誇り高きちみけものなおやが憧れのちみけもとうじを探して旅をしていたら、厄介な人間に見つかった話
※めマ死別後の甚、イヤイヤ期の恵、ちみけもの直がいる(ちみけもの甚は存在の匂わせのみ、人間の直は続けば出る)
※意味不明独自設定捏造過多
※なんでも許せる方向け
@teppan_fire
この日本という国の一部界隈において、人が生み出す負の感情が様々なバケモノを作るのは常識中の常識である。
恐怖、憎悪、後悔、恥辱、嫉妬、怨念――そういった人間の感情から生まれるバケモノは〝呪い〟と呼ばれ、古くから人のあるところに無数に湧いてきた。特にこの現代社会、経済の中心地となって日に日に人口が過密していく大都市にはそういったバケモノが集まりやすく、常人の目には見えぬ人ならざるものが今日もうようよ発生している。
そんな魔境の一つ・東京の街中に、もちもちと歩く手のひらサイズの影が一つある。
ツヤツヤ手入れされた真っ黒い毛並み、の内側に覗くけぶったような金の髪、大きくて勝ち気そうな瞳。ピンと跳ねたまつ毛、にんまり上がった口角……明らかに人でも動物でも無機物でもない、ちまちまと動く短くてふわふわな手足。
彼の名はちみけもなおや。憧れのちみけもとうじの背中を追い、遠路はるばる京都から東京にやって来た旅するちみけもであった。
ここで一つ、ちみけもとは何かについてことわりを入れなければならない。とはいえアレコレと生態を説明できるほど、ちみけもがどのようなモノかについては(人々の間はおろか、ちみけもの間でも)よく知られていない。
おそらくバケモノの一種ではあるものの、他の多くのバケモノのように人の負の感情から発生したわけではないという点が特徴的だ。彼らはいつからかそこにいて、人のマネをして人知れず社会を発展させ、民家の床底や自然の洞穴や屋敷の天井裏でふわふわもちもちと生きている無害な生命体であった。時おり人に見つかっても、その愛らしい容姿と自慢の毛並みで魅了して餌と寝床をもらい、満足したらふわふわもちもちどこかへ去って行く……。そういう生き方をしている。
そして、そんなちみけもの一体であるなおやの憧れが、ちみけもとうじ。彼はすべてのちみけもの中でも一、二を争うほど強く、凛々しく、立派なちみけもである。昔は同じちみけものコロニーで暮らしていたが、コロニーの長を倒して独り立ちし、遠くへ行ったと聞いていた。
なおやは彼のようなちみけもになりたくて日々精進し、とうとうコロニーを出て長旅をできるほどの力を手に入れたので、こうしてよっこら風呂敷を背負い、もちもちととうじを探して東京にやって来たのであった。
――とうじくん。おれもきたで、こっち側……!
毛に覆われた小さな手に持つのは、ガムの包み紙ほどしかない小さな地図。ずいぶん使い込まれくしゃくしゃになった地図の端っこには、今とうじが住んでいると思われる場所の情報がメモされている。
なおやは猫型のちみけもなので、野良猫などとおしゃべりすることができる。道行くシティボーイ、ならぬシティキャットへ手当たり次第に似顔絵を見せて得た「黒くて強くて大きくて顔のいいとうじくん」の情報を手がかりに、なおやはここまでやって来た。ゴミ捨て場をねじろにしているトラ猫の話によれば、彼は「あぱーと」という種類の人間の住処にいるらしいが……。
本当にこんなところにとうじが住んでいるのだろうか?
落書きのある塀、赤錆びた階段、ひび割れた壁。いかにも築何十年のボロっちいアパートを前に、なおやはちんまり首を傾げた。
カラカラカラ……とどこかの部屋で換気扇の回る音がする。なおやはぴょこぴょこ階段を上り、ひとまず中に入れそうな隙間を探した。ちみけもは非常に運動能力が高く柔軟なカラダを持っているため、ほんのわずかな取っ掛かりから屋内に侵入することができるのだ。なおやはこの奇妙な家の集合体らしき建物のどこにとうじがいるのかまでは聞いていないため、一つ一つ部屋を訪ねて探し回ることにした。
しばらくキョロキョロとあたりを見回していると、とある一室の窓が少しだけ開いているのを見つけた。しめたと思って、なおやは猫のように素早く窓枠に飛びつき、やっぱり猫のようにぬるんと部屋の中に入った。しかし。
――なんやこの家。そこらじゅうゴミだらけやんけ!
