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にほへしワンドロ  お題「痕」

みえろ🦋双騎ありがとう
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2015-12-06 00:21:38

傷痕の話。※少しだけ負傷の描写があります

「手入れ部屋は空いてるか」
 静かだった本丸に、日本号の低く太い声が響き渡った。
 日本号の腕に抱かれ、力なく四肢を垂れているのは、日本号らと共に大阪城地下へと出陣していたへし切長谷部だった。いつも身につけている防具が失われており、胸に大きな切創があった。傷を押さえた布は、元の色が分からなくなるほど真っ赤に染まっていた。
 日本号の腕の中で、長谷部は目を閉じて、浅く短い呼吸を繰り返していた。
 屋敷の奥から現れた主は、日本号とその腕に抱かれた長谷部の姿を認めると、三つ並んだ部屋の内のひとつを指し示した。日本号は、足を使って乱暴に戸を開けると、中の布団に長谷部の身体を横たえた。
 かすかに呻いた長谷部をなだめるように、その頭を撫でてから、日本号は部屋を出た。
 日本号に出来ることはここまでだった。あとは、審神者の力が肉体を修復する。
 長谷部を手入れ部屋に運んだ日本号が、再び表門に戻ると、部隊の残りの隊員が日本号を待っていた。軽いけ怪我を負っている者もいたが、まだ数回の出陣はできそうだった。
 蜻蛉切にあずけていた己の槍を受け取ると、日本号は主の指示を待った。
 部隊の元にやってきた主は、抜けた長谷部の代わりに歌仙を第一部隊にれるよう指示すると、再びの出陣を命じた。


***

 
 日付が変わる少し前に、長谷部は手入れ部屋を出た。
 夜風が肌寒い廊下を、着流し姿で早足に歩き、長谷部は日本号の部屋へと向かった。
 そろそろ床につこうと思っていた日本号は、予想外の来訪者に驚いて、明かりを落とそうとしていた手を止めた。
「お前、もういいのか」
「ああ」
 部屋の入口に立ったまま、長谷部は問いかけるように僅かに首をかしげた。冷たい風が、開けたままの戸から部屋に入り込んできた。布団の上にあぐらをかくと、日本号は手招きをした。
「来い」
 後ろ手に戸を閉めると、長谷部は日本号の腕の中に身を投じた。


 気怠い身体を布団に横たえた長谷部の、そのすべらかな胸の皮膚を、日本号の無骨な手が撫でていた。胸を斜めに裂いた大きな傷は、跡形もなく消え去っている。
「ったく、肝が冷えたぞ」
 日本号が、嘆息しながら呟いた。
 長谷部は、今朝の戦いのことを思い出した。立て続けの戦闘で、皆が少なからず刀装に損傷を受けていたが、あと一戦で、この階を攻略できるということろだった。ここで撤退をして、一から連戦を繰り返すよりは、誰かが離脱することになっても、敵将を落としてしまったほうがいい。それは、主の決めた方針であった。
 結果として、自分が重傷となり離脱することになってしまったが、他の者が敵将を討ち取ったため、出陣は無駄にはならなかった。
 部隊員の中では比較的手入れ時間も短く、資源の消費も少ない自分でよかったとさえ、長谷部は思っていた。
「嘘みたいだな」
「ん?」
「いや、夢みたいだ、が近いかもしれない。手入れ部屋に入るたびに、そう思う。数時間前に、あれほどの傷を負ったのに……。寝ているあいだに、この通りだ」
 日本号は手を止めて、長谷部の言葉に耳を傾けた。
「人の身であれば、到底助からないような傷を負っても、この身体では、痕も残さず消えてしまう」
 長谷部は身体を起こした。仰向けになった日本号の上に覆いかぶさるようにしながら、その胸に手を這わせる。
 左の肋骨の下の縁と、右の鎖骨のあたりに、皮膚が白く硬くなった部分がある。古い傷痕だった。それ以外にも、日本号の身体には、ところどころに小さな傷があった。
 身体に残る古傷は、この槍が、かつて戦に出た証だった。
「ここで負った傷は、手入れ部屋に入れば、すぐに治ってしまって、痕も残らない。戦いが終わって、元の所に帰ったら……。ここで戦った証は、何も残らない」
 そこで一旦言葉を切り、長谷部は顔を伏せた。
「お前と一緒に、戦ったことは」
 どこにも、残らないんだ。
 長谷部は、ささやくように言った。そして小さくため息をつくと、日本号の胸に頭を載せた。
 さっきまであれほど熱かった身体は、いつの間にか夜の空気に冷やされいた。長谷部が胸の上でぶるりと身体を震わせるのを見て、日本号はかけ布団を引っ張り上げると、ふたりの身体を覆った。
「いいじゃねえか」
 長谷部の身体を片腕で抱いて、日本号は言った。
「残らなくても、覚えていればいいじゃねえか。俺は、あの人と一緒に出た戦は、全部覚えてるぞ。……俺たちはたぶん、この先も、ずっとあそこにいるんだ。そうだな、年に一度くらい話題に出せば、きっと一生忘れることはないだろうな」
 日本号の低い声が、触れ合った身体を通して、長谷部に伝わった。長谷部は、声を立てずに笑うと、そうだな、と小さくつぶやいた。
「そうか。お前がずっといるなら、何もなくても、いいか……」
 それきり、部屋は静かになった。
 日本号の手は、ゆっくりとした動きで長谷部の背を撫でていた。
 長谷部が目を閉じて、眠りに身を委ねようとしたころ、その手が不意に動きを止めたかと思うと、日本号が再び口を開いた。
「それにな、お前の身体に傷が残るなんてことになったら、俺はお前をどっかに閉じ込めて、絶対に戦に出さねえからな」
「それは困る」
「だろ?」
「だろ、じゃない!」


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