2026/05/05 いしつさんの無配に寄稿させていただいたパロ本のこはひめSSです♡
ページ数を大幅にオーバーしたのでこちらで投稿失礼します。
「色気のいろは」が大好きなので擦らせてください。いつまでも味がして美味しい。
こはひめ軸の漣の挙動ってどうなっているんだろうと思いながら書きました。パロ要素を添えてお送りします。
いしつさん、呼んでくれてありがと~~!
@nag_lfar_rgrk
ピンと立った耳が二対、視界の端に並んでいる。鮮やかな蒼色と、桜色。対照的な二色のそれを眺めながら、オレはストローから緑茶を吸い上げる。スッキリとした味とわずかな苦味が、初夏らしくてちょうどいい。
とある任務のために来た、極東のちょっとした移動都市。トランスポーター向けに出版されたガイドブックに掲載されていた有名な喫茶店へと来たオレたちは、商品が運ばれてくるのを待っていた。何だってこんな面子で……とは思ったものの、でもまぁこれが最適だって上層部が言うからこれで良いんだろう。全く持って知らない仲ではないのだし、任務達成に支障は出ないから。
「せやから、ここのあんみつがどーしても食べたかったんや。一緒に来てくれておおきにな」
ワクワクした様子でそう言うサクラくんの表情はニコニコ笑顔だった。前々から来たいと言っていた店だし、念願叶って嬉しいんだろう。そんなサクラくんの隣──つまりはオレの向かい側──に座るHiMERUは、微笑みを浮かべながら静かにその様子を見守っていた。オレの記憶だと、こういう時は一緒に騒ぐタイプだった筈なんだけど。記憶の中の姿とのちょっとした差異に驚くけれど、まあ大人になったってことなんだろうと納得する。
言っておきますけど、HiMERUだってあんたみたいな顔してた時があるんすよ。そうサクラくんに言ったところで、たぶんきっと、軽〜く流されて終わりなんだろうな。
「お待たせいたしました」
店員さんが持ってきたあんみつは、ガラス製の深皿に載せられていた。サクラくんが頼んだそれと、HiMERUが頼んだ白玉ぜんざいに、オレが頼んだ寒天ぜんざい。サクラくんが最初に見せてきたガイドブックの紹介ページに載っていた三品は、どれも美味しそうだった。
ルンルンの表情のままのサクラくんは鼻歌交じりにスプーンを手に取り、あんみつを食べ始める。ヴァルポ特有の少し大きめの耳がピルピルと動くのを見ていたらなんとも微笑ましい気持ちになった。チラリと横のHiMERUの様子を盗み見れば、耳こそあまり動かないが尻尾がゆらゆら揺れているのが確認できる。済ました顔で隠せていると思っているのだろうか、生憎と通路側に座っているせいで根本の部分の動きがよく見えている。どうやらお気に召したらしい、気ままなフェリーン様は顔にこそ出ないが他で気持ちが現れるから分かりやすい。
せっかくだからとオレはサクラくんに写真を撮ってあげる旨を伝えた。
「ええの?」
「これくらいなんてことないっすよぉ。ほら、HiMERUもこっち向いてください」
持ち上げたのは任務の記録用の端末じゃなくて、プライベート用の端末。カメラのレンズを対面へと向ければ、HiMERUは嫌がることなく画角に入ってきた。サクラくんの隣でちゃっかりいつものミステリアスな雰囲気の表情になる。あんみつとぜんざいを収めることも勿論忘れずに画角を調整して、「はいチーズ」と声を掛けてシャッターを押せば画像フォルダには楽しそうな表情を浮かべる二人が写っていた。
「あとで送っておきますね」
「感謝するのですよ、漣」
「ほんまにありがとうな、ジュンはん。あとでCrazy:Bの残りの二人にも自慢したろ♪」
「椎名あたりが半泣きになりそうですね」
そういえば任務の行程を3人で考えていた時、たまたま同席していた椎名先輩は心底羨ましそうな視線を俺達に向けていたような気がする。食い道楽の椎名先輩のことだ、下手にからかってみようものなら、食堂が大変なことになる可能性もある。──なんてことを考えながら、オレは小豆と寒天が混ざった半透明のゼリー状のドームへスプーンを入れる。口内に広がる小豆の甘さとつるんとした感触は極東じゃないと味わえないもので、その美味しさが染み渡った。
「HiMERUはん、こっちも一口いる?」
「おや、いいのですか。てっきり独り占めしたいのかと思っていましたが」
「わしかてそこまで食い意地張っとらんよ。それこそニキはんやあるまいし……ほら」
たっぷりの黒蜜がかけられた寒天とみつ豆をスプーンで掬って、サクラくんはスプーンをHiMERUへと向ける。それを灼灼とした様子で口内へと受け入れたHiMERUは、咀嚼をした後に満足そうに微笑んでいた。
「ジュンはんは?」
「や、オレはお腹いっぱいなんで」
「寒天ぜんざいだけなのに?」
「はい、そうっすねぇ」
正確に言えば腹いっぱいというよりは胸いっぱいの間違いかもしれない。筋トレを日常的にしている手前、燃費の悪い体であることは自覚しているが……それ以上に胸にきたと言うべきなんだろうか。
「漣はコスパのいい体をしていますね」
「ハハ、喧嘩売ってます?」
首元のサーベイランスマシンをコツンと指先で叩いてみせる。これは感染の有無に関わらず装着を義務付けられているものだが、オレは別に感染者であることを隠してはいない。
「まさか。HiMERUがそれを理由に他人を貶すことはありませんよ」
さらっと躱されてしまったオレは、緑茶に刺さったストローを噛んだ。そういうところだぞ、と心の中で独りごちる。
──HiMERUは変わったな、とオレは思う。ヒトとして一皮剥けたというか、とてもじゃないが同年代とは思えないような余裕を感じるのだ。その事実に対して寂しいような、羨ましいような感情があった。たとえるなら、ひと足先に大人の階段を登られたようなそんな感覚に近いのかもしれない。そんなもの羨んだってどうにもならないのは知っているけれど。
「なんやねん、二人でイッチャイチャして……」
「サクラくん!?」
「誤解です桜河、なぜそのように変換されるのですか!」
「せやかて、いつも燐音はんとニキはんだって同じようなことしちょるし……」
「あれはそういうコミュニケーションです、一緒にしないでください」
どうなっているんだ、Crazy:Bの教育は。
やっぱり燐音先輩ってロクな大人じゃない。そう確信して店の天井を仰いだ先には、カラカラと小さく音を立てて回るシーリングファンがあった。
束の間の平穏、こんな緩やかな時間が約束されるくらいには治安のいい土地。意識の端では二人のやり取りの声が聞こえてくる。「誤解です、あれは桜河の言うような意図も、漣を揶揄う意図もなく──」「知らへんよ。あ〜、仲良しってええもんやねぇ」「桜河!」
周りの視線だとか、そういうのも気にしちゃあ負けだ、全部シャットアウト。バサバサと揺れる二人の尻尾がオレの足を掠めるけどそれもスルー。オレは無関係です、そんな気持ちも込めて天井を見続ける。
まあ、なんだ。
「平和っすねぇ……」
そんなオレの誰に届けるでもないぼやきに反応したのは、グラスの中の氷だけだった。