降り立った先はとんでもないところだった。狭苦しく大した家具もない室内に、飲みかけのペットボトルや空っぽのカップラーメンのゴミが散乱している。かろうじて口の縛られたゴミ袋がキッチンの隅に積まれ、シンクの中にはまだ汚れたままの皿が水に浸け置かれていた。
――こないなとこにとうじくんがおるワケないな。とうじくんやったらもっと、ニンゲンのすみかにしてもキレイでごつくてえらいおやしきに住んどるハズやもん。とうじくんはちみけもイチ顔のええオトコやったから、ニンゲンなんざイチコロやろうしな。
と思いつつ、一応ぽてぽてと歩いて中を見て回る。空き缶と食べ物のゴミが乗った足の短い机の横に、くすんだ色のソファが置いてある。ずいぶん汚れとる、と視線を上げると、その上に、ソファからはみ出すほどデカイ黒いカタマリが乗っていた。
なんやろ、コレ。
デカく、息づいているようだが、イキモノらしい気配がまったくない。好奇心旺盛ななおやは机の足に飛びついてどっこらしょと台に乗り上げると、ゴミの隙間をかき分けてソファに向かって背を伸ばした。黒いカタマリはだらりとソファにもたれたまま、ぴくりとも動かない。ゴミとも動物とも植物とも、なおやがこれまで見てきたどれとも様子が違う。東京にはこんなヘンテコなモノもいるのだろうか、と首を傾げてじろじろと眺めていたとき、
――ズダン!!
といきなりなおやの頭上に何かが降ってきて、なおやは逃げる間もなく机の上でぺちゃんこになってしまった。
降ってきた何かはおそらくカタマリから伸びていた。蜘蛛の足みたいな形状のソレは、確かめるようになおやのカラダを何度も握り潰す。その圧が強くて、なおやは目をバッテンにしてわちゃわちゃともがいた。ちみけもは外的刺激に非常に強く、機械にプレスされても地上百メートルから落っこちても傷ついたり死んだりしないが、それでも苦しいものは苦しいのである。
「……ンだコレ」
ややあって、黒いカタマリはようやくのっそりと起き上がった。――しゃべった。なおやはパチクリ目を瞬かせ、押さえつけられている何かの割れ目に頭を押し込んで、どうにか顔を覗かせる。
――ニンゲン?
人間っぽいかたちをした元カタマリと目が合って、なおやはキョトンとした。
カタマリと思っていたものは、案外フクザツな形をしていた。頭があって顔があって、首があって腕がある。なおやを押さえつけていたのはどうやら手だ。しゃべるし、動く。見るからに人間の特徴だが、人間にしてはどうにもヘンテコである。そこらへんにいるのとまるで雰囲気が違うし、異質だし、それに何より、
――カオが、とうじくんに似とる……!
標準的ちみけもをすっぽり覆い尽くしてしまえるほどの大きな手のひらに握られながら、なおやはぷるぷると震えた。キリッとした凛々しい瞳、目元までかかる真っ黒い髪、果ては口元のキズまで、この元カタマリはなおやが探していたちみけもとうじにソックリだった。
まさかちみけもが人間になったワケではあるまいが……。なおやがそんなことを思っているとは露知らず、とうじ似の人間(?)は怪訝そうな顔でなおやを見つめる。すると、その背後からうぞうぞと紫のバケモノが近づいてきた。赤ン坊のようなふくれっ面をした、虫みたいなバケモノだ。
うわっ、コッチはブサイク! となおやが思っていると、とうじ似の人間はパッとなおやを離した。なおやがなすすべなくゴミだらけの机に落ちた途端、人間は後ろ手にバケモノから禍々しい武器らしきモノを受け取り、なおやに振り下ろしてきたのだ!
大きな音が鳴って机が揺れる。と同時に、なおやは反射的に机を蹴って武器の軌道から逸れた。人間は鋭い眼光でなおやを捉える。尋常でなくビリビリとスサマジイ殺意に、なおやは持ち前の素早さで慌てて人間の前から逃げ出す。
――殺される!
