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【よだつか】

全体公開 よだつか 6882文字
2026-04-10 22:59:48

異世界パロ(氷焔ではない)よだつか。名前は片仮名表記が良い気がするけど、そのままで。
※スケートは一切していません。
続きは無いよ。書きたいところだけ書いたので。このあとはなんやかんやハッピーパワーでハピエン。……いや、あるといえばあるな?初めての同衾、従僕は見た、隠し子!?、とか。

Posted by @kitunebana

夜鷹純は稀代の騎士である。
国にとって重要な土地を治める貴族であり、国王の友人であり、類稀なる美貌の持ち主としても有名だ。
国内どころかおそらくだが世界中どこを探しても剣技においては純の右に出る者はおらず、魔法の腕も同様であり、政治能力も高い。……ただし対人能力だけは持ち合わせてなかった。
別にバッドコミュニケーション製造機だとしても対人関係に問題があっても問題はない。純本人はずっと、そう思っていた。それこそ幼少期からだ。

夜鷹純は公爵家である夜鷹家の当主である。しかし、嫡男ではない。そもそも本妻の子どもではなかった。
どこの国でもそうかもしれないし、違うかもしれない。けれど夜鷹純が生まれ育ったこの国では、王族や貴族は一夫一妻制ではなかった。第一夫人、第二夫人というように貴族家の当主は複数の妻を持つことが許されている。"尊い血を残すため"といった理由ではあるが、金と暇にあかせて色に溺れているだけじゃないのか。そう口にする平民も居る。全ての王族や貴族がそうだというわけではないが、一部の悪辣な貴族のせいでそういった言葉は消えない。
話は戻るが夜鷹純は本妻の子どもではなく、嫡男でもない。母親は貴族の娘ではなく、とある貴族の護衛騎士だった。そして父親は公爵だ。
貴族位は皇帝を頂点とし、公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵の五等爵。その下に準男爵・士爵・爵と続くが、この三つの爵位は領地を持たない。爵は平民でも功績を立てれば一代限りの貴族として扱われ、更に功績を立てれば士爵となり貴族の家の末席に連なることができる。夜鷹純の母親はその爵ですらない。自身の持つ力を活かし平民の出ながら上級冒険者となった女傑だ。
普通なら公爵の妻になれる身分ではない。なにしろ公爵とは皇族と縁戚関係のある家にのみ与えられ、場合によっては皇位継承権を持つこともある。ならば何故?となるだろう。答えは簡単だった。公爵が一目惚れをして猛アタックの末、どうにか第三夫人として夜鷹家に迎え入れたのだ。公爵は当時の皇帝との仲も良好であり、夜鷹純の母親になる女を公爵家の夫人として迎え入れるための手助けをしてもらっている。要は身分をつり合わせるために一時的に貴族の養女とする手続きなどを、だ。
そうまでして迎え入れられた第三夫人は、第一夫人本妻第二夫人側妻からすると素直に受け入れられる存在ではなかった。いくら利益関係で結ばれた婚姻関係だったとはいえ、貴族の家の出である自分たちを差し置きただ一人だけ愛されるなど、許せるものではなかった。プライドの問題だ。
しかも公爵と第三夫人の間に生まれた夜鷹純息子は、生まれた時点で優れていた。夜を想わせる艶やかな黒髪。真珠のごとく煌めく真白い肌。上下に茂る潤沢な睫毛。何より印象的なのは、月のように神秘的な金色の瞳。可愛らしいというより、美しいと思わせる赤ちゃんだった。
ここで一番問題だったのは容姿の類まれなる美しさではなく、夜鷹純が宿している色彩だ。夜鷹家の血統にはとある色が受け継がれている。それこそが夜色の黒髪と、金の瞳だった。
第一夫人と第二夫人にも公爵との間に子どもが居る。男も、女も。けれど、その誰も黒髪と金の瞳夜鷹家の象徴を持っていなかったのだ。
