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「二人のはじめて、花火も見たかったなぁ」

全体公開 1 42 2574文字
2026-04-17 23:22:57

波箱のお題で書いたサン穹です。
いたずらっ子な穹くんと振り回されるサンポさんのお話



「「あ、やっと来た」」

声を重ねてこちらを見つめる少年たちに、サンポは口の端を引き攣らせた。
まるでそこに鏡でも置いているかのように瓜二つ、生き写しの少年二人。
サンポの愛しい愛しいお得意様の姿をした彼らは、パブの入口で歩みを止めてしまったサンポのもとへ、二人仲良く並んで歩み寄ってくる。
次の台詞は、なんとなく察した。

「「ど〜っちだ!」」

「僕で遊ぶのやめてくださいよぉ……



パブ【ワールドエンド】のバーカウンター。
周囲からの好奇の視線をひしひしと感じつつ、サンポはドリンクを注文した。
バーテンダーは何も言わなかったものの、ニヤニヤしながらオーダーを受け取り、シェイカーの準備を始める。
ドリンクが出てくるのを待ちながら、サンポは改めて自分の両サイドにぴっとり陣取った少年二人と対話を試み、それとなくどちらが本物か探ってみることにした。
万が一にも本物を見誤ろうものならば、穹は拗ねて怒って頬を膨らませ、バットを取り出してくるに決まっているので。

「え〜っと、穹さん?」

「「なに?」」

「うわっ左右から全く同じ

「は?全然違うだろ、俺の声の方が可愛い。なあそうだろサンポ」

「偽者の俺も確かに可愛いけど、まぁかっこよさも兼ね備えた俺には敵わないよな。なあそうだろサンポ!」

「あっはっは……

どうしよう全く分からない。
たらりと流れた冷や汗、バレてやしないだろうか。
片方はどうせ花火なのだろうが、今日の彼女の変装はまた一段と完成度が高いようだ。
声色、言葉、立ち振る舞い、指先の動かし方に至るまで、サンポの知る穹との相違点が見つけられない。
もしかすると、穹があれこれと自分について教えたのかもしれない。
こうやってサンポをからかい、困っている顔を見て愉しむために。
もしそうだったとしたら、彼も随分と"イイ"性格になってきたものだ。
サンポが初めて会った頃の穹は、もう少し人形じみた少年だったのだから。

「なあ、どっちが本物の俺かまだ分からないのか?」

「ひどいなサンポ、俺たち深い絆で結ばれた兄弟じゃあなかったのか?」

「んもぉ〜急かさないでください今見極めていますので!ちょっと、飲み物まだですか!?」

シャカシャカと先程からシェイカーを振り続けているバーテンダーは、満面の笑みで『もう少しお待ちください』と言うばかり。
ドリンクで喉を潤し、そして『お腹が冷えてちょっと、アイタタタ』なんて言って退席するという狙いは、面白いものを見たい一心のバーテンダーによって潰されてしまったようだ。
左右の穹にそれぞれ腕を引っ張られながら、サンポはこの状況をどう切り抜けるかと頭を悩ませる。
そんなサンポをみかねたのか、或いは新しい楽しみが欲しかったのか、右側の穹が一つ提案してきた。

「いつもみたいにさ、俺の事口説いてみたら?俺とそっちの俺で、反応が違うかもしれないぜ?」

「それは嫌です」

そう即答すると、二人の穹は揃って目を丸くした。
なんで?と首を傾げる彼らに、サンポはため息を一つついてから、優しく説く。

「僕のこの愛は、これを伝える言葉は、ただ一人にだけ捧げると決めたもの。例え見た目や言動が穹さんそのものだったとしても、穹さんではないかもしれない相手にそれを捧げることはしたくありません」

胸に手を当て、愛しい姿を思い描く。
本物の穹や心の中の穹に捧げるのならばともかく、もしかすると偽者かもしれない相手に愛を囁けとは、右側の穹が本物ならばちょっと恨みに思う。
サンポがそう説明すると、二人の穹はそれぞれ違う反応を見せた。
……恥ずかしいやつ』と頬を染めそっぽを向く、左側の穹。
そして───────

「嘘つけビジネスチャンスと見れば誰にでも甘い言葉のマシンガンかますくせに」

「あ、こちらが本物の穹さんですね!」

しらけた表情で貶してきた右側の穹をサンポが抱きしめると、左側の穹は『えぇ?』と引いていた。
確かに穹はサンポの口説き文句に照れて赤面することもあるが、それは二人きりの時だけ。
周りに人の目がある時は、例え内心照れていたとしても冷たい態度を取ってくる。
これで偽者の穹も冷たい態度だったらどうしようかと少し不安だったが、さしもの花火もそこまでのトレースは出来ていなかったようで、サンポは小さく安堵の息を吐いた。
事態が完全に決着したと見るやいなや、偽者の穹はつまらなさそうに唇を尖らせ、周囲の野次馬たちも解散し、バーテンダーがようやくドリンクを持ってくる。
この程度はパブの日常だ、いちいち目くじらを立てるものでもない。
それより大切なものがある、とサンポは腕の中に閉じ込めた穹に『あの』ととびきり甘い声で囁きかけた。

「クイズに正解したのですから、ご褒美とかあってもよろしいのでは?」

……んー、まあそうだな。よし、目を瞑れ」

言われた通り、目を瞑る。
こういう時、穹のくれるご褒美といえば、大抵の場合キスだった。
唇に、ではない。唇のキスはまだしたことが無い。
頬とか、おでことか、鼻だ。
正直に言うともっと色気のあるご褒美がいいという気持ちもあるが、サンポは穹のそういう妙に幼気な所も好きなので、なんの不満もない。
今日はどこにしてくれるのだろうか。
なんとなく頬がいいな、と思ったので、気持ち頬を突き出すようにする。
そうしてワクワクしながら待っていると、柔らかなものがちゅっとサンポの顔に触れた。
…………唇に、触れた。
思わず固まったサンポの腕の中から、穹は猫のようにするりと抜け出す。
軽やかな足取りでパブの出入口の前に立った穹は、くるっと振り返って悪戯な笑みを浮かべ言い放つ。

「俺だって、いつまでも子供じゃないんだからな」

べー、と舌を出して、穹は風のようにパブから出ていった。
数秒の沈黙、そして。

……初めてのキスをこんな所でするんじゃあない!!!!!!!!!!!!」

「声デカ(笑)」

けらけら笑う偽者の穹と『こんな所ってなんだこんな所って』とヤジを飛ばしてくる愚者たちを放って、サンポは駆け出す。
可愛いあの子とのファーストキスを、なんとしてでもやり直したいが為だった。




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