@tmtm_0216
「ちょ、ちょちょちょ千空ちゃん、急に何!?」
「うるせぇ、つべこべ言わずにちょっと付き合え」
「横暴ドイヒー!」
宇宙から帰還して、船から地上に降り立った直後―千空はゲンの手首を掴んで、有無を言わさず歩き出した。人々は偉業達成の喜び沸いていて、少しくらいであれば、姿が見えなくなったところで誰も気には留めないだろう。困惑しきった表情を浮かべてはいたものの、ゲンが本気でストップをかけてこない理由も、それを分かっているからだ。だから千空も遠慮することなく、人気がすっかりなくなった辺りまで歩いたところで、足を止めて振り返った。
「ジーマーでどうしたの…っていうか千空ちゃん、この後検査とか色々あるんじゃないの?重力の関係で、骨とかバイヤーになるんでしょ?大丈夫なの?」
「見ての通りお元気いっぱいだ。石化の効果で、体へのダメージはそうでもねぇんだわ。ホワイマン様様だな」
「な、ならいいけどさぁ…」
千空の言葉を聞いて、ゲンの目があからさまに泳いだ。つい先程その口が紡いだのが、ゲンが自分を保つための『言い訳』だということを、千空は理解している。それを崩してやりたいと思うのならば―やるべきことは、既に決まりきっていた。
「俺は元気で、周りには誰もいねぇ。そんで今、テメーの目の前には、無事に帰ってきた俺がいる」
「…っ、せん、くう、ちゃん…」
「なぁ、ゲン。俺はテメーの、勝ち馬になれたかよ?」
丁寧にひとつひとつ理由を潰して、まっすぐ夜の色をした瞳を見つめながら、千空は言う。それが大きく見開かれて、じわりと滲んでぼやけていく様を、一瞬たりとも見逃さないように注視した。眼前に存在いているのは、メンタリストとしての仮面を外した、ありのままのあさぎりゲンの姿。それを見ることが出来た瞬間、千空は確かに、心の何処かが満たされたような感覚を抱いた。
「なっ…れたに、決まってるじゃん…!」
「クク、なら重畳。しっかしひでぇ顔だなぁ?」
「千空ちゃんがそうさせたんだよ、も~~~~…!!」
例えば出発の直前、絞り出すように口にした『大丈夫』という言葉。例えばつい先程見た、預けていたケープを、強く握りしめていた指先。…そして今、ぼろぼろと涙を零しながら、此方を抱き締めるゲンの体温。ああ、この場所に、漸く帰ってきたのだと―そう思えば、千空の視界も、じわりと透明なもので滲んでいく。それでも口元はゆるみ、勝手に笑みが零れていくのだから、どうにもこうにも不思議だった。
「お帰り、千空ちゃん。…本当に、無事でよかった」
「あ゙ー、そうだな」
至近距離で顔を覗き込まれて、溢れた涙を拭うこともなくゲンが言う。普段のゲンならば絶対に見せたりしないその表情を見ることが出来て、千空は心の底から嬉しいと思った。それは柔らかな光を放つ奇跡であり、途方もない幸福なのだと、痛いくらいに知っている。ただいま、ゲン―遠い遠い旅の終着点、何よりも大切な存在に向かって、千空は再び口を開いた。