一体なぜ。ちみけもはただの愛らしく無害なイキモノなのに。
床に飛び降り、振り下ろされる武器を転げるように避け机の下にもぐる。ところが次の瞬間机を蹴り上げられ、ばらばらと降ってくるゴミを避けながらゴミ袋を伝って冷蔵庫の上へ走る。それでも追ってくる手から逃げるため、跳び上がって照明の紐を捕まえ、振り子の要領でリビングの隣――人間の足ひとつ分ほど開いた引き戸の向こうへと滑り込む。
「チッ」
背後から忌々しげな舌打ちが聞こえた。――おれみたいなえろうかあいらしいちみけもが、こないゴキブリみるみたいな目ェでみおろされるなんて。ありえへん。ゼッタイにとうじくんとはむかんけーのニンゲンや。
ぼふん、とやわらかいモノにダイブして、なおやは急ぎ身を隠せる狭い場所を探してもぐり込んだ。幸いすぐそばに、なんだか暗くて生暖かい隙間がある。ここまで狭い場所に逃げ込めば、あのデカブツも追っては来られないだろう。
ヤレヤレ、とんだ人間の住処に来てしまった。早く逃げおおせて、次の部屋へ行かなければ……。と、そう思ったのも束の間。なおやの試練は続いた。
「ん〜……」
なおやの隠れた隙間から、イキモノの気配がする。……しまった。
「ねこ?」
むんずっ! とカラダを掴まれ、隠れ場所から引きずり出される。今度はなんだと目を白黒させていると、スパンと引き戸が開いた。
「オイ、離れろ」
先程の人間(?)だ。や、殺られる。なおやはジタバタと暴れるが、なおやを掴みあげたイキモノは「ねこだ!」などと言ってなおやを離そうとしない。明るい天井の下に現れたイキモノには、頭がある、顔がある、首がある、腕がある。正真正銘、人間だ。
マズイ。なおやが逃げ込んだのは人間の幼体が住む寝床の中だったようだ。どうりであったかくていい感じに暗かったハズである。
「ソイツは猫じゃねえ。離れろっつってんだろ。貸せ」
「ヤ!」
「ヤじゃねェんだよ」
人間はなおやの頭を掴んで上に引っ張った。が、幼体のほうも負けじと離さないのでぎりぎりとカラダが伸びる。別にちぎれはしないのだけれど、ちぎれそうだ。なおやが何とか耐えていれば、「ヤァ〜ダ! とじ、ぽいして! ねこいじめるなっ!」と幼体がわめく。「とじ」?
意地でも離さない幼体の声に泣きが入り始めたのを合図に、人間はめんどうくさそうになおやを引っ張るのをやめた。幼体はササッとなおやを抱きしめると、「ねこだいじぶ? 血でた?」と小さな手で撫でる。少々力が強いが、なおやが愛らしいので守りたくなったのだろう。助けてくれたサービスに、なおやはきゅるるんと精一杯にかわいこぶってみせた。やはり人間はこうでなくては。
とりあえずこの幼体に擦り寄っておけば殺されることはなさそうだが……とはいえなおやはとうじを探さなければならない。けれど、ちみけもの言葉は人間には通じない。デカ人間は今にもなおやを射殺しそうな目で見つめている。幼体から離れた途端に踏み潰されそうだ。どうしよう。
「ねこ、いいこいいこだあね」
「……」
「かわいー」
幼体がつぶやいた言葉に反応し、なおやはちょっと胸を張った。そうだろうそうだろう。なおやはカワイイのだ。ただでさえ愛らしいちみけもの中でもとびきり愛らしい自負を持っている。
「めぐのにする」
「……ア?」
するとふいに、幼体がナゾの宣言をする。人間の顔が殊更に険しくなった。
「とじはさあ、むらさきいの、いるじゃん? めぐも、ねこかうっ」
「ハァ?」
何を言っているのだかよくわからないが、目元を鋭くしたデカ人間の顔が恐ろしかったので、なおやは本能的に大人しくしておいた。「ダメに決まってんだろ。いい加減にしろ」人間が低く厳しい声を発するものの、幼体はまったく堪えた様子もなく「ヤダ! かう! ヤダヤダヤダ!」と叫ぶ。なおやはおののいた。人間の幼体とはかくも頑固で恐れ知らずなモノなのだろうか。
「かうのお! めぐ、ひとりでおるすばん、もおヤダもん! しらないヒトとも、したくない!」
幼体がそう言うと、デカ人間はたちまちにちょっとだけ無言になる。
「……わあった。じゃあ明日別ン猫拾ってくっから、ソイツは離せ。つうか、そもそも猫じゃねえンだよそれは」
「ヤ」
「あー……そうだ、ハラ減ってんだろ。ホラ、メシやるから。代わりに離せ。ぽいしろ。ナイナイ」
「イ゙ヤ! ぽい、しないっ! ヤッ!」
「イヤイヤってオマエ、いっつも人の気ィ知らねえで……」
「ヤアー!」
デカ人間がしびれを切らし、なおやに手を伸ばした。途端、幼体がなおやを握ったまま走り出す。短い手足で人間の股をくぐり、開きっぱなしになっていた引き戸の向こうに飛び込んだ。「オイ待て」と人間が後ろから声をかけるが、幼体は止まらない。元気なことで結構だが、そんなに足元がおぼつかないままもたもたと走り回っては……。
あっ。
――ドバッターン!!