そのせいで幼少期から夜鷹純は命を狙われることになる。とはいえ夜鷹純の母親は弱くなかった。確かに出自は平民だが後ろ盾は持っていないがその腕一本で生きてきた女だ。そう易々と息子を殺させるようなことはさせなかった。……けれど女にも欠点があったのだ。それは対人関係に難あり、ということ。夜鷹純とは少しタイプが違ったが、本人が想っていることが相手には伝わりにくいという欠点を持っていた。
──つまりは、母からの愛はいまいち夜鷹純へと伝わっていなかったのだ。
夜鷹純はその母からの教育で「力無き者は生きる価値無し」というような価値観を得てしまった。「逞しく生きよ」という母の愛は少し捻じれて伝わってしまっている。生きているだけでは価値はない。その考えを胸に夜鷹純はスクスクと成長する……はずだった。
その日は突然やって来た。誰も予想をしていなかっただろう。……いや、計画を企てた人間たちは予想していたかもしれない。しかし、その予想の一部分は覆されてしまったが。
夜鷹純が七歳になる年。彼の母が死んだ。病気や事故ではない。殺されたのだ。王都からも、夜鷹家の領地からも少し離れた避暑地へと夜鷹純を送る馬車が襲われ、その賊を撃退する際に。
目的の避暑地は王族の直轄地の一つであり、夜鷹純は王子の遊び相手として招待されていた。王子と夜鷹純は同い年であり、五歳のときに初対面を済ませている。気難しい性質の夜鷹純が不思議と気を許した王子は、穏やかな少年だった。王子の方も夜鷹純に対して好感情を持ったようで、二人は友人となったのだ。互いの立場が立場なので頻繁に会うことはできないが、それでも少年たちの友情は消えることはなかった。
だから王子は初夏を過ごす場所に夜鷹純を招待したのだ。そこにはただ、友人と会いたいという気持ちしかなかった。それを利用した悪い人間たちが居ただけ。
公爵の息子とはいえ、平民上がりの第三夫人の子。継承権は一番低く、味方も少ない。下手に悪感情を持つ人間を配置するより、少数でも信頼のおける人間で。そう考えた夜鷹純の母は最低限の護衛と共に、夜鷹純を避暑地へと送ることにした。結婚し、子どもを産んだとはいえ能力に然程衰えはなかったことも
この決定を後押しすることに繋がった。そうして悲劇が起こったのだ。
第三夫人が選んだ護衛たちの中に裏切者は居なかった。そして剣の腕も立つし魔法の扱いに長けた人間も含まれていた。けれど個の能力を数という暴力が覆す場合があり、今回がそれだっただけ。夜鷹純の乗った馬車は大勢の刺客に囲まれ、乱戦となり、最終的に生者は夜鷹純一人となる。周囲には濃い血の匂いが立ち込め、地上は氷に埋め尽くされ、その氷によって冷気が漂う。
今年で七歳になる夜鷹純の手には大人用の剣が握られている。彼の目の前には母であった第三夫人の身体が横たわっていた。彼女の身体は傷だらけだ。護衛たちに交じり、彼女も剣を手に戦い、夜鷹純を守って死んだ。それでも刺客の全ては倒しきれておらず、幼い夜鷹純も戦った。
少年の身体に大人用の剣はサイズが合わず、振り回すにも重く、使い難い。それでも夜鷹純は刺客たちを圧倒していく。夜鷹純には剣術と魔法に天賦の才があった。幼い身でもその片鱗は発揮されていたのだが、それを母である第三夫人が鍛えてきたからこその現在いまがある。
そんな夜鷹純の周囲が冷気に包まれたのは、地に伏した母の身体を刺客が故意に断とうとしたためだ。予想外だった夜鷹純の抵抗への意趣返しだったのか、単に意識を逸らそうとしたのか。しかしそのことに気づいた夜鷹純の身体から魔力が爆発的に発され、それが冷気となり、周囲は氷に包まれた。無意識に発動された最高位の魔法により、夜鷹純の魔力も枯渇状態に近い。普通なら意識を失う可能性の方が高い。それでも夜鷹純は意識を保ったまま、その場にあった。いつまでも。

