@tanao_5
5月5日(火)に頒布された同一人物アンソロジー「イーデンティテート」に寄稿した作品「デッド・リビング・デッド」について自作語りをしようと思います。
前回のバトルアンソロに引き続き、主催の伊坂台さんに声をかけていただき、大変貴重な経験をさせていただきました。この場でもあらためて感謝を表明いたします。
伊坂台さんから「同一人物」というテーマと「インプ」でお願いしたいと言われた時、これは“重い”話になりそうだという予感がありました。
インプ/ローゼを中心に見た時、「死」や「死者」を扱うことは避けられないし、それらを茶化すような話は絶対に書けないと思ったからです。
正面からがっぷり四つでぶつからないといけないテーマと題材で、自分の死生観が問われるなと思いました。
こういうテーマならオリジナルの方がやりやすいとも思いました。自分の思想が濃く出そうですし、それをメギド72のキャラクタを借りて表現するのはどうかなという気がしたのです。
けれど、誘っていただいた期待に応えたい想いや、インプというメギドに向き合ってみたいという想いから、今回参加することを決めました。
小説を書くにあたり、私はいつも書きたいシーンを頭に想い浮かべます。そしてそこにどういう物語が沿うかを考えながらプロットを組み立てて、それから実際に書き出します。
今回、最初に浮かんだシーンは二つ。
インプがガラスの器(ローゼ)を抱えて、その周りをアイビー、パキラたちが囲んでいるイメージ。
もうひとつは、花を供えられた“愛された死体”が幻獣に襲われることで、ローゼの存在が立ち上がり、インプが混乱しして涙を流すイメージ。
前者はインプとローゼの関係性、後者がインプとローゼの魂の在り方を捉えた時に浮かんだイメージですね。
どちらも「同一人物」という今回のテーマに合っているものだと思います。
このイメージを核に展開を考えていくのですが、テーマが重くなる分、話の筋立てはシンプルにしようと思いました。
インプがヴィータの葬送に立ち会うことになり、そこに幻獣が襲ってくる。最初に想定した筋立てはこの一言に尽きますし、実際書き出した本編も大きな変更はありませんでした。
登場するキャラクタも、領主という立場からヴィータの葬送に花向けを請われても違和感の無いウァプラさんがすぐに思い浮かびました。
当初はブリフォーさんを登場させることも考えました。しかし、虚無イベ後の時間軸にするとインプとローゼだけでなくリリーの存在も考慮しなければならず、話の軸がぶれるかもしれない。ブリフォーさんはストッパーの役割もするけど、どちらかというとインプに近い立場で対比は生まれないなどの理由で見送りました。
おおまかな筋立てを決めたら次は、物語に意味を持たせていく段階に入ります。
インプとローゼを軸にして、そして葬送の場を中心に描くことから、この物語は「死者の視点」で書こうとまず決めました。
インプはプチマゲドンイベで「今度こそ虚無に、何もない空白に消えてしまう」と、虚無イベで「死んだら消えるべきなんだ」と叫んでいたのが印象的で、彼女は過去の記憶もなく、ただ“死んだ”という自覚だけがあり、そしてそれ以外に持ち得ない(だからこそ彼女は死んだら何も無いと思っている)んだなと思いました。
ここをベースに生者が死者に向ける行動は、死者にとってどんな意味があるのかを考えます。
葬送は死者のために行われる儀式です。けれど「残った生者を慰めるためのもの」という文脈もあり、それは肯定的に語られがちです。
死者のためという建前で結局生きている者のために、物言わぬ死者を利用しているのかと、怒りが湧きました。
食物連鎖は世界を大きく捉えた時に大事な仕組みであり、世界を豊にしています。ここに生物の死は重要な役割を果たしています。
けれど、世界の豊かさを享受できるのは生きている者だけです。結局“肉体”の無い死者には何も残されない。虚しさを感じました。
本編中では触れませんでしたが歴史もそうです。生者が、死者に後から意味を付け足していく。時に人物像を歪めて、生者に都合の良い物語を作りあげることもあります。なんと身勝手なのだろうと思いました。
本編の序盤から中盤に記したインプの苛立ちや死生観は、こういった思考の流れがベースにあります。どうしても生者と死者は不均衡な関係にあり、自由に動くことの出来る“肉体”と“魂”がそろっていない死者は、生者の一方的な想いや行動に晒され続ける。
インプは怒るだろうなと思いました。そして、その発露こそが生者に対するイタズラでありプチマゲドンなのかもしれないとも考えました。
これらをまとめていくと物語がネガティブなものになります。ただ怒り、それをぶつけていく。それでもお話になるのですが、ローゼという明確に”愛されてきた死者“の存在を考えると、それだけで終わらせてはいけないという気持ちになります。
生者が死者に寄せる想い、その愛情に意味は無いのか。
そんなことはありません。死者にとっては身勝手で一方的でも、生者はその行動によって世界に影響をおよぼします。