リビングに抜けてすぐ、床に散乱していたゴミに蹴躓き、幼体は派手な音とともに頭からすっ転んだ。その拍子に幼体の手から放られたなおやは転倒とともに床に叩きつけられ、背後からやって来た人間の「うわ……」という顔をまざまざと目にした。
おそらく蹴躓いた原因のペットボトルが床を転がっていく音が、いやに大きく響く。幼体は這いつくばった状態からゆっくりと顔を上げた。おデコが赤くなっている。それから数秒、ビックリした顔で虚空を見つめ、見る見るうちに顔を赤くしたかと思うと、大きな目からぼろぼろと雫をこぼし……サイレンのような音で泣き始めた。
コレにはなおやも耳をイカにせざるを得ない。人間は眉を引き攣らせて額を抑える。伏せた耳の向こうで、小さく「このバカ……」と聞こえた気がした。ニンゲンの幼体ってアホなんやなァ、となおやは思った。
「わあぁあ゙――ッ……うわぁ――――ん! エクッ」
幼体はけたたましく全身全霊で痛みを訴えている。幼体特有の救難信号だ。「どこ打った」デカ人間が近づいてきて膝を折る。「ウウウウ、ヤア――ッ! イック、ううぇええん」幼体はもちゃもちゃ暴れる。「だからどこ打ったって訊いてんだろうが。ここか?」「ヤニ゙ャー! ヒグッ、ううええ、いだいぃ……とじヤダぁ〜……!」この期に及んでイヤイヤしている。大変なことになってしまった。
何をどのように声をかけても一向に埒が明かないので、今度はデカ人間がしゃがんだまま虚空を見つめ始めた。その目はすっかり死んでいる。幼体は言葉にもならない声を上げ、エグエグ号泣している。なおやは立ち上がって二人を眺めた。
――このニンゲン……バケモンくらいつよそうなんに、えろうカワイソーやな……。
なおやは哀れんだ。人間とはなんて大変なイキモノなのだろう。なおやを猫と勘違いし、勝手に転ぶ幼体のバカさ加減。それに振り回されるデカ人間。しかもこの人間、どうやら独りで幼体を育てている。生まれたときから完璧に愛らしく、コロニーに囲まれて健やかに育つふわふわもちもち無害な生命体であるちみけもには、生涯わからない苦労だ。
二人の気はなおやから完全に逸れている。この隙に部屋を脱出してやろうかとも思ったが、しかしなおやはどうにも足が止まっていた。曲がりなりにもとうじと似た顔をした人間が、このように何もかも終わりになった魚みたいな顔をしているのが非常に不憫に思えたのだ。
それに、なおやは自分のかわゆさに自信を持っている。人間はみな自分のかわいらしさにメロメロになるハズだしなるべきという思想を持つ誇り高きちみけもとして、ここはひとつ……助けになってやろうかしら、と思った。
――ヤレヤレ、しゃあないな。とうじくんに感謝するんやで。
なおやは幼体のカラダに飛びつくと、服に手と足を引っ掛けてよじよじと登った。急にくっついてきたなおやに、幼体がヒクッ、としゃくりあげて歪んだ顔を向ける。そうしてパヤパヤとした黒い頭まで登り、上から幼体の眼前をさかさまに覗き込むと、赤くなったおデコをわたがしくらいのやわらかさで、ふんわりと抱きしめてやった。
むろん、別にちみけもの毛並みに人間を治癒できる効果があるとかそんなワケではない。けれどなおやの毛並みはどんな包帯よりよっぽど心地よくふかふかなのだ。こんなにやわらかく手触りのいい毛並みにヨシヨシと撫でられて、痛みを忘れない者などいやしない(※個人差アリ)。昔からちみけものかわいらしさは人々を慰め、古代ちみけも史の一説ではちみけものかわいさによってひとつの国が救われたともある(※諸説アリ)。
