@inu_no_house
体育祭の日
アナウンスが聞こえる。
2年、徒競走に出る人は門の前に集合だと。
集合をかけられた人がぞろぞろと移動し始める。
熱くなって前のめりになって応援している同級生達を前にして、後ろの方で菩条とのんびり競技を眺めていた。
ふと振り返ると移動をしている人の中に頭ひとつ抜けている人物が。
「康太郎じゃん」
最近世話してる後輩。
おーいなんて声をかけるとこっちに気づいて小走りで近づいてきた。名前を呼ばれて走ってくる犬みたいだ。
「鴨井先輩に菩条先輩」
「もしかして徒競走出んの〜?」
チップスの袋をバリバリと開けながら菩条が聞く。
「短距離は苦手なんすけど、いつの間にか決まってて……」
デカいくせに自己主張しないから、嫌と言えず勝手に決められたんだろうな。何となくその時の教室の様子が見えた。
「二人は何に出るんすか」
「俺たちは玉入れだよ」
「玉入れ……」
「骨折対策となるべく動かない種目、って事でな」
自分と菩条をそれぞれ指差す。
何か一種目は必ず出なければいけないから、お互い大真面目に考えた結果だ。
それに比べてこいつはさっきも他の競技に出てた気がする。運動ができる奴は大変だな。
「頑張れよ、徒競走。応援してるからさ」
握り拳を前に出す。一瞬、何かぐっと噛み締めた?ような気がして、思ってたタイミングよりワンテンポ遅れてコツンとグータッチ。
あまり動かない表情でも、意外と分かりやすい。これはきっと何か言いたいんだろうな。
「あの」
ほらやっぱり。なかなか出てこない続きを促すように「うん」と相槌をする。
「1位取ったら、」
「出来立てのご飯食べさせて、くれませんか」
……ん?
急な話すぎて理解ができなかった。
後輩は自分で言った癖に気まずそうに目線を泳がして、「もう行かないと」とか何とかゴニョゴニョ言って集合場所へ走って行った。
急だったから何も言えなかったし、後輩はさっさと行ってしまうし、置いてけぼりにされた感じがした。
ああ、そうか
いつも渡している弁当。
弁当箱を返すたびに「あれが美味かった」とか「これが美味かった」とか語彙力のあまりない感想をくれていた。
何か食いたいものあれば言ってくれ、と言ったら「飯もらえるだけで十分なのに、わがまま言えねぇ」とか言って遠慮してたなぁ。
そうか、あったかい出来立てのご飯が食いたいのか
でも出来立てったって、どうやって?
「で、なに作るか決めたの〜?」
隣からチップスを頬張る音が聞こえる。
口元を手で覆ったのは、もしかしたら顔が赤くなってるかもしれないから。
「いや、ちょっと、まだ決めれそうにない」