死者の空虚さは消えないし、生者の身勝手さに晒され続ける。それは厳然たる事実としてありつつも、それを踏まえて世界は回っているのです。
インプの生者に対するネガティブさを否定せず、かといって生者の行いを断罪だけで終わらせず、世界という大きな枠に”愛情“を中心にして捉えなおす。
ローゼという愛されてきた死者なら、生者の想いの一端を拾い上げてくれるのではないか、インプに少しでも届けてくれるのではないか。
また、生きている死者であるインプなら、その拾い上げた想いに、何かしらの返礼をしてくれるのではないか。
そういう願いじみた感情で、終盤の展開を書き記しました。
「この世界は、生者と死者で出来ている」との言葉で物語を締めました。
この世界は生者と死者が、その想いや存在が色んな方向に飛び交い、入り乱れて出来ているのだと思います。
タイトルの「デッド・リビング・デッド」は、死者(デッド)であるローゼと生きている死者(リビング・デッド)であるインプを表していると共に、この世界が死者(デッド)と生者(リビング)が交じり合って出来ていることを表現したものです。
しあわせなことに、いただいた感想を拝読する限り、読んだ皆さまには、この物語に込めた意味や、インプやローゼ、そしてヴィータの存在と感情を受け止めていただけたのだと感じています。
インプに怒られるのかもとの感想もいくつかありましたが、この物語を記した私も、勝手な事言ってるんじゃないと怒られる気がします。
インプはいつまでも愛されて欲しいですね。けれど、その愛情に素直に応えてはくれないのでしょう。
ここからは作中の小ネタというか、ピンポイントな解説をいくつか記そうと思います。
・”魂“が”肉体“を駆動させる。
このフレーズは、実はカクヨムで掲載している一次創作で考えたことがベースにあります。心臓が止まっても動き続けるインプの状態を表す言葉としてピッタリだなと思って、流用しました。“魂”というある種のファンタジーな存在が、“肉体”に対してどういう役割を果たすのかを端的に表していて気に入っています。
・インプのイメージの中でローゼ(ガラスの器)を囲む幻獣、死体を執拗に狙う幻獣。
外見イメージはアイビー、パキラ、モンステラです。こいつらは、”生者の身勝手さ“の象徴として登場してもらいました。だからインプは気にいらなくて睨みつけるし、死体を執拗に傷つけ愛情を足蹴にすることに反応して、ローゼの”肉体“が涙を流しました。
最後に幻獣が倒れてローゼの涙が引っ込み、そこには生者の愛情が残ったのです。
・ウァプラさん
ウァプラさんの行動を少し解説します。見回りついでに寄った村で、森の入って帰らないヴィータがいることを知り、様子を見にいきました。そこでたまたまインプに出会い、イタズラを咎めます。
ウァプラさんはインプをど突きつつも、言葉で諭します。これが密猟者だったら問答無用で気絶させて、森の外に放り出していたでしょう。
なんだかんだウァプラさんはお人好しなのです。その後インプを離さないのも、森の安全が確認出来ていないからです(また森の生物に手を出されるのが嫌だからというのもありますが)。
終盤で葬送の場に遅れてやってきたのは、インプがイタズラに使った虫を森に返しに行っていたからです。インプが死体の顔の覆いをは剥ぎ取ったことよりも、森の虫を勝手に持ち出したことにキレていました。
結果的にインプの雷を受け止め、幻獣を一掃します。インプを怒らないのは、インプの行動が幻獣を倒して場を治めようとしていたように見えたことと、被害がほとんど出なかったことが大きいです。インプの行為が未熟でも、そのふるまいを責めることを彼はしませんでした。彼なりにインプの立場に思うところがあるのです。
当初は物語をスムーズに動かすために登場してもらったウァプラさんですが、生きている物とそのふるまいを自然に肯定する彼の存在は、良い役割を果たしてくれたように思います。最初の食物連鎖の解説や、最後にインプの雷を引き受けるところなど、世界の広がりを示してくれました。
・”死者“を通して、自分たちの心と向き合う行為。
死体を前にして、人々が悲嘆に暮れる光景と、それに対するインプの感情の描写ですが、
これはこの物語を書くために、自分の死生観を整理すべく再読した「あなたのための物語」(長谷敏司著 早川書房)にある「死は鏡だ」というフレーズから考えたものです。「死は人をナルシスティックにさせる」との言葉もあり、ハッとさせられました。私の死生観はこの本にかなり影響を受けています。不治の病に侵された研究者と物語を書くAIとの交流を描き、肉体の意義や苦しさを誠実に容赦なく描いた傑作です。SFで少し冗長さもあるし重いテーマなので、万人にオススメとは言えませんが、私は大好きです。
ひとまず語りたいことは以上ですね。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。感想はまだまだ募集しています。疑問などありましたらお答えしますので、何かありましたらお気軽にマシュマロ等でメッセージをお寄せください!