お題『擦れ違う、切ない推しカプ』を反転ドラヒナで書いたお話です。
このお話(遠のいていく、ささやかな願い→ https://privatter.net/p/11879727 )から、そのまま続いています。こちらは、反転ドラルクさん視点となります。推しが目覚めたので、冷酷な狂戦士から浮世離れした人外にもどりました…が、ここでお互いの本音を打ち明け合う事を放棄してしまった為に、後の拗れたドロドロとした関係へと進んでしまう…そんな感じで読んで頂ければ。
最後に、反転ドラルクさんが、満月の夜に彼女の誇りを奪う直前のモノローグを追加しました。苦手な方はご注意下さい。
反転ドラルクさんが彼女の誇りを奪った経緯については、こちらのお話にあります→(最低へのカウントダウン https://privatter.net/p/10365567)
2025/06/16 に上げました。
@kw42431393
『吸血鬼ドラルク、今夜も監視に来たぞ。』
そう言って、いつも、君は天井裏から不機嫌そうな顔を出す。
私はお前の監視員なのだと、市民を守る戦士なのだと…必死に大人の仮面を被り、甘ったれで泣き虫な本音を隠した、その姿は…私の庇護欲を、妙にそそったものだった。
『ああ、素直に手当てをさせておくれ。化膿したらどうする。』
『うるさい!自分で出来るったら!お前、私の父親でも何でもないくせに!』
ああ、そうだとも。君にとっては、『世話を焼かれる謂れはない』だろう。だけど、私はそうせずにはいられないのだ。
『そこまで嫌がる必要はないだろう…君は人にこうして貰った事が、あまりなかったのかね?』
『うん?そう言われれば、あまりないな。兄ぐらいなものだ。』
『ほう?両親には?』
『どちらも多忙な人だったからな。幼い頃は、特に単身赴任の父に会える日が待ち遠しかっ…いや、何でもない。』
私は、君に無事でいて欲しいから…ただ、それだけだ。そして、君が望むなら…その恋しい父親の代わりをしてやっても構わないと思っている。私は、ただ君が…
『ごちそうさま、ドラルク。今日も美味しかった…ぞ。』
ハートマークになったアンテナを揺らして、私の手料理を口にする姿を見たいだけ。
今日も明日も明後日も…何年も何十年も、永遠に、だ。
『永遠…冗談を言うな。それは、無理だ。』
我々は、執着する生き物だ。『永遠』でなければ意味がない。昼の子である君には、理解されないかもしれないが。
『明日も、必ずここへ来ておくれ。』
『くどいぞ。仕事だからな、来るしかないだろう。』
首を傾げる君の手に、口づけを落として…胸中に蠢く欲望を見なかった事にする。
今はクッキーを頬張るリスを、鑑賞するだけで…私は満足だ。それなのに…
『近頃、貴様の評価も上々でな。将来的には、危険度をBぐらいまで下げようかという話も出ているんだ。』
『それは、それは…面白くないものだ。』
『吸血鬼の畏怖欲としては、そうかもしれんが、私は喜ばしいと思ってる。引き続き、気を緩めるなよ。』
危険度が下がるという事は、君が監視員としてここに来なくなるという事だ。執着が命を縮める事もあり得る我々夜の者にとっては、『彼女に会えなくなる』という現実は、死活問題でもあったのだ。
『…さあ、どうかね。』
『おい!こっちは、本気で言ってるんだぞ!』
危険度を上げて、監視が必要な吸血鬼に戻るのは、至極簡単な事だ。
さりとて、幼い頃から決めた使命に邁進している、君の勤務査定を下げたくはない。
『本当に…どうしたものか。』
『ヌヌヌヌヌヌ…?』
当時の私は、ヒナイチくんを『力ずくでモノにして、この城に閉じ込める』という考えはなかった。
それだけに、私の評価が上がっていると無邪気に笑う君が、この上なく憎たらしかった。
「…げえっ!ご、ごぼっ……っ!」
「ハハッ!アハハハハ!!」
