた、ヒューネの耳でも聞こえるほどの大きな腹の音。……一体、いつから寝ていたのだろうか。
「腹ァ減った〜……お前、これどれ食うの」
「どれでもいい。全部食う」
「じゃあ全部あっためちまおう」
ガサガサ袋から雑に取り出して、鼻歌混じりにエレクトロープ製レンジに突っ込んでいく。レッドホットが買ってきたのはバーガーやナゲットなど、いわゆるファストフード店のもの。味も濃くて量も十分、若者中心に人気のあるその店の商品は、例に漏れずふたり揃って好物だった。
チン、とそう間を空けずに何度も何度も音が鳴る。何か手伝えることは、とレッドホットは辺りを見渡した……が、食器も必要なければ飲み物も一緒に買って机に置いてある。できることといえば、ディープブルーの鼻歌をただ聞くだけ。レッドホットは浮いた腰を下ろし、耳を傾けた。調子外れな音の合間に、腹の音が聞こえてくる。
「……兄者」
そう呼び掛けてから、レッドホットは息を飲んだ。あれ、何を聞こうとしたんだ。懸命に頭を回している間も、ディープブルーはエレクトロープ製レンジから目を背けることはない。続く言葉が聞こえないことにも、特に違和感もないようだ。
「ん〜?」
促すように、一音返される。鼻歌の延長、間延びした声。チン、と高い音が鳴って、ディープブルーはナゲットを片手に振り返った。
「なんだよ、呼んだだけかァ?」
「……兄者、は……寂しいと、死ぬのか?」
「ハァ?」
振り返ってすぐの少しダルそうな、どこか嬉しそうな表情。それを見た時、レッドホットの脳裏に浮かんだのは先程の雑談だった。……ヴィエラ族は、寂しいと死ぬらしいと。ヴィエラ族、シャトナ族特有の大きな耳が揺れていたから? それとも、その顔に何か満ち足りているといった感情が見え隠れしていたから? なぜ、あの時の雑談が脳裏に浮かんだのかは分からない。最初に聞きたかったことが、それだったのかも。それでも、レッドホットは今どうしても聞きたかった。
「また妙なことを……誰の入れ知恵かは、敢えて聞かねえけどよ」
「統一王者サマ、だ。そういう話をした」
「いや聞かねえって……」
まァいいわ、とディープブルーは頭をガシガシ掻いて、レッドホットの正面に腰を下ろす。ファストフード特有の、腹の底を疼かせるような匂いが鼻腔を擽った。
「……お前はどうなんだ?」
「え」
「まだまだお子チャマなレッドホットチャンは、寂しいと死んじまうのかって聞いてんだよ」
嘲笑うように顎をクッと上げて嗤うディープブルーを前に、レッドホットは視線を彷徨わせる。……そういえば、考えてもみなかった。自分が、寂しさに死ぬところを想像しようとしてみる……が、どうも上手くいかない。何故だろうかと原因を探れば、その答えはすぐに見つかった。そうだ、だって。
「……分からない。兄者と居るようになって、寂しいと思ったことがないから」
何も、常に一緒に居るというわけではない。別行動は当然するし、お互い色々用事が重なり数日会わないことだってある。それでも、その間寂しいとは思わないのだ。きっとこのことを話そうとか、何をしてたか聞いてみようとか。すぐ側に居なくたって、勝手にそんなことを考えている。だから、寂しいなんて思う暇もないのだ。その存在が、脳に灼き付いているから。
レッドホットは満足そうに、一際大きなバーガーに手を伸ばす。口をモグモグ動かす彼を前に、ディープブルーは目をパチパチ瞬きを繰り返していた。
オレはお前と居るようになって、つまんねェって思うこと増えたけど。
