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雨の日の誕生日

全体公開 東京リベンジャーズ 30 4372文字
2026-06-12 18:53:05

三ツ谷隆の誕生日の1日
ルナ、マナ、ドラケンにマイキーに囲まれてささやかな、でも幸せいっぱいの誕生日
後日談のオマケつき

Posted by @akaneyupi

下駄箱から取り出したスニーカーの靴ひもを結びながらふと外を見ると雨が降っていた。
下校する生徒たちはカバンから出した折り畳み傘を差したり、友達と相合傘をして家路へと向かって行く。
「あーっ、傘忘れちまった」三ツ谷は小さく呟いた。今朝 天気予報を見た時は傘を持っていこうと思っていたのに、朝食後におきた姉妹ケンカの仲裁をしているうちにすっかり忘れてしまった。
(まあ、このくらいの雨なら走って帰ればいいか)
空を見上げて、昇降口を飛び出した。

「えっ、ルナ、マナ?」
校門の前に妹たちの姿を見つけた三ツ谷は2人に向かって走り寄った。
「おにいちゃん、傘持ってきたよ」マナが自分の背丈ほどもある男物の傘を誇らしげに三ツ谷に差し出した。
「ありがとう、わざわさ学校まで来てくれたんだ」
傘を受け取った三ツ谷は小さく屈むと妹たちの頭を撫でた。
「『エヘヘ、おにいちゃん大好き』」傘を放り投げて二人同時に抱きついてくる。
「こら、やめろ。濡れるだろ」三ツ谷の制止も聞かず抱きつく力を強くする2人。


6月の雨が街中を水の世界に染めていく。


「おにいちゃん、早く早く」
ルナとマナが雨の中、弾むように駆けていく。
時折傘から手を出して雨の感触を楽しむルナ。
生け垣の紫陽花の葉の上にいたカタツムリに歓声を上げるマナ。
そういえば、朝の姉妹ケンカの理由は何だったけ?三ツ谷は朝の騒動を思い出す。
そうだ、歯磨き粉を使い終わって、次の歯磨き粉をストックの中から選ぶ時、バナナ味がいいと言うルナとイチゴ味がいいと譲らないマナ。
女の子同士だから派手な殴り合いにはならなかったけれど、それでも髪の毛や服をひっぱって双方大泣きになったっけ。三ツ谷が仲裁に入ってもお互い譲らず、夜の歯磨きの時間までにゆっくり考えようとその場をおさめたことを思い出す。
あれだけの大喧嘩をしたのに今は仲良く雨の中を歩いている。
(まったく……)三ツ谷の口元が柔らかく弧を描く。
「おにいちゃん、何笑ってるの?」
「えっ、お前ら仲いいなって」
「『仲良しだもんねー』」
「それで、歯磨き粉はどうするんだ?」
「あのね、メロン味にした」
「メロン?」
「うん、メロン大好き」
「マナもメロン大好き」
「そっか」思わず吹き出す三ツ谷。
「おにいちゃんもメロン味の歯磨き粉使っていいよ」


雨は霧雨になったけれど、あちこちに水溜まりができていて、水しぶきを上げながら車が走り去っていく。
いつも行く児童公園を見つけるとルナとマナは当たり前のように公園に入っていった。
「今日は雨だから遊べないぞ」という三ツ谷の声は霧雨に溶けていく。
2人は公園の草むらを覗いたり、生け垣の下に屈んだりしながら楽しげに公園を歩いている。
雨だと余計はしゃぎたくなるのは誰に似たのか?あっ俺か?

