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影山の通販を代わりに買ってやる話

全体公開 HQ 1 1358文字
2026-06-28 22:59:52

プロ軸

Posted by @tirichann

 プロアスリートほどになっても、すべての買い物を新品で済ませるわけにはいかないらしい。中古でしか買えない何かがあるのか、はたまた中古品が好きなのか、影山くんはフリマアプリをよく使う。フリマアプリでは配送方法が選べるが、欲しいものが匿名配送になっているとは限らない。本名のまま活動している影山くんが、たとえいかがわしいものを買っているわけではなかろうと迂闊に買い物をしたら変に世間を騒がせることになってしまう。前に会った時に自分のアカウントで実名配送の商品を購入しようとしているのを見て、思わず私は「代わりに私が買うよ」と言ったのだった。影山くんはどうして自分が買ったらいけないのかを理解していなさそうだったが、「なら、ハイ」と私に流される形でスマホを閉じた。私が買ってあげたいから買ってあげている、というような感じになっているが、これは影山くんのためである。多分スポンサーにこの話が知られたら私は感謝されることだろう。
 影山くんの荷物は、主に月に数度私の家に届いた。高校時代からの知り合いで家も近く、気の置けない仲(だと思っている)私は代理購入をするのにちょうどよかった。私が影山くんの家に荷物を持って行くと、影山くんは「ありがとうございます」と言って受け取る。料金は貰うべきなのだろうが、直接金をくれと言うのも憚られる。それを気遣ってのことなのか影山くんは私にご飯を奢ってくれるようになった。影山くんの買い物は決して大きい額ではなかったし、高校の後輩の影山くんとご飯を食べるのは私も楽しかった。デートのようだとも思ったが、これは代理購入した額の分食費を浮かせてくれているだけだ。一人暮らしには有難い。それでも影山くんは気にしていたようで、もう恒例になった食事の場で口を開いた。
「いつもすみません。毎回持ってくるの大変ですよね」
 それを言えば、毎回外食を奢ってくれる影山くんの方が面倒だろう。デリバリーで済ませてもいいのに、毎回違う場所で、おいしいものを食べさせてくれる。
「全然平気だよ。大した距離じゃないし」
「でも」
 影山くんは変な所で律儀だ。さらに頑固なのも知っている私は、この話に終わりがないことを察した。
「そこまで気にするなら一緒に住む?」
 冗談というか脅しだ。これ以上言うなら同棲してやるぞと。影山くんの住所に私の名前で届くなら匿名性もあるし、渡すのもすぐだ。「すみません」と言うかと思われた影山くんは、案外あっさりと承諾した。
「あ、ハイ」
 そのまま何事もなかったかのようにアヒージョを食べている影山くんを見て、私は目を丸くする。影山くんは今、冗談を返したのだろうか。彼にそんなユーモアがあるとは思えない。では本気で合意したのだろうか。
「あの、本気で言ってる?」
「誘ったのはあなたじゃないですか」
 影山くんは同棲することの大きさをわかっているのだろうか。男女が一緒に暮らすのは、もう結婚とかそういうことを見据えての話なのだ。一緒にバレーをする感覚でしていい話ではない。
「私達は付き合ってもないでしょ」
「え?」
 そうしたら今度は影山くんにびっくりされた。私達はいつから、付き合っていることになっていたのだろう? 今晩は長そうだ。性的な意味ではなく、対話が必要だという意味で。


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