事実、人間の幼体はキョトンと寄り目になってなおやを見つめ、べしょべしょとほっぺたを汚していた涙はいつのまにか引っ込んでいる。なおやにふれようと伸びてきた小さな両手にコロンと自ら落っこちて、極めつけに、なおやは全ちみけもの中で一番やさしく愛らしくニッコリと笑った。
「ねこ……」
どうだ。コレがちみけものかわいさだ。
幼体はキラキラとまん丸い目でなおやを見つめる。なおやはムフン、とドヤ顔をした。幼体はそのまま力強くなおやを握ると、やわらかな腹に顔を埋めてグスグスと容赦なく頬擦りした。
げえーっ、ハナミズ! ……幼体の顔面はエゲツないことになっている。ここまで許したとは言ってナイ。とはいえ今更暴れてもムダだった。幼体の両手に落ちたのはなおやの意思だ。
「とじ、見てえ。ねこ、めぐのこと、いいこいいこした!」
幼体はついさっきまで泣いていたことなど忘れ、にぱあと明るく笑う。しかしまァ、こうしてキチンとなおやのかわいさが効いたことには満足である。なおやは本来、ゴキブリみたいな扱いを受けて退治されるべき存在ではない。彼はコロニーイチかわいらしいちみけもと言われたちみけもなのだから、人間の幼体のゴキゲンをとるくらい朝飯前なのだ。
デカ人間はそれを黙って見つめると、ハアーッ……とカラダと同じくらいデカイため息をついた。そしてこう言った。
「……ちゃんと世話すんだろうな」
ン?
「する! めぐ、ねこかうっ」
「しょーがねーな……」
エ?
今度はなおやが「ちょっと待て」となる番だった。
なんか今ハナシ飛ばなかったか?
なんでそないなことになっとんねん。おれはちっとおれのかあいらしさをわけたろう思ったダケや。飼われてもエエとかひとこともいうてへんやろ。いってもつうじへんケド。
「ねこー。これからずうっと、めぐといっしょ。だよ!」
いっしょじゃない。断じていっしょじゃない。
――おれはとうじくんを探さなアカンねん!!
そう訴えたかったが、ザンネンなことにちみけもの言語は人間には通じない。おまけにデカ人間は武器をしまい始め、もうなおやから目を逸らそうとしている。ちょお待て。ウソやろ。待て待て。幼体はすっかりその気でなおやをきつく抱きしめる。
「飼われる」。それはすなわち、人間の庇護下に入るということ。実のところ世の中には飼いちみけもになっているちみけもはいくらか存在する。だがなおやは生まれてこの方そんな立場に憧れたことはなかった。なおやが憧れるのはとうじのような自立した強いちみけも……人間に飼われるにしても自らの意思で厳選した人間のもとに下るつもりだ。それが。なぜ。
おれがかあいらしすぎて、ついとっさにニンゲンを魅了してもうたばっかりに……!?
ふわふわもちもちと人間の幼体の手の中で暴れながら、なおやは初めて自分のかわいらしさに絶望した。こんなことならいくらとうじに似ているからって、人間なんぞにかまうのではなかった。
イヤ、絶望するにはまだ早い。飼われたくないなら拒絶すればいいのだ。なおやはかわいいだけでなくきわめて素早い脚力がある。人間の幼体から逃げることくらい、いくらでもできる。デカ人間の手にかからなければ……。
――とうじくん待っとって。おれ、はようここからにげだして、とうじくんに追いつくから!
なおやが悲痛な顔でそう決意したとき、べちょ、としっぽに冷たいモノがふれた。――せやからハナミズ!! なおやは威嚇するような素振りをするが、幼体はキャッキャと笑うだけだ。
クソッ、おれがかあいらしいばっかりに……。
しかし、ちみけもなおやの苦難は、まだまだ始まりに過ぎないのであった。
つづくかは、不明