そう口から零れそうになり、炭酸とともに飲み込む。常に一緒に居るというわけではないから、ひとりの時間がやけに長くなった気がする。何をしていても、アイツがここに居りゃあなァ、なんて考えてしまう。ひとりが、退屈なのだ。楽しくない、つまらない。だから、もし。もしもこの先、ずっとひとりになるぐらいなら。
そこまで考えて、ディープブルーは思考を止めた。ああ、そういうことか。寂しいと死ぬのか、なんて問いの真意は分からない。でもきっと、理屈はこういうことなのだろう。ナゲットに、手を伸ばした。
「そりゃ良かったな。……オレも同じだ」
だから死なねえよ、とディープブルーは軽く笑い飛ばす。次々と、ナゲットが消えていく。
……嘘だ、と思った。レッドホットは咀嚼をしながら、じっとディープブルーを見つめる。嘘をつく時や、隠し事をする時。ディープブルーは、言葉数や行動量が目に見えて増える。ふたり分、と山のようにあったはずのナゲットは、既に半分の量。残りはお前に、と言わんばかりにナゲットの入った容器をこちらに追いやる。そのままポテトやバーガーにまで手を伸ばして、器用に空いた指でジュースの容器を持ち上げて。……スピードが、明らかにおかしい。行動が早い方であるディープブルーだからといって、これは異常だ。ズゴゴゴゴ、ととっくに空になったジュースのパックがメキメキヘコむ。何を、どこで、どんな。兄の嘘を見破らんと、レッドホットはギュッと顔を顰めた。
「……ん? うわお前……なんつー顔してんだよ」
ディープブルーは一瞬ギョッとした顔をすると、すぐにケラケラ笑った。それにも何だか腹が立って、レッドホットは更に顔のしわを深くする。
「なァんだよ、苦手なモンでもあったかァ?」
「……兄者が、嘘をついている」
「あ? 嘘?」
小さな子供をあやすように頭をガシガシと撫でられて、レッドホットは口を尖らせた。嘘という言葉に反応し、ディープブルーはピタッと手を止め視線を彷徨わせる。……が、それも一瞬。またすぐに、ヘラリと笑った。
「…………ついてねえよ」
「それも、嘘だ」
ピシャリと言い渡され、ディープブルーは青筋を立てる。レッドホットの話が要領を得ないなんて、いつもの事。だが……こうも頭ごなしに否定ばかりなのは、非常に腹が立つ。机の下で床を蹴り、ディープブルーは苛立ちを隠すように更に口角を上げた。
「じゃあ、例えばだ。もしお前が言うように、オレが嘘をついていたとして……お前に、なんでそれを言わなきゃなんねェわけ?」
「それは」
レッドホットの口が、止まる。何を言おうか選んでいる、というより……何かに気が付いた、かのような。前髪の奥で目が見開かれるのが見えて、ディープブルーは眉を顰めた。
「それは、なんだよ?」
「…………これ、寂しいのひとつ、なのか?」
「はァ?」
思ってもみなかった言葉が出てきて、ディープブルーは怒りも忘れポカンと口を開いた。
「兄者に、嘘をつかれるのは慣れてる。でも、それを隠されるのは、嫌だ。突き飛ばされた、みたいで」
レッドホットは、とにかく言葉を並べる。ひとりでいても寂しさを感じないのは、突き放されたわけではないと知っているから。隠されるというのは、信用に値しないと言われているに等しいこと。……お前はいらないと、言われているに等しいということ。
「それで、ひとりにされたら……多分、寂しくて、オレは死ぬ。……そういうこと、なのか?」
「き、聞かれたって、知らねえけど……」
ふいに疑問をぶつけられ、ディープブルーはたじろぐ。レッドホットはひとりで納得したのか、そういうことか……などと呟いて食事に戻った。……視線は、なおもディープブルーを射抜いている。
「……あ〜はいはい、わーったよ。あのな、レッドホット。オレは、ひとりだとな〜んも面白くねえの」
