アメリコ。最終決戦後の二人。
罪悪感から距離を取ろうとするもうまくいかないam妄想文。
教官がめちゃくちゃにモテる独自解釈あります、ご注意ください。frを都合良く使ってすみません。
@muchi2315
「またね!」
大きく手を振る彼女に、そっと手を振り返す。浮遊したかと思えばあっという間に小さくなっていくブレイブアサギ号を、見えなくなるまで俺は見送った。手を下ろし、再び彼らが旅立った青空を見上げながら俺は呟く。
「さようなら、リコ」
風に吹かれ千切れていく雲のように俺の声はただ消える。どうか健やかに、幸せにと、心の中で祈った。
『また』と彼女は言ったけれど、もう会うことはないだろう。
彼女はライジングボルテッカーズで、俺はエクスプローラーズであるから。彼女の持つペンダントを、彼女を、彼女のテラパゴスを、追いかけ回したその俺が、彼女にできることがあるとしたらもう会わないこと、それだけだ。そうすることでようやく、妨げられることも襲われることも、それらを思い出すこともなく、彼女は仲間と共に冒険へと、これからの未来へと、何の憂いもなく歩み出せるのだろうから。
俺が彼女にできる償いは、きっとそれだけ。
そうして俺は父と共に罪を償い、お祖父様から受け継いだ大切なものを守りながら己の道を貫く。そんな俺を遠くどこかで時折でも彼女が思い出してくれたら幸せだと、そう思った。
そう思っていたのだが。
「あの〜フリード先輩こちらに来てたりしてません?」
研究員のヤンガが恐る恐る部屋を覗き込み尋ねる。その顔と台詞に、またかと俺は頭を抱えた。フリードは優秀な研究員だ。知識が豊富で様々な経験に基づいた多角的な視点を持つだけでなく人望が厚く倫理観も高い。それは父も認めている。けれどもどうしてなかなか、自由過ぎるきらいがあった。流石はライジングボルテッカーズ。こちらの想定を超えてくる。褒めていない。今は超えなくていい。
「私食堂の方探してみます」
「俺は街を探してみます」
「すみません、助かります」
泣きそうなヤンガに、コニアは同情と哀れみの目を向け頷きジルは励ますように肩を叩く。二人はフリード捜索のため部屋を出た。
人探しの経験がある我々に頼るのは合理的な判断だ。エクスプローラーズとしての経験がこのような形で役立つ日が来るとは思わなかったなと、俺は少し不思議な心地で二人を見送る。
今回のターゲット・フリードは、かつてエクシード社研究員だったらしい。しかしフラッと姿を消したかと思えばそのまま退職したとか。自由過ぎる。過去にその皺寄せを食らったのだろうか、ヤンガはそれが若干トラウマらしい。フリードを慕い尊敬しつつも奴がフラッと姿を消す度に探していて、今なお振り回されていた。せめて一言連絡してやれとフリードに心の中で毒づきながら俺もまた捜索に出んとしていると、ヤンガから声をかけられた。
「あの〜……アメジオ様」
「どうかしたか」
「アメジオ様はライジングボルテッカーズメンバーのどなたかの連絡先ご存知ないですか? この前……"先輩曰く"ひと段落ついた時、先輩有給取ったんですけど、その時ライジングボルテッカーズの船に戻ってたらしくて。今回ももしかしたら船に戻ったのかなと思いまして」
「……」
「あ、ご存知ないですよね、すみません」
「……知っているが」
「流石はアメジオ様!」
「……」
「すみません、お手数おかけしますが連絡してはくれませんか!? お願いします!」
両手を合わせ頭を下げながらヤンガが懇願する。俺はそれを見て口を噤んだ。ヤンガの言う通り、ライジングボルテッカーズへと連絡してみるのも有効な手だ。フリードがそこにいないか、メッセージを送るだけ。もしくは電話して聞くだけだ。すぐに済む。エクシード社を見捨てず、ラクリウム解明のため日々研究し働いてくれているヤンガのため、俺についてきてくれるジルとコニアの負担を減らすために。
