カルみと 寝顔の話
シナリオネタバレあり
@popo_trpg_ss
どこかのドラマで、寝顔を愛せる人を好きになりなさい、という言葉を聞いたことがある気がする。
寝顔こそ全ての取り繕いを解いた無防備そのもので、そんなありのままの姿を愛することができる人に出会えることは奇跡なのだと。
「にしても間抜け顔だなぁ……」
向かい合ってすやすやと穏やかな寝息を立てる神無三十一の寝顔を眺めながら、縞斑狩魔はそう小さく呟いて笑った。
半開きの唇の端から涎を垂らして呑気に寝ている彼は果たして、警戒心というものはないのだろうか。
仮にも自分は犯罪組織のリーダーで、彼は警視庁公安部アンドロイド対策課のエースという立場だというのに。
「……まぁでも、今更ではあるか」
眠る神無の鼻先を突いた縞斑は、彼の首筋に散らばる赤色にふと視線を落とす。
昨晩は久しぶりの逢瀬ということもあり、欲望のままに散々愛し合って眠りについたのだから。
慌ただしい日常の中でどうにか時間を作って重ねる逢瀬はいつだって、ゆっくり互いの近況を話したい気持ちもあるが、触れ合いたいという気持ちがつい先走ってしまいがちである。
もう少し自制を覚えたいが、それもこの無自覚に好き放題煽る愚かで可愛い恋人の前では無理かもしれない。
そう考えながら神無の寝顔を眺めていた縞斑は、ふとふよふよと不思議な寝息を立てる彼の唇に視線が引き寄せられた。
「うーん……」
昨晩この唇が腫れてしまうまで唇を重ねて、愛を囁いて、誘導のままに卑猥な言葉を紡いでいたとは思えないほど無垢な唇である。
そんな唇の端を指先で続けば、ぷや、と間抜けな音が聞こえて思わず縞斑は枕に顔を埋めてひとしきり笑ってしまった。
「……えいっ」
ついに魔が差した縞斑は、神無の唇の隙間へ指をずいと突っ込む。
「むぐ、ぅ……んん……」
突然口の中に入ってきた異物に対して眉を寄せた神無は、しばらくもごもごと何かを呟いていたが、やがてそのまま縞斑の指を甘噛みし始めた。
「…………あまくない……」
「ぶふっ」
ぽつりと不服げな寝言を呟く神無に、再び縞斑は枕へと撃沈する。
どうやら神無は、夢の中でも甘いものを食べていたらしい。もごもごと指先を噛んだり舐めたりと動かしながら不満げな呻きを上げる神無をそのまま見守っていると、彼は夢の中の文句をつらつらとこぼし始めた。
「せんぱい、あまくないー……」
「そりゃそうでしょ」
「あまいせんぱい……たべたい……」
「甘くても食べないでよ」
奇跡的に成り立った会話と、縞斑の指だと分かった上で齧っていたらしい夢の中の神無が面白くて仕方がない縞斑は、声をあげて笑いたい気持ちをどうにか抑えて神無の頭を撫でる。
「邪魔してごめんね、おやすみ」
幸せな甘い夢を邪魔したことを謝って指を引き抜けば、しばらくむにゃむにゃと口を動かしていた神無は再び穏やかで規則的な寝息を立て始めた。
「ほんと、かわいいなぁ」
彼の寝顔ならいくらでも愛せそうだ。
こんなにも自分に気を許して、少しだけ間抜けな愛しい寝顔を見せてくれる恋人を、何があっても守り抜きたいと思う。
自分の呑気な寝顔が縞斑に幸福感をもたらしたことなどつゆも知らず、神無はにへらと緩んだ笑顔を浮かべて甘い夢を楽しむのだった。
終