ミシミシと骨が軋む歪な音に、パキパキと氷が割れる心地よい音色が混ざる。
芋虫の様に無様な…いや、もっと惨めな醜態を晒している同胞の姿に、久方ぶりにこの血が昂って来るのを感じている。本来の私がいた世界…今となっては、ヒナイチくんの為に戻らなかっただけの世界だ。
この同胞が彼女を傷つけたりしなければ、私は黙って見逃がしてやったものを。
「もう、いいか。じゃあ…。」
背骨をへし折ってやろうとした、首をもぎ取ってやろうとした、止めを…その時だった。
「ドラルク!」
「っ…!?」
聞きたかった声と共に、小さなリスが抱きついてきたのは…
「あぁ、ヒナイチくん?」
背中に感じる温かい感触に、目の前の同胞への殺意が萎んでいく。彼女を庇った時に負った火傷に、柔らかなリスの頬が当たって痛みを訴えてくるが…目を覚ましてくれたという喜びの方が、圧倒的に大きかった。
「動いてはいけない。頭を打っているのだ。ジョンに止められただろう?」
まずは、君を安静にさせなければ…そう思って、私は手を差しのべた。だけど…
「ひっ!?く、来るな!」
なのに、お嬢さんには拒絶されてしまった。まあ、いつもの事ではある。
「少し、待ち給え。」
まずは、背後を確認する。断末魔の痙攣をする同胞を、改めて氷で地面に張り付けにする。記憶が正しければ、奴の能力は触れたものを爆弾に変える能力だったはずだ。ならば、起爆させる『手』さえ奪えば、そして、爆弾も凍らせてしまえば…それは、なんの役にも立たない。
危険度Aの吸血鬼である私は、武器の携行が禁止されている。だが、レイピアがなくとも長年の戦場暮らしの経験と、師匠から仕込まれた格闘術、彼に贈与された義眼の氷化能力があったのだ…今度会ったら、ノースディンに礼を言わねばならんな。
「さてと、ヒナイチくん…」
改めて、少女に手を伸ばす。腰を抜かした彼女が、地面を這って逃げようとする。その顔からは…
「あ…っぁ…や、やっぱり…おまえ…」
顔からは血の気が失せて、カチカチと歯を鳴らして震えていた。相手の能力を封じ込める為とはいえ、この辺り一帯の気温を下げ過ぎたのかもしれない。私自身、気を失った彼女を見て冷静ではなかったのもある。
「落ち着き給え、もう心配ない。」
「いや…さわる…な。」
それにしても、何故、ここまで拒絶するのだろう。そう思って、彼女に払いのけられた自分の手を確認する…奴の返り血で、手袋が汚れていた。
「なるほど、そういう事だったか。」
理由に見当がついた私は、手袋を外し、ハンカチで手を拭う。そうしている間に、少し冷静になったのだろう。怯えていた彼女が、怪訝そうに声をかけてきた。
「お、お前…さっきから、何をやってるんだ?」
「何って…?汚れるから、触られるのを嫌がったのだろう?」
「ち…ちがう…ちがうったら。」
水がないから、このぐらいか。もう一度、両手を彼女の頬に当てる。震えていたが、今度は逃げようとはしなかった。
「な、なあ…どら…」
「いい子だ…軽い脳震盪だと思うが、少し診せておくれ。こんな事なら、大戦後に免許を手放すべきではなかったな。」
「免許…だと?」
「大戦中にね。野戦病院で、自分の退院許可書を、自分で出す為だけに医師免許を取ったのだ。」
透視能力を使って調べた範囲では、異常は見受けられなかった。今夜の所はこのまま城へ連れ帰って、手当てをして休ませよう。
「ど、どうするんだ…彼を。」
おずおずと、ヒナイチくんが背後の同胞を指差している。何故、分かりきった事を聞くのだろう。
「どうって…止めを刺すだけだ。」
当然の事だ。君を傷つけたのだ。私は、奴の塵一つ残すつもりはない。
なのに、蒼白な顔で、君はこう言った。
「ダメだ。VRCに連絡を…今なら、まだ間に合う。」
「何が、間に合うのかね?」
「うっ!そ、その顔は、やめてくれ。心臓に悪い。」
そう言って、再び彼女が逃げ腰になる。『その顔』とは、何だろう?
