パバステ現地5th名古屋にて配布したペーパーラリーのSSです。当日はお手に取っていただきありがとうございました。
狸の次郎さんと狐の雨彦さんの少しあやかし話です。
@xyukihanax
人の姿に化けたのは久しぶりだった。
それなりの姿に化けられたのだろう。祭で着飾った娘たちに持て囃され、若い衆とも盛り上がり、祭名物の濁り酒をたんまりともらい、適当な言い訳をしてその場を離れた。
今夜は月が綺麗だ。月見酒と洒落込もう。
雑木林を抜けた、人が現れそうにない池のほとりで、狸の耳と尻尾を出す。
つまみにと道中で拾ったどんぐりの殻を剥きながら、先ほど祭の最中に聞いた歌を口ずさむ。
明るい月光を反射する池。そこに映る狸の耳はさぞかし楽しそうに見えるだろう。そのくらい、気を抜いていた。
「ずいぶん楽しそうな歌だなァ。」
「のわっ!?」
油断した。完全に油断していた。
人間に見つかったら終わりだ。狸はもうおしまいだ。
驚きすぎて狸の姿に戻らなかっただけまだマシとはいえ、耳と尻尾は確実に出ている。言い逃れはできない。
やっぱり狸はもうおしまいだ。
頭を抱えて目をぎゅっとつぶる。月見酒どころじゃない。
「何もお前さんを取って食いやしないさ」
「……えぇ? 何? 何なの……」
意を決して振り向く。
こちらのものとは違う、銀の尻尾がふわりと揺れていた。
「え、あんた、狐?」
「ご覧のとおりな」
桔梗色の着物をまとった人の姿に、狐の耳と尻尾。手には俺と同じ濁り酒の瓶。いかにも狐が人に化けましたといった風貌の男が立っていた。
「人の姿になったのは久しぶりでな。祭の酒をいただいてきたのさ。美味いと聞いてね」
「なんだ、お仲間かぁ」
びっくりさせないでよぉと天を仰ぐと、悪かった悪かったと全く悪びれない口調で返ってきた。
「驚かせたお詫びに、人間からもらったつまみを分けるから許してくれ」
「お嬢さんたちを誑かしたんだ。悪い狐だねぇ」
そっちこそ相当持て囃されたんじゃないかい、とくつくつ笑いながら隣に座ってきた男が夜空を見上げた。
「月が綺麗だな」
「それ、人間の世界ではなんか意味があるんだっけ」
「さてな、俺たちには関係のないことだ」
ここで会ったのも何かの縁だ、楽しもうぜと片目を瞑る狐のお猪口に、なみなみと酒を注いでやった。
「さっきの歌、もう一度やってくれないか」
「えぇ〜、恥ずかしいよぉ」
合わせて俺が舞ってやるからと言われ、ええいままよと酒を呷る。
月はまだ空高くにあり、楽しげなけものたちを照らしていた。