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余裕なんて、さらさら

全体公開 30 2705文字
2026-04-17 01:37:46

景穹です
付き合いたての穹くんが勇気を出してという風に書いてるつもりだったのになんかお題からずれちゃった感じがしたので別々の話として仕上げました(ゝω・)友情出演・なの


「アンタ、景元将軍とお付き合いすることになったんだよね?そのわりには最近前より距離があるっていうか、将軍に対してよそよそしくない?」

乗員乗客たちの憩う場所、星穹列車のラウンジにて。
呆れたようにそう言う三月に、穹は何も言い返せず目を逸らす。
正直な話をすると、穹は景元と深い仲になれるなんてこれっぽっちも思っていなかった。
何百年、下手をすれば何千年と生きてきたであろう景元からすれば穹は赤ん坊のような存在で、どう転んでも恋だの欲だのなんて感情は抱かない。
そう思っていたからこそ、穹はよく景元にスキンシップをした。
時には友人と気さくに触れあうように、時には子供が大人に甘えるように。
そう見えるように、努めた。
彼の体温に、力強い腕に、男らしい手のひらに、胸が高鳴っても。
甘い笑みを向けられて、優しい声で名前を呼ばれて、息が上手く出来なくなっても。
穹は、無邪気なこどもを演じ続けた。
なんとなく心の内はバレているような気はしていたが、こどもらしくしていれば、景元はスキンシップを受け入れてくれる。
好きだけど、それを押し付けたりはしない。
だからこのくらいは許してくれ、これからもちゃんと隠すから。
……という穹の悲恋ごっこはつい先日、居合わせた三月をして『見てるこっちが顔から火出そうだったよ!』と言わしめたほど情熱的な、景元からの愛の告白によって幕を閉じた。
二人は晴れて恋人同士。これからはなんの遠慮も気兼ねも、こどもを演じる必要もなく、触れ合える。
はず、だったのだが。

「なんか、その、恥ずかしくて?」

「いまさら!?!?」

三月の言いたいことは、まぁ分かる。
友人関係の時はあれほどベタベタしていたくせに、と穹自身もちょっと思わなくもない。
けれどあれは、"それ以上"が存在しえないと思っていたからこその距離だったのだ。
触れ合いの先に"それ以上"があると確定している今は、以前のように振る舞おうとしても出来ない。
どうしたって意識してしまう、思い浮かべてしまう。
あの武人らしい、逞しい手が穹の頬を包み、彼が目を細め、顔を近付けてくるのを。

……〜っ!!!!」

「うわ、何想像したか知らないけど顔真っ赤アンタって純情なんだかませてるんだかよく分かんないよ」

顔を覆ってごろんとソファーに寝転がった穹の頭を、三月はため息をつきながら指先でつつく。
三月に『今から恋バナする』と聞いたパムが気を利かせて別の車両へ行っていなければ、きっと怒られていたことだろう。
うぅ、と呻き声をあげる穹に、三月はジュースの入ったグラスを手に持って揺らし、少しお姉さんぶった雰囲気で言葉を続けた。

「恥ずかしくなっちゃったってのは分かったけど、だからって逃げるのもよくないと思うな」

ぐうの音も出ない。
景元から告白されお付き合いというものを始めて以降、穹は景元の顔をまともに見れていない。
指先が触れるだけで肩は跳ねるし、見つめ合うと言葉が出なくなる。
そんなこんなで、避けてはいないがどこか距離のあるコミュニケーションが続いていたのだが……
実はつい先程まで、穹と三月は共に羅浮へ降り立っていた。
桂乃芬から頼まれ、彼女の動画撮影を手伝うために行っていたのだが、その帰りにたまたま神策府へ向かう途中の景元と出会ったのだ。
本当に、偶然だった。
穹の姿を見つけ、愛おしいという感情を隠しもしない笑みを浮かべた景元と目が合った。
その瞬間、穹は三月の言うように、逃げてしまった。

「なのの言う通りだ。よくないのは分かってる、分かってるん、だけど

「なら何か行動した方がいいよ。アンタは見てなかっただろうけどアンタが逃げた時の将軍、ほんと悲しそうな顔してたんだから!」

「え」

穹は思わずがば、と顔を上げる。
そして三月の言葉を反芻して、サッと青ざめた。
自分のことでいっぱいいっぱいになっていて、景元の気持ちを全く考えていなかったことにようやく気が付く。
景元は、穹を愛してくれている。
それなのに、この頃の穹は景元とまともに目も合わせていなかった。
自分が同じことを景元にされたらどう思うだろう。
自分と景元の"好き"が同じくらいの質量かは分からないが、少なくとも穹が同じ状況になったら、悲しい。
もしかしたら、自分のことなんて好きじゃなくなったんじゃあないかと、不安に─────

……なの、俺ちょっと行ってくる!」

「きゃっ!?」

ソファーから飛び起きた穹に三月が驚き、ジュースを床にこぼした。
ごめん、と謝る余裕も無く界域アンカーで羅浮へ飛ぼうとしたその時、ラウンジに乗客が一人入ってくる。
それは今まさに穹が会いに行こうとした、景元その人だった。

「やあ。少し時間が出来てね、邪魔をす───」

「景元!」

あれこれと考える前に、その胸へ飛び込んだ。
ぎゅうっと抱きつくと、お香のような匂いが穹の鼻腔を満たす。
"悲恋ごっこ"をしていた頃は、よく感じていた匂い。
なんだか、久々に感じた気がした。

穹?」

「すき。俺、景元のことが好きだ!好きすぎてちょっと、景元から愛されるのに慣れなかったというか!ドキドキしすぎて顔が見れなくて、触ったりも出来なくて、でも大好きで!これは信じてほしくて」

思ったことを、なんとか言葉にする。
人の思いなんて目と目で通じ合う、なんて話もあるが、目を見てなかった以上は言葉にしなければ伝わらない。
好きじゃなくなったなんて誤解だけは絶対にされたくない、という一心で『好き』と何度も伝えていると、頭上から深い深いため息が一つ、聞こえてきた。

…………三月殿」

「ご、ごゆっくり〜!」

バタバタと慌てた足取りで三月がラウンジを出ていくのが分かる。
彼女の名前を呼んだ景元の声色は低く、まるで怒っているように感じた。
おそるおそる顔を上げてみると、普段の景元とはまるで違う、険しい表情がそこにあって。

「け、けいげん、俺」

「君の前では、泰然自若とした大人ぶっていたかったのだが」

大好きな人の指先が、するりと穹の頬を撫で、顎を掬う。

「本当に、かなわない」

初めて見る瞳に、初めて向けられた、或いは今日初めて気付いた視線に、穹はぴしりと固まった。
蛇に睨まれた蛙のように、逃げることすら出来ない穹の唇に、景元のそれが重なる。
それは穹にとって初めての、喰らいつくような
"大人のキス"だった。


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