夜鷹純を見つけたのは、避暑地で待つ王子の配下の者達だった。到着予定時刻を過ぎても姿を現さない夜鷹純一行を心配した王子が遣わした一団。彼らは血の海を覆う氷に驚き、その中心地に立つ少年に驚いた。そしてその少年が探し人である夜鷹純だと気づき、この一件は王家も知ることとなる。第三夫人の死を嘆く夜鷹公爵も犯人探しに奔走し、凡その検討はついた。しかし犯人は捕縛も断罪もされないままとなる。
……主犯が第一夫人陣営だということまではわかった。理由は夜鷹純が夜色の髪と金の瞳夜鷹家の象徴を持って生まれたというだけ。第一夫人という立場であり、嫡子も産んでいるがその長男は夜色の髪と金の瞳夜鷹家の象徴を持たずに生まれた。その後に生んだ娘も同じ。第三夫人の子で、異母兄弟たちの中で一番継承権が下。それでも夜鷹純を脅威に感じた。それだけの理由。人を殺すだけの理由に足りえるとは誰であろうと到底思えないだろう。しかし、それを思い実行するのが高位貴族なのかもしれなかった。
けれど断罪できるだけの証拠が出ない。第二夫人も限りなく怪しいが、継承権などを考えれば第一夫人の陣営が一番怪しいというのに、だ。王家と公爵家の権力をもってしてもという辺りに執念すら感じる。明確な証拠がなければどれだけ怪しかろうとどうにもならない。夜鷹公爵は犯人の追及より、夜鷹純の今後のことに注力することにした。勿論第一夫人、第二夫人への監視は強めてある。
目の前で護衛と母を殺され、ただ一人生き残った少年。そんな夜鷹純は王都へとその身を移される。王家としても避暑地に呼んだがために起こったかもしれない事件だったという理由で、王城住まいを提案したのだ。夜鷹純は王子の友人として共に学び過ごす権利を与えられた。その心の傷を癒すために母と過ごした夜鷹家の領地自領は辛いだろうというのを表向きの理由として。直接接する機会が減れば、それも王のお膝下でとなれば、夜鷹純へ危害を加えにくいだろうというのが隠された理由だ。
夜鷹純はその決定に異を唱えることなく、夜鷹領を後にした。