「ふむ?いつもの、畏怖い私の顔だが?」
側の氷に近づいて力を込める…映った顔に、おかしな所は見受けられない。さっきから、君は何に怯えているのだろう。
「う、うん…それでいい。よく聞いてくれ。死んでなければ、過剰防衛で済む…情状酌量がつくんだ。お前も収監されるだろうが、しばらくしたら、あの城に帰ってこれるから。」
収監か…それは、別に構わん。危険と再認識されれば、これからも、ヒナイチくんが監視に来てくれる訳だ。
「ただ、収監されている間の、君とジョンの食事が心配だ。一度、城に戻る。護送車が来るまで、作り置きをしておかねば。」
「何で、そうなるんだ!折角、お前の評価が上がってるのに!お前はいつもそうだ、わ、私がどんな思いで…っ!」
そう叫んだ君の翡翠の瞳から、ボロボロと涙が溢れてくる。何故、君が泣くのだろう?
「ひっ…ひっく!いつも、そうだっ…いつも…ひとりで、勝手に…」
一人で勝手?それは、君だってそうだろう?私とて言いたい事がある。
そんな理不尽な思いが、込み上げてくる。「評価がよくなって、お前が一般の吸血鬼と認められたら…」と君が目を輝かせる度に、どんなに私が「君と会えなくなるかもしれない」と、苦悩していたか知らないで。
「フン!こんな奴、殺したところで何だというのだ?指名手配犯は、死亡。君は、かつて仲間だった同胞まで嬲り殺しにする危険な吸血鬼を逮捕した、優秀な副隊長。栄転も夢じゃない、勤務査定も上々だ。君にとっては、結構な話じゃないか?」
そう言って、顔を背ける。捨て鉢で吐いた、子供っぽい嫌味だ。いや、こんな思いをするぐらいなら…
「…まぁ、その方が私らしいか。」
瀕死の同胞に視線を戻す。危険度を上げるのは、至極簡単な事だ。それを監視員の前でやるのだ…面会さえ許されない危険人物として収監された方が、諦めもつこう。
「そうだ。やはり、そうしよう。」
更生の余地もない危険人物と判断されるぐらい、残酷に奴をバラしてしまえ…そう思った時だった。
「バカ者!話を聞け!私が、嫌なんだ!VRCに行かせたくない!だって、私…本当は…ずっと…うわぁあん!」
恥も外聞もなく、ヒナイチくんが手放しで泣き出したのは…。
「ど、どうしたのだ?ヒナイチくん!?嫌とは、何を…教えてくれ!」
「知らない!知らない!お前なんか、勝手にしろ!」
暴れる彼女を、腕の中に抱え込む。そこにいるのは、市民の期待を背負ったエリート戦士ではなく、ただの頑是ない子供だった。負傷している彼女を落ち着かせたくて、引っかかれるのをそのままに、思考を巡らす。
どうしたらいいものか…15の頃に、師匠から受けた『女性の扱い方』の授業で、彼はなんと言っていた?
『はっ!?そんなモノに何の意味が?私にとっては、この世で一番馬鹿げた無駄な授業ですよ?師・匠?』
そう言ってサボったのは、あのクソガキ…もとい、私自身だ。だから、彼女が泣いている理由も、何が嫌なのか、どうやって落ち着かせればいいのか…全く、見当もつかない。
「ヒナイチくん、落ち着いておくれ。た、頼む。君は、私にどうして欲しいのだ?答えてくれ。」
「うえっぐ!ひっぐ!お前なんかぁ、おま…え…。」
190年近くも経って後悔する事になろうとは…ため息をつく。こういう時、彼なら。氷笑卿ならどうすのだろう?
「…う、うぅ…。」
懐から、携帯を出す。電話帳を呼び出して…クソ髭の文字を凝視する。あとは、ただ通話を押せばいいだけ…この子の為だ。そのぐらい…ただ…
「…やめておこう。髭に頭を下げるなんて、真っ平だ。」
携帯をしまう。当時の私は、彼女の為にプライドを捨てられなかったのだ。今では考えられない事だが。
「ひっく!うぇっ…ええ…ん。」
おそらく、犯人を生きたままVRCに送り、私の評価を下げずに、彼女の勤務査定を上げるのが、正解なのだろう。しかし、ここまでやっておいて、そんな方法がどこに?
