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甘いうちに召し上がれ

全体公開 神無三十一受け 17 2012文字
2026-07-05 18:16:39

カルみと 甘い話
シナリオネタバレあり

 

 インターホンを鳴らして、玄関扉の前に気配が駆けてくるまでの時間が、縞斑は好きだ。
 玄関のセンサーライトが灯って見慣れたシルエットが映し出され、その影が扉に近づくまでの胸が踊る感覚を、きっと人は幸福と呼ぶのだと思う。
 そんなことを考えている間に扉がゆっくりと開いて、嬉しそうな顔をした恋人が縞斑のことを出迎えた。

 「先輩いらっしゃい!」
 「こんばんは、神無ちゃん」

 明日は休みだと連絡をくれた神無に合わせて仕事に余裕を作った縞斑は、今夜から明日に掛けてを彼と共に過ごす約束をしたのだ。
 仕事を終えて部屋着に袖を通した神無は気の抜けた様子でふにゃりと笑うと、扉を閉めて廊下に上がった縞斑に両手で抱きつく。
 すりすりと子猫のように擦り寄る可愛らしいスキンシップを受け入れて抱きしめ返した縞斑はふと、そんな彼からふわんと甘い匂いがすることに気がついた。

 「神無ちゃん、ひょっとしてお菓子作ってた?」
 「え、わかる?」
 「うん。チョコレートの甘い匂いがする」

 抱きしめた神無の体からは、ミルクチョコレートの甘い匂いが漂っている。
 チョコレート系のスイーツを作っていたのだろうと推測して言い当てれば、神無は驚いたように目を丸くして笑った。

 「正解!今日帰りにお店で安くなったチョコレート見つけて、せっかくだから色々作ってみたんだー!」
 「なるほどね。うん、確かにいい匂い」

 帰宅の道中に寄ったスーパーで賞味期限が迫るからと安売りしていた製菓用チョコレートに目をつけた神無は、そのまま食べてしまうのはもったいないと様々なスイーツに挑戦したらしい。
 きっとキッチンや冷蔵庫にはたくさんのチョコレート菓子が並んでいるのだろう。甘いものが大好きな彼らしい話だと縞斑が笑っていれば、腕の中の神無が顔を上げた。

 「ね、先輩も食べる?甘さ控えめのやつ作ったよ!」

 神無が自分用のお菓子を作るのに砂糖を控えるなど考えられない。おそらく、これから家に来る縞斑の食べる分を分けて作ったのだろう。
 恋人が自分のために作ってくれたお菓子を断る理由などもちろん無いが、今の縞斑にはそれ以上に魅力的な存在が目の前にあった。

 「んー……もちろんそっちも頂くけれど、今は神無ちゃんがほしいかな」
 「え?」

 ぱちくりと目を丸くした神無の顎に手を添えて上を向かせると、呆けた唇に自らのそれをそっと重ねる。
 驚いた彼は反射的に唇を閉じようとしたようだが、それより早く縞斑の舌先が神無の口内をくすぐった。

 「ん……ぅ」

 小さなくぐもった声が漏れて、縞斑に縋る両手にぎゅっと力が籠る。
 赤い顔で目を閉じて震えている神無の相変わらず初々しい反応を小さく笑った縞斑は、彼の息が切れる前にそっと唇を離した。

 「ぷは、っ」
 「……やっぱり甘い」

 堪能した神無の口内からは、甘く蕩けるようなチョコレートの味がする。
 それを確かめるためにキスをしたのだと理解した神無は、まだ少し荒い呼吸のまま涙目で縞斑のことを睨んだ。

 「たくさん味見したの?」
 「ちょ……ちょっとだけだし」
 「そう?でもこんなに美味しいけど」

 小さなリップ音を残して触れるだけの口付けを落とすと、再び至近距離でふわりと甘い匂いが漂う。
 試しに彼と触れ合っていた自分の唇に舌を這わせれば、その場所には神無から移ったらしいチョコレートの残り香があった。

 「ねぇ神無ちゃん、食べてもいい?」

 俯く神無の赤い耳に唇を寄せて、甘い熱を孕んだ声でそう囁く。
 びくりと大きく肩を跳ねさせた彼は、緊張と期待の入り混じった顔で縞斑のことを見上げた。
 縞斑の言葉に主語はない。けれど、どちらを先にしたいかなんて聞かなくても分かっている。

 「う……ええと、その、」

 しばらくうろうろと視線を彷徨わせて返事に悩んでいた神無は、やがて意を決したようにぎゅっと目を閉じると縞斑の手を引いた。
 僅かに身を屈めれば、神無から唇が重なる。触れた柔らかく甘い香りと感触に縞斑が目を細めていると、離れ際に縞斑の唇を軽く食んだ神無が呟いた。

 「……甘いうちに、どうぞ?」

 許しを得た縞斑は、悟られないようにこくりと小さく喉を鳴らすと神無が羽織っていたパーカーを廊下へと落とす。
 いつもならベッドが良いと唇を尖らせる彼だったが、機嫌の良い今日は珍しくこの場所でも構わないらしい。
 彼の気が変わる前に非日常の甘味を堪能しようと心に決めた縞斑は、誘惑に導かれるままに神無を強く抱き寄せてその唇に噛みついた。

 どうやらこのあとは、恋人特製のデザートまで冷蔵庫で待っているらしい。
 自ら誘っておきながらすでにいっぱいいっぱいの神無をそっと宥めた縞斑は、なんとも充実した休日だとしみじみ幸せを噛み締めるのだった。



 


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