「はい、おにいちゃん」
ルナが露草の束を差し出す。マナの手にはムラサキカタバミ。
「今日、おにいちゃんの誕生日でしょ。だからあげる」
「お前たち……
三ツ谷は妹たちの目線の高さにしゃがむと宝物を受け取るように花束を手に取りそっと胸に抱いた。
「ありがとう、ルナ」「ありがとう、マナ」

「あっ、向こうにおっきな水溜まりがある」マナが公園の中央に向かって走り出しその勢いのまま水溜まりにジャンプした。音を立てて飛び散る水しぶき。
「あっ、おいマナ!!」三ツ谷が言うより早くルナも水溜まりに飛び込む。
キャッキャッと歓声を上げながら水を掛け合う2人。
(あーあ、帰ったらすぐに風呂に入れねえとな)
ため息をつきつつも目元に笑みを宿しながら見守っていると
「よっ、三ツ谷」背後から聞き慣れた声がした。
「って、ドラケン?」
「今日は三ツ谷の誕生日だろ?だから三ツ谷特製のカレーを食おうと思って」
ドラケンはニカッと笑いながら食材の入ったスーパーの袋を三ツ谷の目の前に掲げた。
「カレーって……俺が作るのか?」
「そーゆーこと。三ツ谷のカレーは美味いからな。誕生日に美味いカレーを食ってお祝い、最高だろ?」
「どっちみち夕飯を作るつもりだったからカレーを作るのはいいけど、それで自分を祝うのか?」
「固いこと考えるなって。マイキーも後から合流するって言ってたぞ」
「マイキーも……」絶対大騒ぎになるだろうな。ルナやマナよりも大はしゃぎしそうだ。
(まっいっか)

「にしても、ルナもマナも楽しそうだな」
「だな。水溜まりを見ると飛び込みたくなるよな」
「見てないで三ツ谷も交ざってこい」
「俺も?」
「そう、せっかくの誕生日なんだし」
「何だよそれ」
「今日くらい正しいお兄ちゃんじゃなくていいんだぜ。俺が許す」
ほらっ、と言うように三ツ谷の背中を押す。
「うわっ」2・3歩く前によろめいて、ドラケンの方を振り返るとドラケンは「行け」と拳を前に突き出す。
……」数秒の躊躇の後、三ツ谷は妹たちのいる水溜まりに向かって走り出し大きくジャンプした。
飛び散る水しぶき。ルナとマナの悲鳴。そして三ツ谷の笑い声が雨空に響いた。


曇の切れ間から薄日が差し込み光のハシゴを作る。
濡れた土の匂い、青葉を通り抜ける初夏の風。
葉先からこぼれ落ちた雫が下の葉に伝い滑っていく。
三ツ谷は雨上がりの澄んだ空気を胸一派に吸い込んだ。それは少し湿った青葉の香りがした。


「マイキー、遅えな」
「どこで油売ってんだ」
部屋中にカレーの香りが漂い、お腹の虫が早く早くと催促をしているのにマイキーの来訪はない。
「おにいちゃん、お腹が空いた」
「ごめんマナ、もう少しだけ待ってようか」
「マイキーくん、宿題がなかなか終わらないのかな」
「『それはない!!』」東卍の副総長と二番隊隊長の声が重なる。
「どっかでケンカでもしてんかな」
「しょうがねぇな、俺ちょっと見てくるわ」
ドラケンが腰を浮かしかけた時「悪りぃ、遅くなった」とマイキーが勢いよくドアを開けて入ってきた。
「遅せーぞマイキー」
「来る途中、黒龍の下っ端に囲まれちってさ、いつもなら秒でやっつけてやるんだけど今日は大事な荷物があったから派手に暴れられなくてさ」
そう言うとマイキーは四角い箱をテーブルに置いた。
……これは?」
「バースデーケーキ。開けてみろよ。崩れてないはずだ」

「わあーっ」ルナとマナの歓声が上がった。
箱に入ったバースデーケーキには「HAPPY BIRTHDAY 三ツ谷・おにいちゃん」のプレート。周囲はイチゴと生クリームでデコレートされている。それはマイキーが言った通り少しも崩れていなかった。
「すげーだろ、これ俺とケンちん、それからルナとマナで選んだんだ」
「ルナとマナも?」
「うん、この前4人でケーキ屋さんに行ったの」
「そっか、ありがとう、みんな……
「なーに泣きそうになってんだよ」
「なあ、ケンちん、三ツ谷の泣き顔撮ってみんなに送ってやろうぜ」
「わっバカ、やめろマイキー」
三ツ谷の泣き顔は撮れなかったけれど、マイキーに飛びかかる三ツ谷、それを見て大笑いしているみんなの幸せ写真が各々のフォルダーに保存された。