はあ、はあ…ドラルク様、取ってきたヌよ。これを使ってヌ。
長年連れ添ったマジロの声に、顔を上げる。彼の口には、長年使っていなかった小箱が咥えられていた。
「ケガトカスグナオール…そうか、その手があったか。」
ケガトカスグナオールは、再生能力を持たない私が、重傷を負った時に使っていた、お祖父様が作った薬だった。これを服用すれば、傷痕まで残さず、肉体を完璧に再生させる事が出来る…その直前に、全身の骨と筋肉が粉砕されるという、凄惨な副作用があるが。私とて使えば、半日以上全身筋肉痛状態で動く事は出来ない。無論、この同胞が使っても同じはずだ。
「なるほど、よく気づいてくれた。ジョン。」
「ヌー…。」
これを使って、私が奴を瀕死にさせた痕跡を消す。その上で、ヒナイチくんに逮捕させて、VRCに収監させる事が出来たなら…
「奴を追い詰め、逮捕したのはヒナイチくんという事になる。彼女の成績にもなるし、私の罪状は増えない…これでいくか。」
「吸血鬼ドラルク、今夜も監視に…すまない、取り込み中だったか?」
こんばんはヌ。もう、終わるヌから大丈夫ヌよ。
「いらっしゃい、ヒナイチくん。少し、待ってくれるかね?」
時計を見れば、いつも彼女が監視にくる6時になっていた。先日負った火傷の包帯を巻き終えると、私はシャツに袖を通す。横目で確認すると、彼女は少し頬を染めて、視線を反らしていた。
「私の裸を見たのは、初めてだったかね?我ながら、悪くはないと思うが。」
「う、うるさい!一言、多いぞ。」
私は着痩せするらしく、周りからは痩せ型と見做される事が多かった。実際は、長年の戦場暮らしと現在も続けているトレーニングの甲斐あって、自分で言うのもなんだが、なかなか畏怖い肉体に仕上がってはいるのだ。他人に見せる趣味がないだけで。
「さあ、どうぞ。ここにおかけ。」
「ああ。」
椅子を引いて彼女を座らせると、いつも通り、私はテーブルにクッキーを並べる。今宵もクルリと巻いたアンテナを鑑賞していると、視線に気づいた彼女が遠慮がちに口を開いた。
「せ、先日の件だが…私は、奴を逮捕した功績も加味されて、表彰される事になったんだ。実際、奴を逮捕出来たのはお前のおかげだ。伝えておかねばならんと、思って…。」
「それは、めでたい!いつかね?どこでやるのかね?紫外線対策をして、見にいくとも。」
興奮して、彼女の肩に手をかける…だが、何故か蒼白な顔になったヒナイチくんは、私の手を払いのけてしまった。
「分かった。決まったら、伝えるぞ。あと…」
浮かれる私と対称的に、彼女の表情はどんどん暗いものになっていく。
「お前の危険性の件だがな…やはり、まだ要注意人物として監視する必要がある。この前はなかった事にしたが、もうあんな事はない様にしてくれ。」
「アハハ!真祖にして無敵の私を一般扱いとは、危機感が足りないと軽蔑していた所だったのだ。ところで、監視するのは、勿論…」
ああ、悩む必要などなかったのだ。現時点で、他に彼女の実力を凌ぐ戦士はいない。つまり…
「ああ…私だ。私でなければ、勤まらないからな。」
やはり、あそこで踏みとどまってよかった。これで、これまで通り、この城で彼女が来るのを待てばいいだけの事だ。
「ハハ…この208歳児。そんなに喜ぶな。」
そう言って、君は笑ってみせた。しかし、それは私が見たかったいつもの笑顔とは少し違っていた。それは、何故か…
「結局…私達は分かり合う事も…無理なのかな。」
諦めた様な笑顔だった。強気な仮面の下から零れた…彼女の本心の欠片だった。
「無理ではないだろう。少なくとも、昼の者は夜に来る事が可能だ。理解したいのなら、血を受け入れればいい。簡単な事ではないかね?」
「それ以上、言うのはやめろ。これ以上、評価を下げる様な言動は、慎むんだ。いいな?」
蒼白な顔を隠そうと、強がったその姿が、また私の独占欲をそそった。
評価か…実際、現状維持に戻っただけだ。また、同じ話が出ないとも限らない。では…
「ドラルク?」
「何でもないよ…お嬢さん。」
…君の方からこちらに来たいと、思ってくれれば、全て解決するのではないだろうか。
私自身、心の奥で蠢いている執着心が、捕食者としての劣情に移行を始めているのは、自覚していた。だが、自分に懐いてきたリスを逃がしたくなくて、それを隠してきたのだ。
しかし…
『わ、私がどんな思いで…っ!』
泣きじゃくりながら、叫んだ言葉は本心だろう?