エクシード社で父を支えると決めたのだろう。
俺は拳を握り締め躊躇してしまう己を叱責した後、意を決してスマホロトムを起動し、もう二度と近付かないと決意したはずの彼女へとメッセージを送った。
連絡を送った数分後、フリードはフラリと戻ってきた。メガスターミー教官が砂場から戻れなくなったコイキングを見つけ助けていたら、そのイケメンぶりに野生コイキングにモテにモテてコイキングが大量発生し取り囲まれてしまい、一匹一匹に紳士に辞退し撤退していたら時間がかかってしまったとか。
俺は再び彼女に、リコに、メッセージを送る。事の顛末を。協力してもらったうえ心配をかけてしまった手前だと、自分に言い訳をしながら。返事はすぐにきた。良かったと当たり障りのない文章。それでも彼女からの言葉が返ってきたと、嬉しくなった。嬉しくなってしまった。
誰もがそう簡単には変われない。
そう痛感する。フリードは天才ゆえ自由で無理難題を飛ぶようにこなす代わりに過集中なタームに入ると連絡不精気味だった。メガスターミー教官は教官で自然の摂理の如く人とポケモンにモテにモテている。
そして俺は俺で、彼女への想いを断ち切れずにいた。
気付けば定期的とも言える頻度でリコへと連絡を入れていて、フリードの居場所や手掛かりやヒントを提供してもらっている。メッセージを一言送るだけ、事務的なやり取りを交わすだけ、それだけで済ますはずだったものが、今ではリコから送られてくる冒険の話を心密かに待つようになっていた。
更にフリードは研究が安定し始めたと体感すると、度々ライジングボルテッカーズの船へ遊びに飛んで行くようになった。その後を追って、俺は時には船へとアーマーガアを飛ばすようになる。やって来た俺を見て「言ってなかったっけ」と目を丸くするフリードの首根っこを引っ掴んでエクシード社に戻ることもあった。もう乗ることはないと思っていた、そのはずが俺は、最早慣れてきた手筈で船へと乗り込む。バトルコートへと降り立ち、ここまで乗せて飛んでくれたアーマーガアを労る。一撫でしてからボールへと入れた後、周辺を見渡し大声をかけた。
「フリード、いるか!?」
「アメジオ」
「……リコ?」
「アーマーガアが見えたから、そうかなって思って。フリードならもう帰ったよ」
展望室のドアが開きバトルコートにいる俺の方へとリコが降りて来る。その姿を俺は夢中で見つめた。一目見るだけ、一言声をかけるだけ。それが、挨拶をするだけ、冒険の話を少し聞くだけと、際限なくどんどん欲深くなっていく。彼女の返事を待っている、彼女の姿を探している、目で追い、声を求め、僅かでも良いなどと言い訳がましくその微笑みが向けられることを望み欲している。そんな自分が、どこまでも愚かだと誰より俺が一番そう思っている。
「……そうか」
それなのに、君は俺を軽蔑する事なく優しく迎えてくれる。柔らかな陽だまりに咲く花のように可憐に。けれども通り過ぎる雨風に折れはしない強さを秘めているのを知っている。その姿の眩しさに、俺は目を細め見入るのだ。網膜に、焼き付けることができれば良いのにと思いながら。けれども俺がいつまでもここにいる訳にもいかない。わかっている。わかっていながら動こうとしない己を蔑みながら、俺はリコから自分自身を引き剥がすために彼女へ声をかけた。
「入れ違ってしまったようだ。すまない、邪魔をしたな」
「え、もう帰っちゃうの?」
