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マックスと表情の話

全体公開 mlsb 1326文字
2026-06-24 22:59:06
Posted by @tirichann

 昔から、人の顔を見るのが苦手だった。私が何かを言った瞬間、失礼なことを口にしてしまったのだと理解させられる。私に相手を不快にするつもりがなくても、そんなことは関係ない。気付いたら動揺してさらに口下手になる私の前から、大体の人は去って行く。私を拒絶しているわけではないはずなのに、表情で理解してしまう。私があと少しだけ鈍かったら、きっと毎度傷つかずにいられたのだろう。
 そんな時出会ったのが、DSセキュリティーのマックスさんだった。一目見た時、彼の表情が「作られている」ものだと理解した。彼が好意を示せば笑うし、反発を示せば顔が歪む。本当は卒なく会話を終わらせるはずなのに、私を嫌厭する気持ちがにじみでてしまうなんてことはないのだ。
「今日の請求書。お願いね〜」
 気づけば取引先だというのにタメ口で話すような仲になっていて、請求書を受け取るのにもたつく私に苛立つそぶりも見せない。本当は内心で苛立っているのかもしれないけど、余程怒らせない限り彼はそれを露わにしないだろう。
「マックスさんといるのが心地いいです」
 脈絡もなく好意があるようなことを言う私に、マックスさんは「え、なに急に」と言った。私のこういう唐突さも、あるいは人から距離をとられる原因なのかもしれない。
「私、人の感情を読み取りすぎちゃって。その分マックスさんは感情がわかりづらいので助かります」
 私はマックスさんに紛れもなく親愛の情を向けていた。私がマックスさんと接しやすいと言うことで、マックスさんは喜んでくれると思っていた。だがマックスさんの顔は真顔に戻り、「あー」と言いながら髪の毛をかいていた。
「そっか〜。そうなの。じゃああと少ししたら俺のこと嫌いになるかもね」
「え?」
 どうしてそうなるのか、全くわからなかった。私はまた失礼なことを言ってしまったのだろうか。マックスさんの顔からは判断できない。人の感情の機微を読み取りたいと初めて思った。だが、その相手はそれができないサイボーグだった。私はまた、何かに失敗した。
 マックスさんは簡単な挨拶をして去り、事務所に戻って行った。残された私は呆然としていたが、残りの仕事の量を見てパソコンに向き直る。私はマックスさんを褒めたはずなのに、マックスさんは顔のことを気にしていたのだろうか。
 それからもマックスさんは時折私の会社を訪れ、何事もなかったかのように私に挨拶をした。けれど今までとは違うような気がしていた。私には自覚がなかったけれど、多分私の方から表情に出していたのだと思う。マックスさんは段々事務所に訪れる頻度が減り、ついには来なくなった。数ヶ月が経った頃、マックスさんの噂を聞いた。
「表情を豊かにするために、パーツに課金したんだって」
 マックスさんは表情を豊かにしたかったのだ。私が見たくないと思った感情の機微を、マックスさんは出したかった。それがないから楽しく話せると言われたところで、マックスさんは嬉しくもなんともなかっただろう。でも、あのアナログな画面があったから私はマックスさんを好きになったのだ。多分、恋愛の意味で。今更気づくことが、私の対人関係のままならさを何よりも強調している気がした。


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