「あーっ、やっぱり三ツ谷のカレーは美味いな。おかわり」マイキーが皿を出せば「俺も」「私も」と次々におかわりの声がかかる。
「いっぱい作ったからどんどん食えよ……ってもう無え」
一体あいつら何杯食ったんだ?
でも、こんな風に大切な仲間と家族と一緒にカレーを食って、笑って。ドラケンの言う通り最高の誕生日だ。


「食った食った。あとは食後のデザートだな」
「デザートって、マイキー ケーキ食っただろ?」それも誰よりも大きな一切れを。
「ケーキも美味かったけどさ、やっぱり食後のデザートといえばたい焼きだろ」
「たい焼きねえ……
「というわけで、三ツ谷、ケンちん買ってきて」
「何が『というわけで』だよ?」
ドラケンの怒りを込めた低い声に気づかないのか、それとも全く気にしていないのか「俺、あんことカスタードね」と座布団を枕に寝転びながら言う。
「ルナとマナも食べたいよな?」
「うん、たい焼き食べたい」
「マナもあんことカスタードのたい焼き食べたい」
言い出したら聞かないマイキー。そしてルナとマナも食べたいと言っている。
「しゃーない、行くか三ツ谷」
……だな」


「結局、俺たちの分も買っちゃったな」
あんこのたい焼きとカスタードのたい焼きを5人分ずつ計10個。甘い香りが鼻腔をくすぐる。
見上げた夜空には雨雲は消えていて、月の下を薄い雲がゆっくりと流れていく。
花びらに夜露を乗せた月見草が愛しい月を見上げなが恥ずかしげに揺れている。
微かにクチナシの香りを孕んだ夜風がふわりと頬をかすめる。
「冷めないうちに帰らなきゃな」
「そうだな」
腕に抱えた袋から伝わるたい焼きの温もりを感じながら2人は家路へ急いだ。

6月12日。三ツ谷隆の誕生日の1日がゆっくりと過ぎていく。


         ◇◇◇◇◇


「それで、たまたま見かけた東卍の総長に大人数でケンカをふっかけてボコボコにされたってわけか」柴大寿が正座をして項垂れている隊員たちを氷のような瞳で見下ろす。両脇には九井と乾が冷笑を浮かべながら控えている。
……申し訳ありません」
「大事な集会の邪魔をしやがって」
「えっ?集会?邪魔?」
「あーあ、ボスがお怒りだ。これは……
「拷問ケッテー」
「ヒイィィィーーーッ、お、お許しを」
「待て、コイツらの処分は後でいい。それより九井、乾、今すぐ大鍋を買って東卍の二番隊隊長の家に届けろ。来年は俺たちも集会に参加だ」



         ◇◇◇◇◇


「チッ、黒龍に先を越されたか。しょうがねえ、こうなったら半間、皿とスプーンを三ツ谷の家に届けろ。来年は俺らも祭に参加するぞ」


        
         ◇◇◇◇◇


「ねっおにいちゃん、来年もまたカレーを作ってみんなで食べたいね」
「そうだな、お前たちが美味しいって言ってくれるのが一番のプレゼントだ。来年もよろしくな」
「おうっ、まかせとけ」
「てか、マイキーは少しは遠慮しろよ」ドラケンがマイキーの頭をコツンと叩いた。
「いってーな、ケンちんだって俺と同じくらい食べたじゃねーか」
「美味いんだからしょーがねえだろ」
「そうだそうだ、三ツ谷のせいだ」
「って、俺のせいかよ!!」

やれやれ、来年はもっと大きな鍋を用意しなくちゃな。それと皿とスプーンも少し買い足しておくか。

キッチンの出窓ではガラスコップにいれた露草とムラサキカタバミが寄り添いながら窓から射し込む月明かりを受けていた。









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