その言葉に、踵を返そうとした足が止まる。ドッと胸が高く鳴り身体が熱く沸き立つ。縫い付けられたようにその場から動けない。なんでそんな事を言うんだとリコを見る。すると澄んだ空のような彼女の瞳が俺を見つめていた。名残惜しげに。その色に俺は足元がぐらつく心地がした。なぜ、どうして。俺が怖くないのか、憎くはないのか。そう尋ねてしまいたい気持ちを抑え、これ以上彼女から何も求めるなと俺は声を絞り出す。
「あ、ああ。……まだ仕事が残っているから」
「そっか……」
残念そうに目を伏せる、その表情に胸が震える。舞い上がりそうになる心を押さえつけるため俺は拳を握り締めた。けれども、動かない。動けない。この場を。もっとここに、君の近くに、側にいたいと俺が強く欲しているがために。そして罪深いことにそれを"君に"許して欲しいのだ。
そんな自分の浅ましさに辟易する。自惚れだと言ってくれ。この身を駆ける喜びを、どうかその手で潰えてくれ。
感情がぐちゃぐちゃに荒れ狂い、胸が、苦しい。思わずリコから顔を逸らし、落ち着けと自分自身を呵責した。少し落ち着きを取り戻した頭で逸らしてしまっていた顔を戻す。お互い黙ってしまったまま動けずにいる、この状況を、どうにかしなければと口を開けた。
「あの」
「また」
お互いの声が重なる。タイミングの良さに驚き目を瞬かせた。そんな俺を見て、リコが笑う。ああ、笑った。彼女の笑顔に見惚れてしまう俺の胸に甘い痺れがピリピリと走る。麻痺したようにぼんやりとする頭で、言おうとした言葉を、台本にある台詞のようにどうにか俺は口にした。
「また……力を借りることがあるかもしれない。その時は、すまない、力を貸して欲しい」
「うん、いいよ」
リコは目を細めたまま、優しい表情で頷く。かと思えば忙しなく目を瞬かせた。少し落ち着きなく視線を左右に動かし、言うか言うまいか少し悩むような姿を見せた後、やや緊張した面持ちで俺を見上げ、告げた。
「あの、お仕事落ち着いたら、よかったら遊びに来てね。ジルさんコニアさんと一緒にでも」
思ってもみなかった提案に目を見張る。その頬が少し赤く染まっているように見えるのは、きっと夕陽のせいだ。俺がそうさせている、などと思い上がるな。勘違いも甚だしい。
身の程知らずめと自分自身を押さえつけるその足掻きを嘲笑うように、同時に祈るように願っている、そうであってくれと。俺がそうさせているのだと。
「……ああ。ありがとう、リコ。是非伺わせてもらう」
「うん!」
俺の返事にリコは目を輝かせる。そして花が綻ぶように破顔した。屈託のないその表情の眩しさに、苦しいほどの幸せが胸に溢れる。俺はその幸せから逃げるようにアーマーガアに跨り、空へと飛び立った。そんな俺の、名を呼ぶ彼女の声につられて振り返る。見ればリコは手を振り見送ってくれていた。その優しさに俺は奥歯を噛み締めながらも笑みを作り、リコに小さく手を振り返した。今度こそとアーマーガアに合図を送り大きく羽ばたかせる。
しばらく飛び続けていると段々と空から日が落ち、宵闇前の薄明の時間が世界を覆い始めた。赤から橙、青から紫へと、グラデーションに彩られた美しい空の下、俺は小さく身を屈ませ、奥歯を噛み締め胸を掻きむしった。
「あ ああああ ああ! 馬鹿か俺は!!」
顔を上げ、叫び、左手で胸に強く爪を立てる。舌を噛んでしまうとわかっていながら、声を張り上げ、叫ばずにはいられなかった。凍える風が頬を、喉を、眼を、冷たく焼く。罰も許しも彼女の負担にしかならないと、全て自分だけで背負うつもりでいた、そのはずなのに。俺は結局彼女を望んでいる。底抜けの強欲者だ。救いようのない愚か者だ。わかっている。けれども自分だけでは最早終わらせられないんだ。手に負えない、どうしようもできそうにない。
救いも罰も許しも愛も、俺は結局、その全て、彼女が欲しいのだ。
この想いを、抱えきれない俺はただ闇雲に叫んだ。