その後、何と言おうとしていたのかね?
『私、本当は…ずっと…』
続く言葉が、私の想像通りなら…これを実行に移しても構わないのではないだろうか。
「ま、待て!ドラルク、は、話をっ!」
今更、話も何もあるものか。
私自身、理性が衰える満月の夜に君を害する事がないように、昨夜は日付が変わる前に、棺桶に籠もったのだ。ジョンを通じて、「今夜は監視に来るな。来ても屋根裏に鍵をかけて、絶対に出るな」と伝えておいた。
それなのに、わざわざジョンがトレーニングに出ている時間を見計らって、私に会いに来たのは、君の方だ。しかも、担当している事件解決の為に、ノースディンに繋ぎを取ってくれと…一番の地雷を踏んだのは、君だ。
なにより…
「勝負に勝ったら何でもくれてやる、と言ったのは…君だ。そうだろう?」
「そ、それは、血とか…お、お前、私をそういう目で見てたのか?」
初めは、そうではなかった。戦士としての技量に、催眠術の効かない体質…そして、白い羊膜を被って生まれてきた、神の祝福を受けた者と知って、自分の手で最強の戦士に育て上げ、最高の玩具にしようと企んでいたのだ。
「そうだ。君に、同胞の情報を提供し始めた頃からだったと思う。君に無事でいて欲しいから、他の同胞に触られたくなかったから…だ。」
片手で、彼女の両手を拘束する。空いた手で引き裂いた白い制服の下からは、陶磁器の様な白い肌が露わとなって、抑え込んでいた捕食者としての本能を、さらに昂ぶらせた。
「ひっ!?や、やだ!やめてくれ!こんな事をしなくても、私はっ!」
「こんな事をしなくても…何だね?」
「…」
そう言って、彼女は蒼白な顔で俯いた。市民を守る誇り高き戦士の顔は、蛇に巻き付かれ、死を待つだけのリスの顔になっている。食欲だけでなく、それまで見ぬふりしていた場所まで、早く早くと急かしてくるのを自覚するしかなかった。
だが…
「分かった。君のアンテナが萎れたら、やめるとも。」
初めて、この城に招き入れたいと思わせた女性なのだ。満月で理性が衰えたとしても、可能な限り、君を苦しめるべきではない。
「あ、アンテナ…?何を言って?んんっ!!」
「自覚がないのか?私が棺桶に連れてきてから、こうなっているじゃないか。」
ユラユラと、彼女の頭で揺れているペルソナを、摘んで扱く。軽く甘噛みをしてやると、それは喜んでいる様にハートマークを描いたまま、切なげに震えた。
「ハハッ!これまで、我慢していたのが馬鹿馬鹿しい。このアンテナは私の手料理を口にした時にしか、こうならない事は確認済だ。それが、君の答えだ。」
「し、知らない!アンテナがどうなってるかなんて、知らない!頼む、話を聞いてくれ!私、本当は、ずっと…いっーー!!」
そのまま自らの手で栄養管理し、神の祝福を受けた処女で、最強クラスに育て上げた戦士の血を、心ゆくまで堪能した。
約束通り、何度も彼女の頭で揺れるアンテナを確認したが、それは最後までハートマークを描いたままだった。
流石に啜っている血の味が変わった瞬間、そのアンテナは萎れたが、私が解放しようとすると、再びハートマークを描いて揺れていた。
私が作ったクッキーを頬張っている時と、同じように…
「こんなの…うそ…だって、わたし…わた…ほんとうは…ずっ…」
今だから、彼女が絶望しながら私に触れられて、そのアンテナがハートマークを描いていた理由を、知っている。ロナルドくんとジョンの力を借りて、本音を打ち明け合い、心身共に結ばれた今だからこそ。
『だって、私、本当は、ずっと…』
私に蹂躙されて、泣きながら、「殺してやる」と叫びながら、心の奥底で諦めていなかったのだ。いつか…
『監視員ではなく、ヒナイチとして想いを告げて…この城で、ジョンと生まれてきた子供達と、幸せな家庭を築きたい』
何度も口に出来なかった…ささやかな夢を。