X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです

第145回AKRNワンドロ -20分

全体公開 67 1186文字
2026-05-21 16:39:55

お題「五月病」「満員電車」「マスク」をお借りしました。(現パロ/二人ともサラリーマンの設定)

通勤時間をずらして快適な通勤を、というポスターを見て舌打ちしたくなるくらいの満員電車の中。
五月病なんて言葉はとっくの昔に死語になったのだろうし、業務効率改善のためにリモートワークを推進する話はどこに行ったのか。麻疹も流行りつつあるのだから、呑気にマスクがどうのこうの言っていないで弊社もまたリモートに回帰してくれ。
そんなことをしみじみ思いながらも、車内に大勢いる死んだ顔のサラリーマンのうちの一人に溶け込もうとしたのも束の間。
「おはようございます!今日は随分とお早い」
「お前もな、杏寿郎」
営業成績を競い合うライバルだと社内の連中は思っているのだろう。杏寿郎自身もそう思ってくれているかもしれない。杏寿郎の出勤時間は俺が中途入社してからというもの、じわじわと早くなってきていたのだから。弛まぬ努力、誠実な人柄に、柔軟な対応力。どこからどう見ても杏寿郎は一流だし、自分は常にその二番手でありたいくらいだ。
正直なところ、自分自身の営業成績などどうでも良かった。首位になったところで給料が倍になるわけでもなし。
ただ、平々凡々では駄目だ。
杏寿郎がハッとする程度には励まねばとやや汚いやり方も使って成績を伸ばしたら、うっかり杏寿郎の成績を抜いてしまう月がでてくるようになって。そうしてようやく杏寿郎の視界に入ったのが今。そう認識している。

乗換駅で人の出入りがあり、目の前の座席が空いたから杏寿郎と横並びで座った。杏寿郎は少し汗をかいていたから、暑かったのかと聞けば電車の揺れで少し酔ったのだと苦笑いしている。実は早めに出勤しているのも、電車が混み過ぎていると突然鳩尾のあたりが痛むことがあるからなのだという杏寿郎に、気の毒そうな顔をしてみせて。
「駅に着いたら、少しベンチで休んでから来ればいい。お前の分のPCもついでに立ち上げておくから」
良ければどうぞとフレッシュミントのタブレットを渡すと、杏寿郎がはにかみながら。
「素山さんが入社されて以降、あまりお話をしたことがなかったので。てっきりかなり厳しい方だと思っていました」
今度、営業スタイルの話を伺いたいのでお礼がてら食事でも、などと言い出すから笑い出しそうになるのを堪えながら「いいのか?俺も杏寿郎と話がしたかった」と快諾し。
(毎朝お前の鞄に仕込んだタグの位置情報を見てから出勤していると知ったら、どんな顔をするだろうか)
いや、ダメだ。
折角イイ感じに来ているのだから、『何故かよく通勤電車で一緒になる素山さん』をそろそろ卒業して『営業成績を競い合いながらも次第に二人は恋に落ち』のフェーズに移行だと頭の中で方程式を立てながら。
「ビールもいいけど、冷酒で一杯というのもいいかもな」
折角だから、沿線の店を調べておこうと言いながら。太腿に僅かに当たっている杏寿郎の高めの体温を密かに味わっていた。


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.