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夜へ続くゆびさき

全体公開 神無三十一受け 1 11 1565文字
2026-06-18 16:52:39

カルみと 爪を切る話
シナリオネタバレあり

 

 緊張と風呂場の熱気に当てられてのぼせそうに火照る体を連れた神無がリビングに顔を出せば、ソファに腰掛けた縞斑はくずかごの上で爪を切っている最中だった。

 「あれ、早かったね」
 「そ、そう……?」

 縞斑が夜に来ると聞いて、昼間のうちから期待して支度をしていたからだなんて口が裂けても言えない神無は、曖昧に誤魔化しながら彼のとなりへ腰掛ける。
 先に風呂を済ませた縞斑は一度爪を切る手を止めると、申し訳なさそうに眉を下げてそんな神無の頭を撫でた。

 「ごめん、もうすぐ終わるから先にベッドで待ってて」

 彼の言う通り、縞斑はすでに粗方の爪を切り終えているらしい。やすりで爪先を整える工程に入ったそれはおそらく、あと5分もせずに終了するだろう。
 乾かしたばかりのふわふわとした髪を大人しく撫でられた神無は、興味津々といった様子で縞斑のとなりに改めて座り直した。

 「見ててもいい?」
 「いいけど……何も面白くないと思うよ?」
 「それでも見たいの!」
 「そこまで言うなら……

 やけに乗り気な神無を拒む理由もなく受け入れた縞斑は、再び手元の作業を再開する。
 丁寧に深く切った爪先にやすりをかける彼は、時折布を掻いて引っ掛かりがないかを確かめながら形を整えていく。
 その手元をじっと食い入るように見つめていると、縞斑は少しだけ照れくさそうに笑って言葉を続けた。

 「昨日ちょっとバタバタしてて、切る時間が取れなかったんだ。待たせてごめんね」
 「それは別にいいけど……いつも切ってるの?」
 「それはまぁ……こっち側の大切な準備だし」

 縞斑の爪は、夜に会う約束をしたときはいつも決まって深く切り揃えられている。
 会うたびに体を重ねているというわけではないけれど、戯れあっているうちにその気になることだって少なくない。だからこそ彼は、もしものときに備えて爪を整えるようにしているのだろう。
 神無のことを傷つけてしまわないように、配慮をしてくれる彼の優しさがくすぐったい。改めて大切にされている実感を得た神無は、じんわりと痺れるように熱くなる胸にそっと手を当てた。

 「これでよし、と……お待たせ神無ちゃん」

 そうしている間に、縞斑は一通りの手入れを終えて深く切り揃えた爪を確かめると神無へと視線を移す。
 こちらへ伸ばした手のひらと縞斑の顔を交互に見ていた神無は、やがて両手を伸ばして縞斑の手を捕まえた。

 「ん……神無ちゃん?」

 意図しない捕まり方をした手のひらと神無の顔を眺めて首を傾げる縞斑だが、神無はそんなことなどお構いなしに彼の指先を見つめている。
 一本ずつ確かめるように縞斑の爪を撫でていた神無はやがて、彼の薬指の指先へそっとキスを落とした。
 思わずぎしりと固まる縞斑の一方、満足げな顔をした神無は改めて指を絡めて手を繋ぐと縞斑を見上げる。

 「ありがと先輩。いこ?」
 「あぁ……うん」

 指先へのキスは深い愛情の表れだ。たとえ神無がそれを知らなくとも、彼なりの感謝と愛情を伝える行動として選ばれたものなのだと縞斑には分かる。
 指先にまだ残る神無の柔らかな唇の感触を握って、自分が如何に魅惑的な誘いをしたとも理解していない神無を前に縞斑は頭を痛めた。

 「……ごめん、明日立てなくするかも」
 「えー?明日は休みだからいいけど……先輩のスイッチってよくわかんないな」

 呑気にころころと笑う神無は、激しい情事の翌朝にどこにも出掛けないままベッドの上で縞斑に世話を焼いてもらう日が嫌いではないのだろう。
 土産に買って来たケーキたちがまだ冷蔵庫の中に控えていることを頭の片隅で思い出した縞斑は、準備を済ませた寝室へと彼を連れて向かうのだった。



 
 


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