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佐久早と新入社員の話

全体公開 HQ 907文字
2026-05-03 20:44:39
Posted by @tirichann

 俺達は基本バレーをしているが、もちろん会社で勤務をすることもある。そんな時、お昼を自席で食べたり食堂に行ったりすれば宮に捕まるのはわかりきっている。女子社員の視線を感じながらわざとらしくバレー談義をする気はないし、木兎や日向に絡まれるのも面倒だ。そういうわけで、俺のお気に入りは非常階段の脇である。ぼっち飯と言われようがいい。一人で平和に昼食をとる。それが第一なのだ。
 今日もいつもの場所へ向かおうとした時、誰かのすすり泣く声が聞こえてきた。悪い予感を抱きながら非常階段を見ると、そこには新入社員らしき女子がいた。そこ、俺の場所なんだけど、と言いたくなるが仕方ない。今は新入社員が入ってくる時期であり、彼女は先輩にしごかれたのだろう。泣くのは自由だが、別の場所を使ってほしい。
 立ち去ろうとした時彼女が顔を上げ、俺の顔をはっきり目に映した。泣いている女子社員を前に、何もしないのは流石に憚られる。俺は今から食べようと思っていたパンを差し出し、「いる?」と尋ねた。女子社員は頷き、アスリートの俺も驚くペースでパンを食べ始めた。泣くとカロリーを消費するというのは本当らしい。俺は昼食も、昼食を食べる場所も奪われ気まずい思いだけしているわけだけど、運が悪いと思うほかない。
 仕方ないので俺は女子社員が食べ終わるまでそこにいた。半分くらいはちぎって残しておいてくれないかと思ったが完食のようだ。諦めて去る俺に、女子社員が何か言っていたような気がする。
 その翌日、出社すると女子社員が目を輝かせて俺を待っていた。
「昨日は慰めてくれてありがとうございました! お礼です」
 差し出されたのはコンビニの新商品だ。いや、この際彼女のお礼はどうでもいい。問題はここが俺の働くフロアであり、同僚一同がみんな見ているということだ。宮に関してはからかう気満々なのが見てわかる。この言い方では、俺が女子社員を狙っていて慰めたようではないか。俺はただ、気まずいからパンをあげただけなのだけど。
 ここから挽回する方法も思いつかない俺はとりあえずコンビニのお菓子を受け取った。宮や木兎からしつこくつきまとわれたのは、その後の話だ。


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