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もっともっと、欲張って

全体公開 32 2258文字
2026-04-17 01:32:34

波箱で貰ったお題で書いた景穹です。
付き合いたてでまだ甘えるのに遠慮がちな穹くんが勇気を出すお話。友情出演・丹恒先生



「甘えるって、いったい何をどのくらいしたらいいんだろう

星穹列車のアーカイブを見漁りながら、穹はぽつりと呟く。
『丹恒は分かる?』と隣で資料の整理をしながら穹の話を聞いていた丹恒に話を振ると、困惑した表情で『いや』と返された。
過去から現在に至るまで彼に恋人が居たという話は聞かないし、彼は家族同然の仲間と古い知人の恋愛話に嬉々として口を挟むタイプでもない。
けれど穹が困っているのを放っておく気は無いらしく、丹恒は開いていた珍しい紙の本をパタンと閉じた。

「景元将軍と何かあったのか」

羅浮雲騎軍を統べる帝弓七天将が一人、【神策将軍】景元。
丹恒の古い知人にして、穹の大好きな人。
紆余曲折を経て、つい最近穹が景元と恋仲になったことは、列車の乗員全員が知っている。
それが過去の記憶が無い穹にとっては間違いなく初恋と呼ぶべきものであることも、穹があれこれと考え込んで日々悩んでいることも。

「何かあった、というか……ほら、俺ってば将軍に甘やかされがちじゃん?」

「それは知らないが」

「甘やかされがちなんだ!それで、俺ばっかり良い思いするのもなんだかなぁと思って、何かして欲しいこととかない?って聞いてみたんだよ。そしたら『もっと甘えてほしい』って言われてさ」

愛されている分、愛し返したい。
そんな思いで景元へした質問。
あーんしてほしいとか、膝枕をしてほしいだとか、穹が三月に貸してもらった少女漫画にあったような恋人同士のイチャイチャを思い浮かべながらしたその質問に、景元はにこにこと微笑みながらそう答えた。
その答えに、穹は首を傾げ頭を悩ませる。

「俺がこれ以上甘えるとしたら、それはもう甘えっていうかワガママの域に入りそうで」

……ああ、成程」

「たんこ〜!分かってくれるか!」

「お前の気持ちもだが、景元将軍の返答の意図も大体分かった」

「えっ!?なんで!?!?」

何か完全に理解したような顔で頷いた丹恒の肩を掴み、揺さぶる。
穹としては、全くもってよく分からない話だったのだ。
メッセージを送れば公務の都合上遅れることもままあるが、基本的にはまめに返してくれる。
神策府へ会いに行けば可能な限り話をしてくれるし、貴重な暇を使ってデートに誘ってくれることもある。
穹好みのお茶やお菓子を用意してくれて、穹の話を楽しそうに聞いてくれて、時には頭を撫でてくれて。
今現在、存分に甘やかされているというのに、この上もっと甘えろと言われたところで、何をどうすればいいのか。
穹には、全くもって分からなかった。

「遠慮をするな、という事だろう」

「遠慮?」

「ワガママだとか、景元将軍を困らせるだとか、そういった考えを捨てて思うままに甘えてほしいんじゃないだろうか。例えば穹が将軍に会いたいと思った時、素直に『会いたい』とメッセージを送ることはあるか?」

……

少し考えて、首を横に振った。
景元は忙しい身の上だ、自由な時間も限られている。
無性に会いたくなる時はあるけれど、迷惑になるのが嫌で、穹からそういった連絡をすることはまずなかった。
メッセージのやり取りをするのも景元の方から連絡が来た時にしていたし、会いに行くのも景元から誘われた時だけ。
たまに顔だけでも見られたら、とアポ無しでふらりと神策府を訪ねてみる時もあるが、運良く景元が居る時でも彼が忙しそうにしていれば邪魔にならないよう顔を合わさずすぐ帰っている。
そういえば、今思うとアポ無しで会えた時の景元はいつも以上に機嫌が良かったような。

……もっとワガママになってくれ、っていう意味だったってこと?」

「勿論、度を越した勝手は良くない。だがあの人は、恋人に求められるのを厭う人ではないと思う。むしろ」

むしろ、の後の言葉は続かなかった。
丹恒は何かを言おうとして、しかし何かに気付いた途端、眉間に皺を寄せ黙り込む。

……すべて分かってやっているな、これは」

「丹恒?」

「なんでもない。だが次に景元将軍と会った時、伝言を頼めるか。『俺は杯中の蛇ではない』と」

「わ、分かった」

そう言って、丹恒は再び紙の本へ視線を向ける。
これ以上はノータッチ、と態度で示され、穹は今聞いた話を自分なりに考えながらアーカイブ室を出た。
考えて、悩んで、端末を取り出し、トークルームを開く。
メッセージを打って、しかし本当にそれを送っていいものかと迷い、指先を動かすことを躊躇して。
けれど、意を決して、送った。

『あいたい。ぎゅってしたい』

送ってから、まるで子供みたいな文章だなと頬が熱くなった。



メッセージの返事は意外にもすぐに来た。
丁度星穹列車へ足を運ぼうとしていたそうで、穹の部屋で待っていてほしいとのことだった。
待っている間、穹はソワソワと部屋の中を行ったり来たりして、それをゴミケーキとプーマンから不思議そうに眺められて。
なんだか早く会いたいような、今にも逃げてしまいたいような、大きな声で叫びだしたいような。
一回落ち着こう、と何かドリンクを用意しようとしたその時、突然ドアが開く。
部屋の真ん中で突っ立っている穹を見た景元はくすりと笑ってドアを閉めると、穹の方へ向き直り、両腕を広げた。
何を言うでもなく、優しい表情で。

……〜っ!」

胸を衝く愛しさが、恋しさが、躊躇と恥じらいを少しだけ上回った時。
穹は初めて、自分から大好きな人へ抱きついた。


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