@tirichann
好きだと思った。大人になってからの爆豪は色気も増して、もちろん実力もあって、誰かを救おうとする心もあった。人を乱雑に扱っているようでいて実は相手の嫌がることやそのラインを見極めているところとか、人にされた親切は必ず返すところとか、好きになった部分を挙げればきりがない。私のこの気持ちは、直感なんていうものではなくきちんと根拠のあるものだった。
だが好きだと言えば、「付き合わねえ」とだけ返された。随分慣れている様子だったから、爆豪は相当告白されているのだろう。告白を断るのもこれが初めてではないということだ。プロヒーローとして華々しく活躍する爆豪相手に、個性は相手の記憶を消去すること、最近事務所を立ち上げたばかり、ランキングにはあまり載らない私がつりあうはずもなかった。
「もう諦めたら?」
お茶子ちゃんは困ったように笑う。諦めるにしても、私は爆豪を見ている限り好きでい続ける気がした。爆豪は自分が好かれていることを気にせず仕事は仕事と割り切るだろうけれど、私はその後の展開を期待してしまう。一方的に爆豪を好きでいることは、私にも、爆豪にも、負担になるような気がした。だから私は自分で自分に個性を使った。爆豪を好きな記憶を消して、またただの元クラスメイトに戻るのだ。
「……また、消したんやね」
翌日の名前を見たお茶子が、ぽつりと呟いた。名前が爆豪を好きだった記憶を消して元の関係に戻るのは、これが初めてではない。学生の頃から、それこそ出会った時から繰り返され続けている。そのたびに爆豪は名前の告白を断り、また好かれ、また断るの繰り返しだった。
かつて、何度記憶を消しても純粋に爆豪を好きになってくる名前に心が傾かないのかと誰かが聞いたことがある。本人にその自覚はなくても、爆豪にしてみれば何回もアタックされているのと同じだ。恋愛にかまけているようなイメージのない爆豪でも、心がなびく可能性はある。
爆豪は面倒そうに舌打ちをし、苦虫を噛み潰したような顔で言った。
「好きだ。好きになってんだよ。でも今更アイツの告白を受け入れたら、アイツが過去に記憶を消した意味がなくなっちまうだろ。何のために自分に個性使ったって話になんだろ」
名前が好きになった爆豪という男は、律儀でまっすぐな男だった。だからこそ、名前は爆豪から受け入れられなかった。いつか名前が誰かと恋愛をすることがあったら、爆豪はその時名前を送りだせるのだろうか。いっそ、名前に爆豪の記憶を消してほしい。そう思ってしまうくらい苦しくなるのがわかるほど、爆豪は名前が好きだった。