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手の掛かる奴ほど愛おしい〜キリシタンすり抜け主と肥前忠広〜

2026-07-11 16:26:21

ひぜさにのラブコメ
玉手箱/肥前の報われない片恋の話前提

「ひーちゃんひーちゃん!」
ふかふかのパジャマにバスタオルを引っ掛けただけの格好で、風呂上がりに濡れそぼったままぱたぱたと出てきた彼女に。
甘えるみたいに肩口に頭を置かれ、今日の夜警を担当していた肥前は口から心臓が飛び出そうになった。
「ひーちゃん、ドライヤー掛けて? おねがいっ」
「──ッ…………っ!!!」
本人はそう無邪気に笑っているが、そんな彼女に肥前は絶賛片想い中なのである。
湯上がりの本人に背を向けてできるだけ見ないようにしていたというのに、本人の方から寄ってきて甘えてくっついてきてこれである。
絶句したまま無言で意味も無く口を開けたり閉めたりしていた肥前は、最終的に天を仰いで声にならず音を成さないまま、ものすごく何かを言いたげにぷるぷると全身を震わせた。
「おま、ほん、ほんっと、こんのおれに感謝しろよっ!!」
「? うん、いつもありがと!」
ばかやろう違う、そうじゃない。と言いたいのは山々だが死ぬほど努力して飲み込んだ。
さっさとこいつの要望に沿わないと恐らくいつまでもこの体勢である、ということをしっかり察した肥前は
観念したようにドライヤーを引ったくって、この苦行からさっさと逃れるために最大風量にスイッチを引き上げた。

……お前、いつもこんな感じなのかよ」
「? うん」

そう無邪気に頷いて、熱風に髪を乾かされながら、肥前の片恋相手は、とろけるように幸せそうにしている。
適当なところで雑に切り上げればいいのは分かっているのだが、脇差の気性の細かいところがつい出てしまい、丁寧にヘアスプレーを入れながら指でほぐし、痛みにくいように念入りに乾かしてしまう。
風呂上がりで赤く上気した無防備なうなじをあまり見ないようにしながら、死ぬほど苦虫を噛み潰したような顔で肥前は髪を乾かし続けた。

……お前、あんま男に髪触らせんなよ」

十も百も文句を飲み下した上で、こういう奴なのだと千も万も自分に言い聞かせてから
いくらなんでもさすがにこれぐらいは忠告してもいいだろう、と
甘い動悸と悋気に脳を焼かれてぐっちゃぐちゃにされながら、肥前は最終的に、喉から絞り出すような心地でそう口にしたのだが。

きょとん、とこちらを見上げた彼女は、肥前の心をつゆ知らず、無慈悲にも速攻でこう言った。

「え、やだ」
「やッ!?」

あまりにもにべにもなく拒否され、肥前は頭にたらいを落とされた気分だった。

「お、お前なあ! おれは真剣に!」
「やだ、ヤダヤダヤダ」

肥前の手の中で、子供のように駄々をこねる奴の髪が、踊る。
雑に洗う固い自分の物とはまるで違う、絹糸のように滑らかな濡れ羽の黒髪から、香りがして眩暈がするようだった。

「やだ、やだもん、だって」
ガキのように膨れていたこいつの表情が
やがて鏡の中でみるみる内に、ひどく哀しそうに萎んでいくので
「だって……

肥前は、あ、と途中で手を止めて、
自分が何かを間違えたことを知った。

「〜〜っ、あ゛〜!」
盛大に舌打ちした肥前が、わしゃ、と片手で掻き回すように撫でくりまわしたので
彼女は不意を突かれたみたいにきょとんとして、がしがしと己の髪を掻き上げる肥前を見上げた。

「んだよ、んな顔すんなよ。嫌とは言ってねーだろうが!」

ばさ、とバスタオルが乱暴に被せられて、顔をベシッと覆われた彼女が「ぶへ」と間の抜けた声を上げた。は、間抜けヅラ。
ふんと鼻を鳴らした肥前が、片手でわしゃわしゃと撫でる。まるで、悪かった、と不器用に言うみたいに。

「理由あんなら、言えよ」
……だって、だって、……かしゅーが、……みんなが、はじめて、だったんだもん……

べそ、としょぼくれた顔で、やがて消え入りそうな声を出した彼女に
肥前は、彼女の過酷な生育環境を思い出し、察し良く状況を素早く把握してしまった。

初めて、だったのだろう。
掴み上げられることもなく、引きちぎられることもなく、怒鳴り散らされることもなく
ただ、髪を拭かれ、乾かされる、そんな。

ああ、こりゃ甘やかした初期刀達れんちゅうにも非があんな、と。
心の中できっちりクレームを入れてから、ぶつくさ文句を言いつつ、仕方が無いので最後まで乾かしてやった。しおれた能天気な笑顔が戻るまで。

笑った顔が見たくて、しょぼくれれば落ち着かなくて
柄にもなく一喜一憂して、結局、振り回されるのが嫌ではないのだから、我ながら世話は無い。
「あー、ほんっと、手が掛かるヤツ」
声に無意識に甘さが乗ったのは、聞かなかったふりをした。
「ふへへ」
こいつにはまだ、必要なことなのだろう。
肥前は、惚れた弱みを自覚している。


ところで、後日。
例の「鶴丸国永が適当な嘘で騙くらかして風呂場に入り込んでは髪を洗ってやっていた件」について知った肥前は。
形容し難い顔でブチギレて「あいつの零距離ああはテメエのせいかよ!!!!」と叫びながら本気で鶴の首を落としにかかったのだが
その一悶着に関してだけは本丸の誰も鶴丸の味方をしなかったので、あわや本当に首を落とされそうになって鶴丸は必死に逃げ回ったのだった。

◇ ◇ ◇




◇ ◇ ◇


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