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高3の秋に及川と付き合う話

全体公開 HQ 1 714文字
2026-06-15 21:13:17
Posted by @tirichann

「俺の恋人になって」
 という、及川にしてはかしこまった告白を受けた時点で気づくべきだったのだろう。及川なら「彼女」という言葉を使いそうだし、何よりこの時期は得策ではない。進学校の三年の秋に新たに恋愛をしようという人はいなかった。いたら馬鹿だと思う。付き合ったばかりの恋人のために進路を揃えるわけにもいかないし、数ヶ月で別れることは目に見えている。
「何で付き合おうと思ったの?」
 承諾しておいてなんだが、私は及川に尋ねた。及川は人気者だし、顔も整っている。告白されたら少しはいい気になって頷いてしまったのだ。及川は全く動じることなく、「外国語をマスターするには恋人を作るのが一番って聞いたから」と言った。
「私外人じゃないよ」
「でもスペイン語話せるじゃん」
「どこから聞いたの」
「噂で」
 だとしても、だ。私達は今スペイン語で会話をしているわけではないし、発音や文法を教えているわけではない。私と付き合うメリットはほぼないだろう。これを言い訳にして付き合いたかっただけというほど及川が私に惚れている様子もない。
「なんか本当に彼女にしたら付き合わせるの悪くてあんまり勉強一緒にしたりとかはしてないけどさ。まあ願掛けみたいなもん?」
「はあ」
 当時はぴんときていなかったが、「願掛け」と言われた私が本当に及川のプロの試合の前に祈られる存在になったのはその何年か後の話だ。及川は私を自分の勉強や不安に付き合わせた責任をきっちりとった。アルゼンチンから、よく連絡しているのはかつてのバレー部の同期と私だけと知って驚いたものだ。
 何がきっかけになるかはわからない。ただ、奇跡は起こすものだと及川から学んだような気がする。


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