ブラブラと手を揺らし、ディープブルーはため息をついた。お手上げである。こういう時のレッドホットほど執拗なものもない。ディープブルーは、唯一の心当たりをぽつぽつと零す。
「分かるだろ? 退屈だと、死にたくなる。……それだけだ」
ゆらり、視線が揺れて、レッドホットの胸元に定める。そこで揺れているのは、かつて自分が身に付けていた飾り道具。巡り巡ってそれは弟分のネックレスとなり、レッドホットはそれを大事にしているらしい。……そういうものを、ディープブルーは持ち合わせていない。隣に居なければ、無いことと同じなのだ。
黙り込んでしまったディープブルーを前に、レッドホットは口に残っていたパンズをゴクンと飲み込む。ディープブルーの零した感情を、その新しい呼び名を、レッドホットはつい先程知った。ひとつ深呼吸して、そっと口を開く。
「……それも、寂しいのひとつ、だと思う」
「グ……」
ギリ、とヒビが入ってしまうのではないかというほどの力強い歯軋り。だから、隠したのに。そう言われるのが、その名がつけられるのが嫌で、嘘をついたのに。
「じゃあ、やっぱり兄者も寂しいと死ぬんだな」
「お前も寂しくて死ぬんなら、同類だろ」
ピッと摘んだポテトで指され、レッドホットは僅かに口角を上げる。
「そうだな。オレと兄者、同じだ」
そんなことを、心の底から嬉しそうに言うものだから。ディープブルーはどうにか揶揄ってやろうとしていた毒を抜かれ、椅子に体重を全て預けた。嘘偽りない言葉は真っ直ぐ受け止める、この男の美点のひとつである。
「……そういや、どんな話からこんな変な流れになったんだよ?」
ふと気付いたように、ディープブルーは片耳と片眉を上げた。寂しいと死ぬだのなんだの、そんな真剣な話をするような仲だったのだろうか。
「シャトナ族は、住処を離れると早死するらしい。あとは、寂しいと死ぬとか。そういう噂があるって」
「シャトナ族死にすぎだろ」
「その話もした」
「そういうの、ヒューネにもねえのかな」
机の上は、既に残り半分となった食事。ダラダラ食べ進めながら、架空のヒューネ族の噂話を作り出す。噂とは、案外こういった小さなところから勝手にできるものだとディープブルーは知っていた。
「どっかのバーで垂れ流してみるか」
「……ここも、嘘つけばいいのか?」
「もっと余計なことまで言いそうだから、お前は黙ってていい」
嘘をつくのが下手な弟を、それでも兄はあらゆる悪戯に誘う。こういうのは、ひとりでやったって何ら楽しくないのだ。ふたりでひとつ、共に居ること。それが、一番大事で優先事項。ひとりは、退屈で苦しくて仕方ないのだから。
◇◇◇
統一王者が言うに、ヴィエラ族、シャトナ族は寿命が他の種族よりも長い。だからこそ、大切な友人、家族、恋人が自分より先に死ぬことの方が多い。どれだけ懸命に生きたって、自分よりは早く死ぬ。ひとりになる。それは、寂しくて、寂しくて、ならばいっその事……と、思うのはおかしなことではないのだと。
ヴィエラ族やシャトナ族は長く生きるから、そうして旅立って行った者たちがやけに目につくのではないか。……何も、不思議なことはない。だって、そうだろう? 統一王者は僅かに首を傾げて、困ったように微笑む。それは、子供に言い聞かせる大人のようで、最近我慢を覚えた子供みたいで。目の前にいるのに、遠くにいるようだとレッドホットは錯覚する。統一王者は、口を開く。こぼれ落ちたのは、難しいことなんて何もない普通のこと。誰にでも当てはまる、特別でもなんでもないこと。シャトナ族だからとか、ヒューネ族だからとか。そんなの一切関係なく、ただ単純に。
誰しも、寂しければ死んでしまうのだと。たった、それだけのことだったのだ。