そうしてその後十数年程、彼は一度も夜鷹領に戻ることはなかった。彼は王都でその実力を遺憾なく発揮し、王立騎士団の団長になり、若くして王位を継承した王子──鴗鳥慎一郎の右腕として知らぬ者無し、という存在となる。大陸最強、いや世界だ。護国の盾。様々な呼称が夜鷹純に対してつけられた。
自身にも他者にも厳しく、身分ではなく能力で判断する夜鷹純は一部には蛇蝎のごとく嫌われていたが、一部には熱狂的に心酔されていた。あれは最早宗教だ、とは一時期夜鷹純を指導していたことのある高峰匠の言葉だったか。
王都だけでなく国中で鳴り響くほどであり、夜色の髪と金の瞳夜鷹家の象徴を持つ夜鷹純を次期当主に、という声は夜鷹領から消えることが無かったが、父である現夜鷹公爵が否定をし続けている。あの事件から十年以上という月日が経つというのに、第一夫人と第二夫人は未だに自分たちの子どもが夜鷹家を継ぐのだと水面下で争い続けているのだ。隙あらば夜鷹純の抹殺も、というのも変わっていない。そんな内情を抱えた夜鷹家へ夜鷹純を戻し、骨肉の争いの最前線に立たせることを望んでいないのだから。
しかしそんな父である夜鷹公爵の思いも虚しく、夜鷹純は夜鷹領へと強制的に戻らねばならなくなった。公爵位を継ぐために。……第一夫人と第二夫人による自身の子どもたちの継承争いが激化し、愚かにも共倒れしたのだ。嫁に出された娘以外、第一夫人と第二夫人の子どもたちは死んだ。となれば公爵家を継げるのは夜鷹純ただ一人、となってしまったのが理由だ。
父である夜鷹公爵から公爵位譲渡の話を持ち掛けられた夜鷹純は、最初は断った。嫁に出した娘の子どもの中から誰か選び跡継ぎにすればいい。もしくは領地を王家に返還し、王家直轄地にすればいい。そう提案したものの、最終的に頷かされてしまう。夜鷹公爵が病床の身となってしまったことも理由の一つとしてはある。
夜鷹純にだって理解わかってはいた。領地経営は盤上遊戯とは違うのだと。そこに住む人間たちの感情なども考慮しなければいけない。そしてこれまで夜鷹領で生活し、働き、貢献していた者たちを鑑みなければならないことを。
しかし一つだけ、夜鷹純は条件を付けた。曰く、結婚と自身の血を引く者を次代の公爵とすることを強制しないという内容だ。
夜鷹純は成人を迎えて久しいが、恋愛感情というものを感じたことが一度もない。勿論貴族なのだから結婚や子作りが義務だということは理解している。けれど、どうしても受け入れられない。母親が平民出身とはいえ類稀なる美貌を持ち、軍略に長け、実戦でも右に出る者無し。鴗鳥慎一郎王族からの覚えもめでたい。多少性格に難があっても、これでモテないわけがなかった。しかも男にも女にも性別問わずだ。なんなら年齢もだったりする。
つまり夜鷹純は辟易さえしていたのだ。自身に欲を向ける人間たちに。王城で生活するようになった少年時代、母を目の前で殺された少年を慰めたいという建前で何人の人間が夜鷹純に薄汚い手を伸ばそうとしたことか。青年期は既成事実を作ろうとする人間を何人も退けた。
誰も彼もが夜鷹純の心の内の柔らかい部分中身を無視し、美しい容姿と肩書のみで擦り寄ってくる。それがなんとも醜悪で、夜鷹純は恋と謳えば何をしても許されると嘯く者達を嫌悪していた。
だから結婚はしないし、子どもは作らない。例えそれが貴族の義務としてもだ。
夜鷹家当主は夜鷹純息子の主張を受け入れた……というか、あまりにも強く固い意志に折れた。かくしてとある話題が王国を席巻したのだ。
──夜鷹純は同性愛者であり、女性を愛することはなく、子どもを成すこともない。
という醜聞に等しい話題は、わざと夜鷹純が流したものだ。他人から侮られることも、なめられることも嫌いな彼が、それでもあえて流した。それ程までに女性からの積極的なアプローチ、と言うには少し問題のあり過ぎる行動に対する苛つきがどうにか抑えられる範囲を超えていたのだ。これで周囲が静かになるならいい。そう思えてしまうくらいには、夜鷹純はうんざりとしていた。
この噂は夜鷹純が考えていた以上の威力を発揮する。これまで女っ気が全くなかったからか、信憑性が高かった。……というのも理由の一つだが、実はもう一つ理由があったりする。というかそのもう一つの理由の方が夜鷹純同性愛者説への説得力を持たせてしまった。
──夜鷹純と鴗鳥慎一郎は恋仲である。しかし鴗鳥慎一郎はかつては王子として、現在は国王として世継ぎを残す義務があり、夜鷹純ではそれを果たせない。それ故に二人の関係は秘するものであり、周囲は暗黙の了解として扱っている。
……そんな根も葉もない噂が元々あったせいだ。勿論これは噂でしかなく、真実ではない。夜鷹純と鴗鳥慎一郎は確かに距離が近いかもしれないが、それでも友人の域を出ない間柄でしかない。けれど他に親しい人間が存在しないといっても過言ではない夜鷹純が唯一心を許しているというのが、憶測をかきたてる。この噂は本人たちも承知しており、なんなら鴗鳥慎一郎の妻となったエイヴァ・F・ロドリゲスは過去に「……本当に!ほんっとうに!!純とはなんでもないのよね!?親友っていうだけなのね!?」と鴗鳥慎一郎に詰め寄ったことがあったりもする。夜鷹純にもだ。
夜鷹純も鴗鳥慎一郎も、噂を強く否定しなかったのには理由がある。あまり強固に否定すれば逆に真実味を帯びてしまうからだ。王族と貴族ということもあり、表立って騒ぎ立てられることはなかったが、それでも根強く残っていた噂のせいで、夜鷹純同性愛者説は予想以上に浸透した。鴗鳥慎一郎が再びエイヴァ・F・ロドリゲスから「慎一郎!真実ほんとうのことを教えて!?」と詰め寄られたことだけが、被害といえば被害だったかもしれない。
これで静かになる。そう考えた夜鷹純にとって想定外だったのは、女性からのアプローチは皆無とまではいかないものの減ったが、男性からのアプローチが増えたことだった。
──誰よりも強く美しい夜鷹純を、組み敷き、快楽に溺れる。なんと甘美なことか。
そう考える愚か者は大勢居た。その誰もが自分が夜鷹純を抱く側だと信じて疑っていない辺りが、愚かだ。夜鷹純は誰かに容易く手折られるほど、弱くも優しくもない。矜持プライドだって高い。たかだか恋愛対象を同性だとしただけで、何故自分がその対象範囲に収まったと思えるのか。選ぶ権利は夜鷹純にだってあるのだ。性別が一致したくらいで勘違いする愚か者どもに身を許すつもりなど甚だない。そもそも実際には同性愛者ではないのだから、当然でもあるのだが。

そんな夜鷹純が愛妾を迎えた。相手は太陽のような髪と瞳をした、年下の男。名を、明浦路司という。
未婚であり、恋人すら居なかった夜鷹純。その心を射止めた相手を恋人ではなく愛妾と称するのはどうなんだ?という声もあるかもしれないが、現在この国において同性婚は成立しないためそういう扱いになるのだろう。二人の関係を噂で知った人間たちはそう考えた。実際は夜鷹純がそう言ったから、なのだが。
明浦路司は少々問題を抱えた男だった。そしてその問題を解決すべく交渉した相手が夜鷹純という、事実を知れば強心臓を感心されること必至な男。そんな明浦路司に夜鷹純が与えた条件。それが「なら君、僕の愛妾になりなよ」という一言だった。


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